業界トップクラスの実績を持つ千葉のマンション管理士 事務所所長 マンション管理士 重松秀士が、マンション管理 コンサルタントならではのお役立ち情報をお届けします。 携帯版
こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
国土交通省(以下「国交省」)が公表している「マンション標準管理委託契約書」はみなさまご存じのことと思います。ほとんどの管理会社がこれを基本にして管理組合と管理委託契約を締結しています。
しかし、国交省が作成したこのモデルに、管理組合のリスク管理上、見直しが必要と思われる重要な点があったことに気が付きました。
今回は、最近私が経験した管理会社変更事例において、管理組合と共にたいへんな思いをした事例をご紹介しながら、管理委託契約書の条件の一部見直しを提案したいと思います。
なお、文中記載の条文番号は、都合上「標準管理委託契約書」の条文番号を引用しています。
対象物件は都内23区内の一等地にあるマンションです。
竣工当時は別の管理会社が管理していましたが、紆余曲折を経て最終的には大手の管理会社が管理していました。
大手の管理会社ではあるものの、実は日常の対応にかなり問題があり理事会は手を焼いていたようです。
そこで、適切な管理組合運営を目指してマンション管理士の導入を検討され、面談等の選考プロセスを経て、複数のマンション管理士事務所の中から当事務所が選ばれました。
その後2020年の通常総会決議を経て業務を開始しました。
理事長のご指摘の通り、管理会社の対応にはかなり問題がありました。
いくつか象徴的な事例を挙げてみます。
管理会社提案の植栽管理に満足できなかったため、理事長がインターネットで別の植栽業者を見つけ、その業者の提案内容を理事会で報告したところ、あろうことか管理会社が現在出入りの植栽業者にその情報と内容を全て漏洩してしまいました。
これは明らかに守秘義務違反(第16条1項)です。
これだけではありません。
管理会社からそれを聞いた出入りの植栽業者が、提案をした植栽業者に電話して恫喝したことが判明しました。
私も同席の下、管理会社とオンラインで協議し、出入りの植栽業者を「出禁」としました。
異常発報がきっかけで、排水設備の点検報告書が約20年間提出されていないことが判明しました。
フロントマンに点検の実施内容を聞いてもきちんと答えられず、そもそも点検をやっていないのではないかと疑いたくなる状況でした。
幸い異常発報は「誤報」であり、点検自体も行われていたようですが、点検後の報告書提出を要請し、その後はきちんと報告書が提出されるようになりました。
顧問契約後、最初に相談を受けたのは電気設備の更新工事でした。
管理会社主導で複数の工事会社から見積りを取得済みだったのですが、私から見たら明らかに金額が高く、しかも各社の見積額ほぼ横並びで、管理会社主導で談合をさせている可能性が濃厚でした。
もしそうなら、善管注意義務違反(第5条)に相当します。
談合の証拠は見つからなかったものの、別の会社から見積りを取得したところ、全く同じ機種と仕様でほぼ半額でした。
幸い、本工事について管理会社とはまだ契約前だったので、契約先を変更することにより大損をしないで済みました。
火災保険の付保状況を確認したところ、再調達価額の100%を保険価額として契約していました。
マンションの火災保険はほとんどの場合「新価実損払い※1」なので、過去の保険事故の事例(支払金額)からしても100%付保する必要はありません。
当該マンションの再調達価額を考慮すれば30〜60%で十分なはずでしたので、その点も含めて再検討を進言・提案し、最終的には当事務所の新木マンション管理士の診断の下、大幅に保険料を下げることができました。
その後も理事会で約束したことを実施しなかったり、約束した納期を守ってくれなかったりが多かったので、担当者の上席を通じて、改善を申し入れました。
申し入れの結果、フロント担当者を変更してくれました。
変更後のフロントマンは、まじめな青年できちんと対応してくれたし、理事会との約束事項も必ず納期通りに実行してくれましたので、理事会は、やっと業務が順調に進みだしてほっとしました。
しかし、喜びも束の間。
それから約半年ほどで、そのフロントマンが退社してしまいます。
その後は、上席自らが本マンションの担当者となり業務対応をしてくれましたが、残念ながら、改善するどころかまた昔に近い状態になってしまいました。
そして、また問題が起こりました。
かねてから検討していた長期修繕計画見直しの承認と修繕積立金の値上げを臨時総会に諮り、議案は承認されたのですが、改定された修繕積立金を、決められた徴収開始時期から徴収できない事態が起きたのです。
理由を質したら、回答は「失念していました。徴収漏れの差額については来月の引落しに上乗せして徴収する予定です」でした。
長期修繕計画の見直しには、専有部分の給排水管を修繕積立金を使って更新する計画も含まれているので、修繕積立金も大幅に値上げする改定案でした。
そのため事前に説明会も開催し、十分な対応を実施したうえで決定したもので、理事会としては検討段階から多大な苦労の下に進めていた案件であり、組合員にとってもそのための対応が必要となる事案でした。
とはいえ、本件だけを見たら「大した問題ではないのでは...」と思う方もいらっしゃると思います。
組合員に謝罪・説明する手間などは発生するにせよ、普段きちんとやっていただいているならば、理事会も私も同様に思ったはずです。
しかし、前述のように大小様々な対応が積み重なり、そして残念ながら改善の兆しはなく、逆に不信感が増すような状況だったのです。
本件を重く受け止めた理事会は、管理会社の支店長に面談(オンライン)を申し入れ、善後策を検討することにしました。
残念ながら、支店長との面談はあまり意味のない内容となりました。
徴収漏れに関する件での組合員に対するお詫び文書の内容に関しては一応の話し合いができましたが、それ以外の不祥事に関する業務改善対応に関しては、何を話しても「今後気を付けます」を繰り返すのみで、細かなところを質問すると最後は「逆切れ」状態で「逆にどうすればいいですか?」と質問してくるなど、改善に向けた具体的な回答や提案等は示されませんでした。
また、業を煮やした理事長から、「(これだけ不祥事が続いても一向に改善する気配がないということは)当管理組合とはもうお付き合いをしたくないという意味ですか?」と確認したところ、「そのようなことは考えていません」との回答でしたので、改善される余地はゼロではないと、僅かながらの期待を残して面談を終えました。
しかし、その僅か数日後、事態は急展開するのです。
支店長との面談から数日後、その支店長から一通のメールが届きました。
メールの文面は簡単な内容で、「来年(2022年)6月が契約満了の管理委託契約を、管理委託契約第19条の規定に基づき、本年12月31日をもって契約を終了する。正式書面を追って送付する。」というものでした。
突然の契約解除の申し入れです。
契約書19条は、3か月前に書面で申し入れることにより、双方からいつでも契約を終了させることができる規定です。
メールが送られてきたのは9月10日なので、契約終了までの期間は3か月と20日。契約書の条文には違背していません。
それからさらに数日後、今度は社長名で正式書面が送られてきました。
管理会社の仕事ぶりから、いずれ再リプレイス等の事態になる可能性はあり得ると感じてはいましたが、先日の面談での回答もあり、私自身このような申し入れが来るとは予想できず、かなり戸惑ったことは事実です。
そして今回は、契約書に基づく管理会社からの申し入れなので、理事会としてはどうしようもなく、受け入れるしかありませんでした。
理事長から相談を受けた私は、直ちに今後のスケジュール表を作成し、
①新管理会社の選出
②組合員への説明会
③臨時総会
④管理会社の新旧引継ぎ
までを確認しましたが、どう考えても3か月では厳しく、無理なく通常のプロセスを経て行うには、6か月は必要だと思いました(下表参照)。
よって理事会は、当時の管理会社に対し、最低限の業務、つまり会計・出納・管理員・清掃・設備の法定点検だけは更に3か月延長するように申し入れましたが、管理会社の回答は「一切応じられない。契約書に基づき12月31日に契約を終了させる」というものでした。
ここでよく考えてみたいと思います。
標準管理委託契約書第19条(解約の申入れ)は、契約期間に関わらず双方から(管理組合側からも管理会社側からも)契約終了の申し入れができる規定です。
(解約の申入れ)
第十九条 前条の規定にかかわらず、甲及び乙は、その相手方に対し、少なくとも三月前に書面で解約の申入れを行うことにより、本契約を終了させることができる。
出典:国交省 マンション標準管理委託契約書
管理組合側から契約終了を申し入れる場合は、管理組合内でしかるべき準備(次期管理会社の内定や住民説明会の実施等)を整え、更に総会の決議をもって初めて契約終了を申し入れることになります。
ですから、管理会社に契約終了の申入れをしてから終了するまでの3か月間で、次期管理会社としっかり引継ぎをすることが可能です。
しかし、管理会社から突然解約を申し入れられると、それから3か月間で上記「①新管理会社の選出」から「④管理会社の新旧引継ぎ」までの作業や手続きをすべて実施しなければならず、どう考えても通常のプロセスではできそうにありません。
最近は、委託業務費の金額交渉がうまくいかなかったり、一部の居住者の対応に追われ管理員やフロントマンの業務が円滑に遂行できないなどの理由で、管理会社からの契約解除申し入れも散見されるようになりました。
ただ、私の過去の事例を見ても、契約書では3か月となっていても管理組合から延長の申入れがあると最低限の延長には全ての管理会社が応じていましたので、今回の管理会社の対応は、大手管理会社だという点、企業の社会的責任という観点からも大変残念に思います。
しかし、実際にこのような事が起こったことをふまえると、マンション管理委託契約書第19条(解約の申入れ)の契約解除の予告期間を見直す必要があると思いました。
具体的には、契約解除の予告期間を、乙(管理会社)から申し入れる場合は、少なくとも6か月とするように交渉したほうが良いと思います。
先行きがとても不透明な時代になり、事業の撤退等、今回とは違う形での契約解除申し入れの可能性もあるかもしれません。
どのような理由にせよ、もし実際に3か月前に契約解除の申し入れがあったら・・・と、現実的に起こった際を想定し、リスク管理の一環として委託契約書の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。
このような事態に陥った管理組合の混乱状況は、おそらくご覧になっている多くの方々にご理解いただけると思いますが、どうにか延長出来ないものでしょうか?
本件に関する公的機関・弁護士の見解は以下の通りです。
私が所属しているプロナーズの顧問弁護士に相談したところ、
との助言がありましたが、結論としては、訴訟等をやるよりは双方で話し合うしかないという内容でした。
前述の見解・助言を参考に管理会社に再度契約の一部を延長するよう申し入れましたが、管理会社の回答は変わらず「NO」でした。
理事会はこれ以上の話し合いは時間の無駄と判断し、次の管理会社を選定する作業に入ることにしました。
まずはマンションのグレードやコスト競争力などを考慮し、大手と準大手の中から複数社をピックアップして見積もりを依頼することにしました。
大急ぎで共通仕様書や見積要項書を作成、現地下見と質疑回答を経て見積書を取得。
金額や提出資料、提案内容などを考慮して契約先候補1社を絞り込みました。
本来ならば、1社に絞り込む前に複数社からプレゼンテーションを受けた後に本命の1社に絞り込むのですが、残念ながら今回はそこまでの時間はとれませんでした。
理事会は、絞り込んだ1社からプレゼンテーションを受け、フロント担当者とも面談して大きな問題はなさそうなので内定とし、説明会及び臨時総会に諮ることとしました。
メールで契約解除通知を受け取ってから、ここまで約1か月半。
次期管理会社を内定するまでに至りました。
理事会では、本件に関する協議・意見交換をほぼ毎日のように実施していましたので、当時の苦労(苦悩)は、計り知れないものだったと思います。
次は、組合員に対する説明会の開催です。
事案が重大な案件だけに、事情を組合員に説明し、臨時総会開催への理解を求めることが主な趣旨です。
理事会と管理会社で説明会資料を作成し、コロナ禍を考慮しオンライン形式で実施しました。
参加者は多くありませんでしたが、事前に全組合員に説明会資料を配布し、質問がある場合は書面で受け付けるべく対応しました。
当日、「管理会社に無理な要求をしすぎたから管理会社が手を引いたということは考えられないか?」という質問が出ましたが、監事と私からそうではない旨を説明し、理事会から管理会社に要望した事項として、以下の2点を回答しました。
普通にお仕事をされている方々であれば、社内外を問わず、ごく日常的にある常識的な範疇の内容であり、いずれも決して無理な要求ではないことがお分かりいただけるのではないでしょうか。
まずは臨時総会の準備です。
議案書作成は現在の管理会社に依頼できないので、理事会と当事務所で対応して配布しました。
9月10日に契約解除通知のメールを受信し、12月19日に臨時総会開催です。
管理会社変更の議案は、普通決議ですので可決することは間違いないと考えていましたが、総会承認前に新管理会社候補を交えた引継業務を開始することはできないので、引継ぎに必要な資料のうち、管理組合と当事務所で確認できる物は極力事前に確認する作業を行いました。
総会はリアル形式で開催しましたが、出席者全員の賛成により議案は可決しました。
臨時総会終了後から直ちに新旧管理会社で引継ぎ作業を開始し、旧管理会社との契約が終了する12月31日までには引き継ぐべき鍵の確認と警備関連の転送機の切り替えまで無事完了しました。
警備会社が新旧管理会社間で変更にならなかったことも幸いでした。
また、前述の通り、引継書類等の確認作業は、臨時総会で承認されてから新管理会社が実施するのでは間に合わない可能性が高かったので、事前に理事会と当事務所で確認作業を進めておいたことも奏功したと思います。
なお、本件の対応に際しては、急を要する上に僅か3か月という短期間で遂行しなければならず、無駄な時間をかけられなかったので、私の他に新木マンション管理士にも担当として、選定作業から議案書作成・引き継ぎまで、様々な実務と理事会のサポートにあたってもらいました。
私一人ではとても対応出来ませんでしたが、お陰で何とか無事引き継ぎまで対応することが出来ました。
これまで数々の管理会社変更を経験し、その中には、管理会社から契約解除を通知してきた事例もありましたが、本件のような酷い事例は初めてで、繰り返しになりますが、今後は管理組合側も管理委託契約書の契約解除の条件について、よく考えておく必要があると強く実感しました。
そして今回、このような酷いことをした管理会社は無名の業者ではなく、業界でも大手に入る著名な会社です。
少し前までは、管理会社から契約を更新しない、または途中で解約するということはあまり考えられませんでしたが、最近は少なからず耳にします。
背景には、管理会社のリプレイスによる競争、委託業務費の金額交渉などを行う管理組合が増えたことに加え、人件費の高騰があり経営が厳しくなっていることなどが考えられますが、大手の管理会社でさえこんな対応を取るのですから、十分注意された方が良いと思います。どうぞお気を付け下さい。
マンション管理コンサルタント マンション管理士 重松 秀士(プロフィール| )
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