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エレベーターのリニューアル(交換・改修)2~制御リニューアル実施事例とポイント

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2018年09月08日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。

前回に続きエレベーターのリニューアル第二弾です。
今回は、実際に制御リニューアル方式でエレベーターのリニューアルを実施したマンション管理組合の事例を基に、検討・実施時に知っておくと良いポイントをご紹介いたします。

簡単なおさらい(3つのリニューアル方法)

前回、エレベーターのリニューアルは、大きく分けると「フルリニューアル」と「部分的リニューアル」の2通り、そして、細分化すると「①全撤去リニューアル」「②準撤去リニューアル」「③制御リニューアル」の3通りあることをご紹介いたしました。①全撤去リニューアル>②準撤去リニューアル>③制御リニューアルの順に、大がかりなリニューアルになります。
それぞれの特徴をまとめた表を一部抜粋して再掲いたします(諸条件により例外も出てくるので、目安として捉えていただければ幸いです)。完全版は前回記事をご覧ください。

 

フルリニューアル

部分的リニューアル

①全撤去リニューアル

②準撤去リニューアル

③制御リニューアル

概要

全て撤去し、最新のものに総交換

既設品のごく一部を残して交換

※建物に固定されている三方枠、敷居等

制御系の交換・機能追加が中心
三方枠やかご室等は継続利用

建築確認*1

必要

要確認
※必要な場合が多い

一般的に不要
※必要な場合もある

工期

約25〜40日

約15〜25日

約3〜15日

コスト

*1:「建築確認」とは、建築基準法に基づき、建築物などの建築計画が建築基準法令や建築基準関係規定に適合しているかどうかを着工前に審査する行政行為(Wikipedia

「制御リニューアル」実施のポイント

「①全撤去リニューアル」「②準撤去リニューアル」については新設工事とあまり変わらないため、今回は「③制御リニューアル」の事例に基づいてご紹介いたします。

【事例】神奈川県内マンションにおける制御リニューアル

  • 築年数:29年
  • 対象エレベーター数:2基
  • 検討開始から工事終了までの日数:約12ヶ月
  • リニューアル費用:約1,600万円(オプション込)
  • 工期:30日(15日×2基、※製作期間90日)
  • メンテナンス費用(契約):約7.5万円/月(フルメンテナンス契約)

【1】見積り取得時 〜競争原理を働かせてコストダウン

1)共通仕様書の作成+複数メーカーを加えての相見積り

よく、エレベーターのリニューアルには競争原理が働かないといわれます
理由は、他の商品のように複数のメーカーから見積りを取得することが難しいからです。

多くの管理組合は、現在設置してあるメーカーと価格交渉を行い、ほとんどが言い値で発注することになります。現メーカー以外ではリニューアルができないと考えるからです。また、大手メーカーの場合、他のメーカーに見積依頼をしてもまともに取り合ってくれなかったり、同様の高い見積書が出てきたりします。

そのようなことをなくすため、私は、共通の仕様書等を作成し、条件を整えたうえで、複数のメーカーから見積りを取得することをオススメしています。
その上で、各社の提案を含めて比較検討をすることはさほど難しくありませんし、競争原理が働きます。

エレベーターリニューアル工事仕様書と見積要領書

リニューアル工事仕様書(左)と見積要領書(右)

今回の事例では、エレベーター2台のリニューアル工事に関し、当初現メーカーが掲示した金額2,400万円が、最終的に1,600万円まで下がることに繋がりました。最安値を掲示したメーカーよりはまだ高かったものの、その差が少なくなったこと等の理由から、今回は現メーカーを採用することになりました。当初掲示された金額から大幅なコストダウンになり、管理組合様も非常に喜ばれていました。

エレベーター制御リニューアル見積り結果

ちなみに、今回は、結果として現メーカーを採用することになりましたが、リニューアルに際し、他社メーカーを採用したケースももちろんあります。また、大手メーカー製のマンションも多いと思いますが、大手メーカー以外を採用したケースもあります。多くのメーカーが、技術力の向上や組合形式による保証体制の強化などに取り組んでおり、一昔前に比べ、大手メーカー以外も検討しやすい状況になっていると感じています。

なお、分かりやすく「コストダウン」に焦点を当てているため誤解があるかもしれませんが、重松事務所では、管理費削減(管理コストの削減)や大規模修繕工事等と同様、一貫して「とにかく1円でも徹底的に安く」というようなことはしないスタンスをとっています。もちろんオススメもしておりません。問題にすべきは単なる金額の大小ではなく、製品やサービスの内容と支払っている金額が見合っているか(適正か)の判断が最初であり、それを抜きに過剰な要求や競争をさせれば、サービスや品質の低下等、結果的に管理組合に不利益をもたらすことにも繋がりかねないからです。

一方で、このブログでも何度か注意喚起している大規模修繕工事の談合は言うに及ばずですが、「コストダウンの余地があるケース」があちこちで見られるのも事実です。
重松事務所では、管理組合様の状況やご意向をふまえつつ、管理組合側のコンサルタントとしてそのあたりを見極めながら、必要に応じて相見積りを取るようご提案したり、共通仕様書の作成や交渉等を含めた実施サポートをするなど、大切な財産を守り、マンションの資産価値の維持向上に貢献できるようサポートしています。

見積り取得のポイント①

  • 共通仕様書を作成し、比較検討しやすいように条件を整える
  • 複数のメーカーから見積りを取り、競争原理を働かせる

2)メンテナンス費用の見積り(ランニングコストの検討)

見積りを取得する際に注意していただきたいのは、設置(工事)価格にばかり目がいってしまわないことです
本体の設置(工事)価格だけでなく、設置後の保守点検費用(メンテナンス費)も併せて見積もってもらい、ランニングコストも含めて検討することで、より良いリニューアルに繋がります。本体工事が安くても、その後のメンテナンス費用が割高であれば、長期間で見たトータル金額では逆転する場合もあります。

エレベーターリニューアル工事とメンテナンス費用のトータル金額推移

最初にメンテナンス費も確認しておくことで、正しい判断が可能になるのです

また、メンテナンス契約には、大がかりなものを除く部品交換費用をあらかじめ含めた形で契約する「フルメンテナンス(FM)契約」と、(一部の)Parts・Oil・Greaseの費用のみを含めて契約する「POG契約」があります(それぞれについては後述「5.エレベーターの保守(メンテナンス)」参照)。単純に金額だけを見ると前者の方が高くなりますが(今回のケースでは概ね1.6〜1.8倍程度高い金額でした)、どちらの契約が適しているかは、個々のエレベーターの状態やマンション事情をふまえて判断する形になります。

今回のケースも、制御リニューアル工事費用に加え、メンテナンス契約内容やメンテナンス費用等をトータルで比較検討し、最終的に現メーカーのフルメンテナンス契約に決定いたしました。

見積り取得のポイント②

  • メンテナンス費用の見積りも取得し、長期的視野で判断する
  • 金額だけでなく、契約形態(内容)を理解した上で検討する

3)その他注意事項

安さだけで選ばない
大規模修繕工事と同様ですが、継続してメンテナンスが必要になりますので、サポート等を含めた長期的視野での検討が必要です。
竣工時の書類も、あらかじめ確認
管理組合がデータをきちんと管理できるよう、竣工時に引き渡していただく書類等も、見積り依頼の際に指示しておいた方が良いでしょう。当事務所の場合は、①電気図面、②調整マニュアル、③エラーコード表なども提出してもらうことにしています。

【2】既存不適格への対応(建築基準法への適合) 〜何をどこまでやるか

エレベーターのリニューアルは、建築基準法への適合も考慮する必要があります。

「制御リニューアル」の場合は一般的に「建築確認」が不要ですが、「制御リニューアル」の範囲で現在の建築基準法にすべて適合させることは難しいので、「どこまで対応するか」という問題があります。今回のケースも、現状の仕様を確認した上で検討が必要な項目を洗い出し、検討していただきました。
安全性の問題などで必ず対応せざるを得ない項目と、費用対効果を考慮して検討する項目がありますので、以下にご説明いたします。

※「建築確認」とは、建築基準法に基づき、建築物などの建築計画が建築基準法令や建築基準関係規定に適合しているかどうかを着工前に審査する行政行為(Wikipedia

1)既存不適格とは

エレベーターが設置された当時は法律(建築基準法)に適合して設置されたものの、その後法律が改正されたために最新の法律に適合しなくなった状態を「既存不適格」といいます

法律が変わったらその法律に適合させなければならない(これを「遡及(そきゅう)」といいます)のが原則ですが、建物やエレベーターはそう簡単に適合させられないため、「現在の法律には不適合だけれども当時の法律には違反していないので認める(処罰はしない)」という考え方です
ですから、今回の事例のような「制御リニューアル」ではなく、「全撤去リニューアル」や「新設」等で「建築確認」を申請するときは、現在の法律に適合させる必要があります

既存不適格とリニューアルのポイント

  • 設置当時は建築基準法に適合していたが、法改正により適合しなくなった状態のことを「既存不適格」と言う。現行の建築基準法には不適合だが、処罰はされない。
  • リニューアルに際しては、単なる老朽化対策としてだけではなく、建築基準法への適合や資産価値向上の面も含め、どこまで対応するかを考慮する必要がある。
  • 「制御リニューアル」ではなく「全撤去リニューアル」や「準撤去リニューアル(要確認)」の場合は、建築基準法に適合させなければならない

2)安全性からの観点

数年前の竹芝の死亡事故以来よく話題となるのが「戸開走行保護装置」です。
この機能も含めてエレベーターの安全性については後述「3.エレベーターの安全性」もご参照いただければと思いますが、建築基準法で義務づけられている装置のため、リニューアルの場合は必ず対応しているようです。また、同様に建築基準法で義務づけられている「停電時自動着床装置」と「P波センサー」も、ほとんどの管理組合が対応しています。

安全面のポイント

  • 戸開走行保護装置(扉が開いたまま動作しないための対策)
    制御回路の故障等で扉が閉まる前にかごが動き始めた場合に、緊急で停止させる装置のこと
  • 停電時自動着床装置(停電対策)
    エレベーターの電源が停止(停電)した場合に、本体設置のバッテリーが作動し、最寄りの階に自動停止して扉が開放される装置のこと
  • P波センサー(地震対策)
    地震の初期微動(P波)を感知して地震時管制運転装置に移行させるセンサーのこと

3)耐震基準への対応

耐震基準の変遷については後述「4.エレベーターの耐震性について」にまとめましたが、最新の基準は東日本大震災を受けて改正された「14耐震」です

この「14耐震」では、本体の構造と構造計算方式を定めているため、適合させようとすると詳細な構造計算が必要となります。現行のメーカーであれば、設置した当時の構造部材のデーターを保管していますので比較的対応が容易ですが、そうでない独立系メーカーが対応しようとした場合、当時のデーターを持ち合わせていないため、それなりにコストがかかってしまいます
もちろん、計算の話だけでなく、釣合おもりが脱落しないような構造であることが求められますし、エレベーターの古さによっては、レールからのカゴ脱落防止策など「14耐震」以前の耐震基準への対応検討も必要になりますので、耐震基準対応については費用対効果を考慮して選択することになります。

耐震性対応のポイント

  • 最新基準では詳細な構造計算が必要で、独立系メーカーが対応する場合はコストがかかる。
  • 古さによって最新基準以前の検討も必要なので、費用対効果を考慮して対応する。

【3】その他の考慮機能や工事

建築基準法により義務づけられているものではありませんが、リニューアル時に付加する機能として多く採用されているものに「マルチビームセンサー」があります

ドア部にセンサーを設置することにより、ドア部を遮る障害物(手、足、買い物袋等)があるとその間は扉が閉まらないため、お年寄りや車椅子を利用している方などが安心して乗り降りすることができます。金額的にもリーズナブルな価格で対応可能です。

また、同様の目的のちょっとした改善として、かご内(エレベーター本体内)の手摺りや鏡の設置などもあります。

その他、昨今の新築マンションやオフィスビルではよく見かける防犯カメラの設置、照明器具を明るくする(天井部分の交換)、見た目をきれいにする内装・外装シートの交換(三方枠部分やかご室内外のシートの貼り替え)なども、オプションで対応可能な場合がほとんどだと思います。必要に応じてご検討いただくと良いと思います。

【4】工事期間中の対応 〜エレベーターが使えない時どうする?

工事期間中、エレベーターが使用できなくなる期間の住民対応は、あらかじめ検討しておく必要があります

エレベーターを全く使えない期間が生じる場合もある!

複数のエレベーターがあり、マンションも開放廊下型の場合は、順番に工事を進めていけば工事期間中であっても原則として1台のエレベーターは使用可能です。今回の事例でも、2台のエレベーターを順番に行うことで、工期はその分15日×2=30日となったものの、全く使えない状態がなく進めることが出来ました。

しかし、エレベーターが1台の場合や、複数であっても階段室型等のマンションの場合は、工事期間中はエレベーターが全く使用できなくなりますので、そのような時の居住者対策も検討しておく必要があります。

過去の案件では、「工事期間中は旅行に行ってしまおう」とか「ホテルに行こう」という方もいらっしゃいましたが、マンションそれぞれの階数や戸数、区分所有者の状況等々の事情がありますので、費用対効果の面も考えると「この方法が絶対!」というものはありません。

公平な対応策と徹底した周知を!

過去に実施した対応の一つとして「階段昇降補助(いわゆる「剛力さん」)」というものがあります。
管理組合が補助作業員と契約し、居住者の①階段昇降の補助、②買い物荷物等の運搬、③ゴミ出し支援等を行うものです。
契約人数、対応可能範囲等によって金額も異なりますので、どこまでをやっていただくかをあらかじめ決めておき、居住者に周知するなどしてみんなが公平に利用できる体制をとる必要があります

階段昇降ケア対策Q&A

また、Q&A集などを作って居住者に配布するとよいと思います。

大規模修繕工事や給排水管更新工事でも、工事内容やマンションの状況によってはイレギュラーなケース(不公平感が発生するケース)が発生します。特定階や特定の人達にのみメリットが(多く)生じる工事や、既に特定世帯では対応してしまっているようなケースです。
エレベーターリニューアルも、前述の階段昇降補助であれば、高層階の人や高齢の方、体の不自由な方、また、頻繁に昇降する機会がある方や小さいお子さんがいるご家庭、妊婦さん等ほどその恩恵を享受できるものですし、マンションによっては、1階居住者にはほとんどメリットはない(使用しない)設備ですので、その必要性や工事期間中の対応・騒音問題等も含め、様々なことに注意を払いながら、居住者全員に理解してもらえるように努める必要があります。

製品・メーカーによっては、完全停止期間ゼロで工事が可能

なお、三菱製エレベーターの一部(1990〜1997年頃製造された該当製品)や日立製エレベーターの一部(1986年以降に製造された該当製品)では、完全停止期間ゼロ(工事期間中、全くエレベーターを使えない日が生じない)で対応可能とのことです。

いかがだったでしょうか。
マンションの高経年化に伴い、これからはエレベーターのリニューアル工事が多くなって くると思いますので、みなさま方のご参考になれば幸いです。

もっとよく理解したい人のための「エレベーター基礎知識」②

前回「1.運行速度」「2.ロープ式と油圧式」に続き、今回の内容に関連した「3.エレベーターの安全性」「4.エレベーターの耐震性」「5.エレベーターの保守(メンテナンス)」について、ご紹介いたします。

3.エレベーターの安全性

落下や天井への衝突防止対策

昔の映画などでは制御不能となったエレベーターが急速に落下したり上昇したりして、私たち観客もハラハラ・ドキドキさせられましたが、それは映画の世界だけの話です。
実際は、電気的にはリミットスイッチが床と天井付近に複数設置されており、危険ゾーンをかごが通過してリミットスイッチが反応すると、電気的にブレーキがかかる仕組みになっています。また機械的には、かごとロープで繋がっている調速機(ガバナマシン)があり、かごが異常な速度で運行すると調速機の回転速度があがり、最後はかごに設置された「クサビ」が作動してエレベーターを強制的に停止させるようになっています。

停電対策

<停電時自動着床装置>
エレベーターの電源が停止(停電)した場合は、本体に設置されているバッテリーが作動し、最寄りの階に自動的に停止して扉が開放されますのでその間に降りる(避難)ことができます。その後、扉が閉まりかご内の照明も消えますが、電気が復旧すると自動的に運転を再開します。

地震対策

<地震時管制運転装置>
地震感知器が震度5弱以上の地震を感知すると、最寄り階に停止して扉を開放しますのでその間に避難することができます。
この場合は地震が収まっても自動復旧することはありませんので、専門の保安員がマンションに到着し、安全を確認してから復旧作業を実施します。ただし、最近は大きな地震でなければ監視センターから遠隔操作で復旧できる場合もあるようです。

なお、地震による揺れや地震感知器の設置場所などの関係から、「震度〇」でエレベーターが停止すると断定できませんが、概ね震度5弱程度で最寄り階に停止します。

<P波センサー>
一般的な地震感知器はS波(主要動)を感知して作動しますが、地震の初期微動(P波)を感知して地震時管制運転装置に移行させるセンサーです。地震の初期微動で作動しますので、閉じ込め事故がさらに少なくなります。

戸開走行保護装置

前述の竹芝での事故は、扉が開いたままエレベーターが動き始め、三方枠上部とかご床に挟まれて死亡してしまうという考えられないものでした。
この事故の後に建築基準法が改正され、制御回路の故障などで、全ての扉が閉まる前にかごが動き始めた場合に緊急で停止させる装置の設置が義務化されました。

4.エレベーターの耐震性

エレベーターの耐震基準は、現在は建築基準法等で規定されていますが、1971年以前は各メーカーの自主的な基準で製造されていました。
1972年に社団法人日本エレベーター協会が「昇降機防災対策標準」を制定し、①かごや釣合おもりレールから外れない対策、②巻上機や制御盤の転倒防止対策、③地震が発生した時の運行方法、などの基準を公表しました。これがエレベーターの公的な耐震基準の始まりとされています。その後、宮城沖地震、阪神淡路大地震、東日本大地震などを経て少しずつ変わっています。

81耐震

1981年に、財団法人日本建築センターが1972年の基準を更に具体的に規定した「エレベーター耐震設計・施工指針」を公表しました。その年の下二けたをとって「81耐震」と呼んでいます(以下同じ)。

98耐震

1998年に、財団法人日本建築設備・昇降機センターが「昇降機耐震設計・施工指針」を公表し、81耐震に加え、更に①おもりブロックの脱落防止、②懸垂機器の転倒防止、などについて基準を設けました。

09耐震

2009年に建築基準法施行令が改正され、テーマが、それまでの「製品の破損防止」から「人命最優先の確認・安全走行」へと変わっていきました。具体的には、①予備電源設置の義務化、②地震時管制運転装置の義務化、③戸開走行保護装置の義務化、④ガイドレール・レールブラケットの強化、⑤長尺物振れ止め対策強化、などです。

14耐震

東日本大震災のときに、エレベーターの釣合おもりの脱落が多数みられたことを受け、2014に改正された最新の耐震基準です。具体的には、釣合おもりが地震で脱落しないよう本体の構造と構造計算方式を定めました。また、地震に対する構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算方法も規定されました。

5.エレベーターの保守(メンテナンス)

フルメンテナンス(FM)契約

意匠部品、その他かご、扉、巻上機一式等を除き、部品の交換も契約金額に含めて定期的にメンテナンスする契約方法です。

部品交換も含まれるため、後述の「POG契約」より割高となります。
交換の範囲はエレベーターを通常使用する場合において発生する摩耗・劣化に限るとされており、交換の基準はエレベーター会社の判断で行われます。

費用は、エレベーターのタイプやメーカー系か独立系か、また、契約内容により様々ですが、概ね4万円〜8万円程度だと思います。

POG契約

「Parts(パーツ)」「Oil(オイル)」「Grease(グリース)」の頭文字をとって「POG契約」といいます。一部の消耗部品の交換とオイル・グリースの補充は保守契約費に含むがそれ以外の部品交換は全て有償となる契約方法です。

費用は、こちらも様々ですが、概ね2万円〜4万円程度だと思います。

フルメンテナンス契約とPOG契約、どちらが良いのか?

マンション管理組合にとっては、どちらの契約が得かという議論はありますが、マンションの事情に応じて選択することになります。

「フルメンテナンス(FM)契約」の場合は、契約金額は割高になりますが、予算を立てやすく、長期修繕計画書に記載する修繕項目としては、かご内のリフォーム費やリニューアル工事費を一定の時期に計上しておけば済みます。
逆にPOG契約の場合は、契約金額は安くて済みますが、保守業者から部品交換の提案や見積もりを受けたときに、その妥当性などの判断ができず修理が先送りになったり、ロープ交換など思わぬ時に高額の費用を請求されたりすることもあります。

また、過去の事例では、POG契約のデメリットを解消したいので、途中からフルメンテナンス契約に変更しようという管理組合がありましたが、変更時に受託業者からかなり高額の初期整備費用を請求されることが判り、結局は断念したこともありました。

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エレベーターのリニューアル(交換・改修)1〜交換時期や方法、工期、費用について

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2018年08月17日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。

近年のマンションにおいてエレベーターはなくてはならない設備の一つですが、メンテナンス(保守点検)も含めてコストがかかる設備の一つでもあります。
また、例外なくエレベーターにも耐用年数があり、メンテナンスのみで永久に使い続けることは出来ないため、いずれリニューアル(交換・改修)工事が必要な設備でもあります。築年が経過したマンションが増える中、築30年前後のマンションでは、まさに検討中のところもあるのではないでしょうか。

そこで、今回から二度に分けて、実際に当事務所が関わったエレベーターリニューアル(交換・改修)工事を基に、工事の進め方やポイントなどをご紹介いたします。エレベーターのリニューアルというと、大がかりでちょっと難しいと思っていたり、あまりコストダウン出来ないと思っている方も多いかもしれませんが、進め方や状況によっては、限られた予算で効率良く使用期間を延ばしたり、工事費用を抑えることも可能です。

エレベーターリニューアル(交換・改修)のきっかけは?

エレベーターのリニューアルに際し、まずその必要性が気になるところだと思いますが、きっかけは、概ね以下の4パターンに当てはまるのではないかと思います。

管理組合のエレベーターリニューアルのきっかけ

  1. 長期修繕計画に基づいて
  2. 生産中止や部品供給終了に伴って
  3. 経年劣化(トラブル・不調)に伴って
  4. 最新の安全基準適合や省エネ効果など

エレベーターのリニューアル時期はいつ?耐用年数は?

そもそもエレベーターの耐用年数はどのくらいかご存知でしょうか?
国税庁の減価償却基準(法定償却耐用年数)では「17年」とされてり、メーカーは概ね「20〜25年」と公表しています。

また、国土交通省の長期修繕計画に関するガイドラインでは、15年目に補修、30年目に取替え(リニューアル)が記載されています
私が拝見するマンションの長期修繕計画では、25年〜30年目に更新が計上されている計画をよく見ます。きちんと長期修繕計画が整備されたマンションにおいては、このパターンが最も多いのではないかと思います。

エレベーターの耐用年数・交換時期

  • 国税庁の減価償却基準(法定償却耐用年数):17年
  • メーカー公表の耐用年数:20〜25年
  • 国交省長期修繕計画に関するガイドライン:30年目に取替え(リニューアル)
  • 実際の長期修繕計画:25年〜30年目に計画されているケースが多い

※重松マンション管理士事務所で実際に確認したものに基づく

生産中止や部品供給終了が引き金になるケース

次のパターンは、メーカーによる生産中止やその後の関連部品の保存期間満了に伴い、「まだ何とか動いているが、この際リニューアルしよう」というケースです。この場合、想定外のため、長期修繕計画よりも早めのリニューアルになることが多い印象です。

なお、この場合、通常ならメーカーからその旨を伝える連絡が、何らかの形で届きます。
もし心当たりがないようでしたら、一度メーカーに問い合わせしてみることをオススメいたします

経年劣化(トラブル・不調)に伴うリニューアル

また、経年劣化によるトラブルが頻発してリニューアルに踏み切るパターンも見られます

当事務所においてはこのような事例はありませんが、耐用年数に達しない状況の場合は、言わば不測の事態で資金面で難しいマンションもあると思います。また、長期修繕計画に記載がない場合も同様ですので、もし長期修繕計画に記載がない状態でしたら、もしくは、その確認が取れていないマンションなら、エレベーターの耐用年数と共に、一度長期修繕計画をきちんと見直すことをオススメいたします

最新の安全基準適合や機能性、省エネ効果などを狙って(利便性や資産価値向上を考慮)

最近のエレベーターは性能が良く、どこのメーカーも、省エネ効果があることや、安全性に関する最新の法規に適合することが出来るというメリットを謳っており、中には営業マンが来るケースもあるようです。

当事務所においては、これが主目的となるリニューアル事例はありませんが、生産中止等の理由からリニューアルに至ったマンションにおいて、前述のようなメリットが、早めのリニューアルに拍車をかけているようにも感じています。

リニューアル工事の費用は?

気になるエレベーターリニューアルの費用ですが、当事務所が関わるマンションにおいては、リニューアルの内容に関係なく、1基当たり1,200万円〜1,500万円で計画しているマンションが多いようです。次回でご紹介する事例では、一基あたりの見積もりが800万〜1,200万でした。小規模なマンションでは特に、計画的に資金を積み立てておかないと厳しい金額ですね。

エレベーターリニューアルの費用(予算)

1,200万円〜1,500万円/1基で計画しているところが多い

※重松マンション管理士事務所の関係するマンションに基づく

リニューアルするお金なんてない!どうする!?

リニューアルというと前述のような費用がかかりますし、とても大がかりなイメージもあるため、やりたいけどお金がない・・・というところもあるかもしれません。

しかし、実際にはいろいろな方法があり(後述「リニューアル工事の進め方・種類」参照)、重要度の高い部分だけ実施することで、費用を抑えることが可能です。また、次回ご紹介いたしますが、競争原理を働かせることで、結構なコストダウンも見込めます

リニューアル工事の進め方・種類

一口にエレベーターのリニューアルと言っても、幾つかの選択肢があります。
大きく分けると「フルリニューアル」と「部分的リニューアル」の2通り、そして、細分化すると「①全撤去リニューアル」「②準撤去リニューアル」「③制御リニューアル」という3つの方法が一般的です。
分類にもいろいろな考え方があると思いますが、私なりに管理組合目線でまとめると以下のような感じになります。

リニューアル工事の進め方・種類

  1. フルリニューアル:既存のエレベーターを、全て交換して新しくする方法
    ※一般的に「①全撤去リニューアル」と呼ばれるやり方が該当します

  2. 部分的リニューアル:使えるものは継続使用しつつ、部分的に交換する方法
    ※一般的に「②準撤去リニューアル」「③制御リニューアル」と呼ばれるやり方が該当します
    ※上記②③に属さない、あるいは派生メニューのような形で、もっと限定的に、必要な部品のみ行うやり方もあります。この場合、段階的に必要な部品を交換していくというやり方が可能な場合もあります

①②③の違いは、大雑把に言うと「一度にどの部分をリニューアルするか」という「程度の違い」です。
エレベーターというと、真っ先に私たちが乗る部分(「かご室」などと呼ばれます)を思い浮かべるのではないかと思いますが、「かご室はリニューアルしない」という選択肢もあるのです。

①>②>③の順に大がかりな工事になり、時間もコストもかかりますが、それぞれの特徴やメリット・デメリット等を一覧表にしましたので、ご参考にしてください。なお、出来るだけ包括的にまとめたつもりですが、諸条件により変わる部分もありますので、目安として捉えていただければ幸いです。

 

フルリニューアル

部分的リニューアル

①全撤去リニューアル

②準撤去リニューアル

③制御リニューアル

概要

全て撤去し、最新のものに総交換

既設品のごく一部を残して交換

※建物に固定されている三方枠、敷居等

制御系の交換・機能追加が中心
三方枠やかご室等は継続利用

建築確認*1

必要

要確認
※必要な場合が多い

一般的に不要
※必要な場合もある

工期

製作:約120日
工事:約25〜40日

製作:約120日
工事:約15〜25日

製作:約90日
工事:約3〜15日

エレベーターが使用できない期間


(25〜40日程度)


(15〜25日程度)


(3〜15日前後)

コスト

メリット

  • 最新の法規に対応可能
  • 大手メーカーへの切替可能
    (例:三菱→日立)
  • 最新の法規に対応可能
  • 工事中の振動・騒音が少ない
  • 既存の三方枠と敷居を継続利用するため、工期短縮が可能
  • コストが安い
  • 既存の三方枠や敷居、かご室などは継続利用するため工期が短い
  • 必要に応じた機能を追加できる

デメリット

  • 工期が長くE/Vが使えない期間が長い
  • 工事期間中の振動・騒音が大きい
  • 工期が長くE/Vが使えない期間が長い
  • 既存の三方枠と敷居を継続利用するため、他メーカーの参入が難しい(他メーカーへの切替は要全撤去)
  • 交換しない部分について、別途検討・計画が必要
  • 最新の法規全てに対応できない場合がある(対応しきれない場合は「既存不適格」のままになる)
  • 交換しない部分について、別途検討・計画が必要

注意点

  • 既存の昇降路を利用するので、従来の積載荷重や定員を確保できない場合がある
  • 既存の昇降路を利用するので、従来の積載荷重や定員を確保できない場合がある

 

*1:「建築確認」とは、建築基準法に基づき、建築物などの建築計画が建築基準法令や建築基準関係規定に適合しているかどうかを着工前に審査する行政行為(Wikipedia

用語解説(三方枠/敷居)

油圧式エレベーターのリニューアル・制御リニューアルについて

ロープ式?油圧式? エレベーターの種類に注意!

エレベーターには、巻上モーターの回転速度を制御してかごを昇降させる「ロープ式」と、油圧ジャッキの圧力でかごを昇降させる「油圧式」の2種類があります(後述「2.ロープ式と油圧式」参照)。最近では、省エネや廃油処理その他機能上の問題から、新規の乗用エレベーターに油圧式を採用するメーカーはなくなりました(特殊仕様や重量運搬用など一部例外を除く)。

大手エレベーターメーカーで油圧式のエレベーターをリニューアルする場合は、「全撤去リニューアル」もしくは「準撤去リニューアル」が原則となります(メーカーによっては、油圧式からロープ式への部分的リニューアルは可能)。

油圧式エレベーターのリニューアルとなった場合、前表のように工事期間が長くなり、エレベーターが使えない期間も長くなります。1基しかない、逆に複数台あり改修費用捻出が困難、旧機器の撤去等で振動騒音が心配などと、頭を悩ます管理組合様が今後増えることも考えられます。

油圧式制御リニューアルとは

しかし、一部の独立系メーカーでは、油圧式エレベーターを、油圧式のままリニューアルする工法も開発しています。
「油圧式制御リニューアル」とも呼ばれていますが、主に制御盤、電動機、バルブ、ポンプなどの主要機器を更新し、その他は再利用する工法です。大手エレベーターメーカーからの部品供給停止はこれら主要機器のみが対象であり、その他の油圧ジャッキやかご本体までは経年対象ではないことから、工期や費用面で採用される管理組合様も増えているようです。

構造や電動機の容量などは変わらないため、スピードアップや省エネその他機能面の向上は期待できませんが、限られた予算かつ短工期でより長く延命させる手法としては検討する価値がありそうです。

ちなみに、ご利用のメーカーや機種によって、油圧式制御リニューアルが出来ない場合もあるようですので、見積取得の際には現場調査を依頼されることをオススメいたします

次回は、実際に「③制御リニューアル」を行った事例と、エレベーターリニューアル(交換)検討時に知っておくと良いポイントをご紹介いたします。

もっとよく理解したい人のための「エレベーター基礎知識」①

管理組合主導でエレベーターリニューアルを実施するなら、ある程度の知識は必要です。
そこで、今回から2回に分けて、エレベーターのリニューアルを行う上でよく話題になる、検討が必要になる部分を中心に、幾つかご紹介していきます。
次回は「3.エレベーターの安全性」「4.エレベーターの耐震性」「5.エレベーターの保守(メンテナンス)」について、ご紹介いたします。

1.運行速度

エレベーターの運行速度は結構話題となりますが、「m/分」で表記します。
一般的なマンションでは45m〜105m/分位でしょうか。定員も6〜11名程度です。マンションの階高を3mで計算すると10階建てのマンションなら1階から10階までを15秒から40秒程度で上がっていきます。
超高層マンションになるとこの速度が格段に速くなり、180m/分、積載量1,150〜1,300㎏、定員17〜20名前後が一般的な設計になるようです。

ところで、エレベーターの運行速度については日本の三大メーカー(日立、三菱、東芝)が凌ぎを削っており上昇速度では中国上海のビルに設置された三菱製のエレベーターが世界最速(1,230m/分)、下降速度では横浜のランドマークタワーに設置されたエレベーター(三菱製)が世界最速(750m/分)といわれています。

ちなみに、上昇時と下降時とで速度が異なっているのは、技術的な側面ではなく乗客の恐怖心からと言われています。
現在、日立製作所が中国広州のビルに設置する予定のエレベーターの上昇速度は1,260m/分でこれが近々世界最速となる予定です。時速にすると75.6㎞、富士山の頂上まで3分で到着する計算ですね。

2.ロープ式と油圧式

エレベーターにはロープ式と油圧式の2種類があります。

ロープ式は、人が乗るかごと釣合おもりがワイヤーロープで「つるべ式」に繋がっており、巻上モーターの回転速度を制御してかごを昇降させる方式です。
以前は、巻上モーターを設置する機械室を屋上に建築する必要があったので、建築基準法の高さ制限や斜線規制の影響を受けるため後述する油圧式が採用されることもありましたが、巻上モーターをエレベーターピットの最下部等に設置することが可能な「ルームレス」タイプの登場によりその問題が解消したので、最近では圧倒的にロープ式が多くなりました。

油圧式は、その名のとおり作動油を使用し油圧ジャッキの圧力でかごを昇降させる方式です。
油圧式の場合、下降時にはシリンダから油を抜くだけなので、圧力がかかるのは上昇時だけとなります。油圧配管さえ繋がっていれば、機械室を屋上に設置する必要がなく自由に配置することが可能です。そのため建築基準法の規制を気にせずに設計できるので、マンションでは分譲戸数の確保などにもメリットがあり、割と多く採用されてきました。
しかし、油圧ジャッキを使用しているため速度が遅いことや、設置階数にも限界があること、さらにロープ式と比較するとモーター出力が大きいことや、冬場には油の温度を上げる必要があるため消費電力はかなり多くなり、最近の「省エネ」には向いていない等のデメリットがあります。

そのような理由で、特殊仕様や重量運搬用の油圧式エレベーターを除き、新規に製造している大手メーカーはありません。

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効率の良い理事会運営の秘訣

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2018年03月14日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。だいぶ暖かくなってきましたね。学校や会社では新しい年度に入るところが多いと思いますが、管理組合においても、そろそろ総会の準備にかかっている理事会も多いのではないでしょうか。今回は、過去の当事務所のニュースレターを参考に、「効率の良い理事会運営の秘訣」と題して、理事会の役割や理事会の問題点をお伝えしたうえで、効率の良い理事会運営を行うためのヒントをお話しさせていただければと思います。
これから、理事になる予定の人にはぜひ読んでいただければと思います。

1.理事会とは

①業務執行機関

「理事会は管理組合の業務執行機関」といわれています。株式会社における取締役会のようなものを連想する人が多いと思います。取締役会に関する規程は、会社法等に規定されていますが、実はマンション法ともいわれる区分所有法には、理事や理事会の定めはありません。(管理組合法人の場合は「理事」と「監事」の規程があります。)
基本的には、管理組合の意思決定(管理・運営)は、区分所有者全員の総会で決議し、多数決原理で運営していきます。
ただし、戸数が多いマンションにおいては、そのような運営方法は非効率的なので、法律では「管理者」をおいて、管理者が管理組合の業務を遂行することができる規程を設けています。※管理者に関しては後述します。
では法律上も明確な規程がない管理組合の理事や理事会が、なぜマンション管理に関する重要な位置付けとして議論されてきたのでしょうか?
国土交通省が公表している「マンション標準管理規約(以下「標準管理規約」といいます。)」があります。これは、マンション内での住民間のトラブルを防止し、適正な建物管理と快適な生活を目的として、有識者が集まって昭和57年(1982年)に作成されたものです。
途中で何度かの改訂作業を経て、2016年の3月に最新版が公表されています。
この標準管理規約の中に、理事会が行うべきことや理事長を含む各理事の業務内容等が規定されています。
標準管理規約は法律ではありませんが、マンション管理組合においてはマンション管理のバイブル的な存在として位置づけられていますので、多くの管理組合はこの標準管理規約を採用して管理組合内に理事会を設け、理事長が中心となってマンション管理を行っています。

②責任者はだれ?

会社の責任者は社長です。ですから、一般的な考えからいうと管理組合の責任者は理事長となります。
ところが会社の社長には強大な権限と責任がありますが、管理組合の理事長はそうではなく、理事会は主に理事の合議制で運営されます。
一般的には、会社の社長や取締役は経営能力のあるプロや優秀な社員の中から選ばれるのに対し、管理組合の理事は、多くの場合は区分所有者の中から毎年輪番制で選ばれ、さらに理事の互選(場合によってはじゃんけんやあみだくじ)で理事長が選出されます。
ですから、選ばれた理事長が必ずしも能力があるとは限りませんし、そのような理事長に強大な権限や責任を与えることはできません。また、そんな重い責任や権限を与えられるなら、怖くなって誰も理事や理事長をやりたがらなくなります。実は標準管理規約では、「理事長は理事会の決議を経て●●を実行する。」という規程がほとんどです。このような合議制の運営の方が日本の風土になじむと考えたからでしょうか。
ちなみに、標準管理規約において理事長が理事会の決議を経ないで行うことができる行為は、

  1. 通常総会の招集
  2. 保険金の請求と受領
  3. 災害時における保存行為

くらいしかなく、権限というよりは「義務」に近いものですね。

③理事の責任は?

会社は出資者からのお金を預かって、利益の追求を目的として活動し、取締役は重い責任と多額の報酬がありますが、管理組合は利益を追求するのではなく、マンションという建物の維持・管理が主目的です。ほとんどの場合は無報酬か貰ってもお小遣いにもなりません。ですから、そもそもの目的が違います。
とはいうものの、管理組合が管理する資産は、マンションの規模によっては何億円、何十億円になります。高額な区分所有者の資産を適正に管理していくには、それなりの責任が伴うと誰もが考えます。
前述のとおり、区分所有法には、「管理者」という規程があります。管理者には、①保存行為、②管理規約で決められた行為、③総会で決まった事項を実行する権限が与えられます。
また、同法において「管理者はその職務において区分所有者を代理する。」とありますので、管理者がその職務内で実施した行為は、管理者個人の責任ではなく区分所有者全員の責任となります。
これを、理事や理事長に置き換えて考えるのが一般的な考えとなっています。
つまり、理事会が管理規約や総会の決議に基づき実施した行為は、理事長(理事)の責任ではなく区分所有者全員の責任ということです。ですから、違法行為や善管注意義務違反等がない限り、理事会が行った行為(業務)の結果に、理事が責任を負うことはありません。

2.多くの理事会が抱える問題点

①自分たちが決めたことを自分たちではやれない。

会社の場合は、経営方針、営業戦略、予算などを取締役会で決め、所定の手続きのうえ、自分たちでスピーディに実行します。そしてその結果について責任を負います。
ところが、管理組合の場合、事業計画や予算案は総会の議決事項となっており、年に1回開催される通常総会において決定されます。総会に諮るのはその年の理事会、執行するのは翌年度の理事会となります。1年で理事全員が入れ替わってしまう管理組合が約6割(平成25年度マンション総合調査)ですから、多くの管理組合では「前期の理事会が決めたことを今期の理事が引き継いで実行する。」ことになります。
また、理事会が行うべき業務は、保存行為のほかは、管理規約と総会決議に基づくことになりますから、業務範囲はかなり限定されます。
「総会では承認されていないし、管理規約にも規程がないけれど、マンションにとって良いことから即実施しよう。結果の責任は私たちがとればよい!」といって実行することはできません。そんなことをしたら、結果に対する責任ではなく、そもそもそのようなことをやったことに対する責任を問われることになります。
どうしても自分たちでやりたいことができた場合は、臨時総会を開催して承認を貰ってから自分たちの理事会で実行するか、やりたいことを次年度の総会に諮ったうえで、次年度も理事を継続して実行するかになります。ですから、効率という点ではとても非効率的な運営となります。

②無責任体質

前項で述べた通り、理事会が違法行為や善管注意義務に反しない限り、つまり普通に業務を行っている限り、責任を問われることはありません。
その反面、

  1. 予算は総会で承認されているからその通りに使えばよい。
  2. 自分たちは余計なことは考えず、前の理事会が決めたことだけをやっていればよい。
  3. 面倒なことは管理会社に任せておけば何でもやってくれる。


このように考えて「早く1年たって欲しい」となると、いわゆる無責任体質となります。
自分が本業としてやっている仕事や自分の家計を考えるときとはえらい違いです。
そうしているうちに、正しい判断力を行使することなく、問題を先送りにしたり、無駄なコストを垂れ流したりする結果になることもあります。

③専門性に乏しい理事で高額の資産管理をやらなければならない

マンション管理には相当高度な専門知識(法律、技術、財務、保険、資産運用etc...)が必要です。区分所有法に管理者の規程がある趣旨は、管理者という外部の専門家に管理をさせることを前提としているといわれています。欧米でのマンション管理は多くがこのシステムを採用し、所有と管理を切り離して合理的に考えています。
しかし、日本の理事会では、居住者から選ばれた理事の合議制で運営されますので、多くの場合、理事会にマンション管理の専門家はいません。その場合は、理事だけで物事を考えて正しい結論を導き出すことが難しいので、結局は決断を先送りにしたり、ルーティンワーク的なことだけをやったりする理事会になってしまいます。

3.じょうずな理事会運営のヒント

それでも、マンションを購入したからにはいつかは理事の順番が回ってきます。
以上のように、マンション管理組合の理事会は問題が多いのですが、理事になったからにはなるべく効率の良い理事会運営を行い、管理組合の利益、延いては区分所有者全員のためになるような運営を心掛けたいと思うはずです。そこで理事会を効率的に行うためのヒントを私なりに考えてみました。

①年間の課題を決めて、毎月進捗状況を確認する。

何度も申し上げますが、理事会でやるべきことは管理規約で決められた業務と総会で決議された事項です。ですから、今年の目標等は比較的簡単に決めることができます。
年度の初めにその項目を整理して年間スケジュールを決め、毎月進捗状況を確認しながら議論をすると、効率の良い議論ができます。
案件ごとに結論を出す期日を決めておき、それを目標に議論をしていけば効率が良くなります。

②会議にダラダラと時間をかけない。

私が拝見してきた多くの管理組合のうち、効率の良い運営をやっている管理組合は、総じて理事会等の開催時間が短いです。普通は1時間半から2時間。どんなに掛かっても3時間以上やっている管理組合はありません。一方、効率の悪い管理組合の理事会は最低でも3時間、酷い時には夕方から始めて午前様までやっているときもあります。こんなことを続けていれば、理事も理事会に出たくなくなり、だんだん欠席者も多くなって理事会自体が機能しなくなったり、場合によっては成立しなくなったりすることもあります。
もし、自分が勤務している会社において、こんな長時間の会議をやっていると、今はそれだけで自分の評価が下がってしまいます。
※昔は、いつまでも残業をしたり、長い時間会議をしたりしていると「よく働くやつだ。」といわれた時代もありましたが...
ではどうすれば理事会の開催時間を短縮することができるでしょうか。

1)理事会の議題をあらかじめ決めておく

理事会での審議(検討事項・報告事項)事項をあらかじめ決めておき、事前に理事に配布しておくととても効率が良くなります。議題を決めるのは、一般的には理事長が良いと思いますが、理事会の事情によっては、別の理事が担当しても構わないと思います。今は、電子メール等も活用できますので、前回までの理事会の結果から判断したり、管理会社と協議しながら予めまとめておいたりするとよいでしょう。また、理事会で検討してもらいたい事項がある場合は、事前に理事長に連絡して、審議事項、理由、必要な資料等を提出しておくことも可能です。

2)審議事項を優先して

当日の理事会で必ず決定(議決)しなければならない事項を最優先で審議していきます。
そして、報告事項はあとに回し、終了時間が来てしまったら「時間が無くなったから、報告事項は読んでおいてください。」とし、何が何でも最初に決めた時間に理事会を終了する癖をつけていけばよいと思います。最初のうちは、ほんとうにこれ良いのかと思うかもしれませんが、何回かやっているうちにきちんと時間内に収まるようになります。経緯の説明や意見の表明をする場合も常に時間を考えて発言していれば、他の人の持ち時間のことも考えるようになりますので段々時間が短縮できるようになります。「俺は先月の理事会を欠席したので、その時の経緯をもう一度説明してくれ!」などはもってのほかです。
また、当日結論を出さないで良い検討課題等を議論する場合も、あらかじめ決まった時間内で議論をすることとし、時間が来たら直ちに止めるようにするとよいと思います。

③必要に応じて外部専門家を活用する

理事会は、あらかじめ決められた課題を審議、決議して、たんたんと処理していくことが基本ですが、居住者からの問合せ、要望、苦情などに対応しなければならないときもあります。そのような場合、住民からの要望等を理事会で一つずつ取り上げて対応策を審議していたらそれこそ時間がいくらあっても足りません。
そんな時は、管理会社や専門家などを上手に活用するとよいと思います。
例えば、騒音や近隣関係の問題、共用設備に関する問合せや苦情、マンションを良くしたいための提案など様々ですが、管理会社や顧問マンション管理士等はそれらに関する経験が豊富で、対応策や解決事例なども多く持っていますので、事前に問題を相談しておき、その解決方法や事例等を理事会(できれば理事会前)において紹介してもらう等すれば、無意味な議論を行う必要がなくなります。
管理組合で発生する様々な問題を解決するには、管理規約や関連する法律(特に区分所有法)に基づいて処理していく場合がほとんどです。これを専門的知識が少ない理事だけで何時間議論しても、結論が出ないことは容易に理解できると思います。そんな時に専門家に相談するとわずか数分で問題が解決することもよくあります。
余談ですが「パーキンソンの凡俗の法則」というものがあり、「多くの人は、自分が分からないような専門性の高いことについては議論に口出しをしないが、誰もが知っている(または知っていると思っている)ことについては、議論の本質とはかけ離れたどうでもよいことであっても時間を使って議論をしたがる。」という法則だそうです。理事会でこんなことをやられたら議長(理事長)はたまったものではありません。ご自分の理事会をご覧になって思い当たる節はありませんか?

4.さいごに

あくまでも私見ですが、理事会にかかる時間と適正な管理組合運営は反比例していると思います。

  1. 理事会が長時間になる。
  2. すると、、議論がつまらないだけでなく心身ともに疲れる。
  3. そして、欠席する理事が多くなる。
  4. そうなると、理事会が適正に機能しなくなり、効率も悪くなる。
  5. その結果、管理組合の資産価値がきちんと維持できない。

という「負の連鎖」に陥ってしまわないよう皆様方で注意していただければと思います。

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総会議事録の作成を失念し非訟事件として訴えられた事例

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2018年02月06日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
区分所有法には第三章(第71条以下)に罰則規定があります。
いくつか例を挙げると

  • 規約を保管しなかった場合
  • 規約や総会議事録の閲覧を拒否した場合
  • 総会議事録を作成しなかった場合や虚偽の記載をした場合
  • 管理組合法人に関する登記を怠った場合

等々は、管理者(理事長)、管理組合法人の理事、総会の議長等に、過料20万円が科せられることになっています。
とはいうものの、専門的知識に乏しい役員だけで運営する場合、管理規約がどこに保管してあるかも不明な場合や、総会(特に臨時総会)の議事録作成を忘れてしまう場合もありそうです。
実は、私が大規模修繕工事のコンサルティングでお世話になった管理組合で、臨時総会の議事録を作成することを失念し、組合員から非訟事件として訴えられた事例がありましたのでご紹介いたします。

臨時総会

大規模修繕工事に関する臨時総会を開催し、議案は可決されました。
この管理組合は、管理会社と管理委託契約を締結しており、管理委託契約書の中には総会議事録の素案作成も業務として含まれていましたが、当日はたまたま担当者の都合がつかず、臨時総会へは出席していませんでした。
そのため、議事録は理事会で作成することとなり、私も議事録の素案を理事長に提供していました。
しかし、理事長も慣れていないことや、ご自身のお仕事が忙しかったこともあり、その後の作業を管理会社に依頼することを忘れていたようです。

過料事件

ところが約1年後に、ある組合員から過料事件として裁判所に通知されてしまったのです。
組合員から裁判所に提出された「過料事件通知書
内容は、「当時の臨時総会の議長であった理事長が、議事録を作成していないので区分所有法の規定に基づき過料に処すべきもの」でした。
この方は、過去には理事長職も経験された方でしたが、普段から管理組合運営にいろいろとご意見をお持ちのようで、時の理事会とはいつも対立関係にある方でした。
当然ながら当時の理事長はびっくりして私に相談されました。
私も、まさかこんなことになるとは思っていなかったとはいえ、議事録の作成作業を最後まで確認していなかったという反省もあります。
そこで当時の関係者(役員、管理会社、私)が集まって対応策を検討することになりました。

対応策の検討

当時の理事長の記憶も定かでなかったので、関係者の記憶をたどったり、管理会社や管理事務所の保管場所も探したりましたが、やはり議事録は作成されていませんでした。
また、裁判所からは所定の様式に基づく「陳述書」を提出するように指示がありましたので、そちらも提出する義務があります。
私は、専門家にも相談した結果、以下のことを陳述書に書いて提出するようにお勧めしました。

  1. 議事録は作成していなかった。怠慢であったことは認める。
  2. その理由と当時の状況の説明
  3. 遅れたけれど直ちに総会議事録を作成した。
  4. 一般的なマンション管理組合の理事会運営の実態
  5. 不処罰としていただきたい。

提出した陳述書

裁判所の判断

約1か月後に裁判所から決定通知が来ました。
私たちの主張が認められて、当時の理事長もほっとしたみたいです。

反省

戸数も少ないマンションで管理会社に管理を全面委託しているマンションは多いと思います。私のマンション(35戸)もそうです。
普段は、理事会議事録の素案も含めて総会議事録素案等は管理会社が作成してくれ、理事長は簡単に確認して署名・押印をすれば済むようになっています。
今回は、総会に管理会社が出席してなかったことを忘れ、ついいつもの調子で進めてしまった結果トラブルを招いてしまいました。
このように訴えられることは稀でしょうが、議事録の作成にかかわらず規約原本の保管等も理事会がきちんと把握しておく必要があると思いました。

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マンションの損害(火災)保険について

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2018年01月24日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

こんにちは。重松マンション管理士事務所の重松です。
今回は、ほとんどのマンション管理組合が付保している損害保険について書かせていただきました。
高経年マンションにおいては、最近の保険料の大幅な値上がりで驚かれていると思いますが、そんな管理組合にとってもリスク(危険)管理のヒントになれば幸いです。
なお、文中によく出てくる「保険料」は、加入者が保険会社に支払うお金で、「保険金」は、事故が発生した時に、保険会社が契約に基づき加入者に支払うお金のことです。

1.損害保険の歴史

リスク管理の考え方は、紀元前からあるといわれ、古代中国の船荷の輸送方法(複数の船に分散して荷物を輸送する。)が起源であるとか、保険については14世紀ヨーロッパの貿易商が、海上貨物の保険制度をスタートさせたことがその始まりとかいわれています。
そういえば、損害保険会社の社名には「●●海上」という名称が多いのもうなずけます。
17世紀後半になると、ロンドンのロイドコーヒー店に多くの保険引受人が集まり、海運や貿易に関する様々な情報を収集するようになり、会員制の保険組合ができ、これがいわゆる「ロイズ(Lloyd's)」 の始まりといわれています。
そして日本においては、明治維新以降に本格的な保険会社が誕生して現在に至っています。

2.マンションにおけるリスク管理の考え方(手段)

マンションにおけるリスク管理は、物に対するリスクと損害賠償に対するリスクの2つに分類されますが、まずはそれらのリスクに対する管理手段等を考えてみましょう。

①リスクの回避

この考え方は、リスクの発生を回避するというもので、危険な場所には近づかないという考え方です。例えば紛争や戦争が起こっている国への旅行を中止したり、自動ブレーキのついた車を運転したりするなどです。マンションの場合は、火災が発生しないよう不燃性の内装材料を使用したり、建物をコンクリート造で設計したりすることなどですが、これらのことは建築基準法や消防法等の法律で必須事項になっている場合がほとんどです。

②リスクの軽減

リスク発生時の損害を極力低く抑えようとする考え方です。
例えば、車を運転する時にはシートベルトをするとか、エアバッグ付きの車を選ぶなどです。
マンションの場合は、旧耐震基準の建物であれば、耐震補強を実施し、損害の発生を軽減させる工夫などがそれに当たります。

③リスクの保有

全てのリスクに対応することができれば一番よいのですが、それにはかなりの費用が掛かることが予想されます。
リスク発生時のために、一定額の貯蓄をしておくとか、お互いが助け合う互助制度や組合制度を構築しておくなどがその考え方です。
マンションにおいては、修繕積立金を積み立てておくなどがそれにあたると思います。
※修繕積立金は、原則として計画修繕のために積み立てられるものですが、標準管理規約単棟型第28条第1項(修繕積立金の使途)第2号に「不測の事故その他特別の理由」が規定されています。

④リスクの移転

どのような準備をしておいても、リスクを完全に排除することはできません。
ですから、リスクが発生したときに、その損害を経済的に解決できる方法を予め準備しておく考え方があります。これが生命保険や損害保険の考え方です。

3.損害保険の基本原則

損害保険には、その制度を支えている重要な基本原則がありますので、その原則を以下にご紹介します。

①大数の法則

精巧に作られたサイコロを6回振ったとしても、1から6までの数が一回ずつ出るとは限りません。しかし、6万回振ったら、600万回振ったらどうでしょうか?
その場合は、多少の誤差はあっても1から6までの数がほぼ同じ数だけでてきます。確立上当然のことですが、これが「大数の法則」です。
個々の場合を見ると偶然と思われる事故でも、全体からみると一定の確率で発生しており、保険の統計的な基礎数値となっている法則のことです。
マンションにおける火災や漏水事故も、多数のマンションを観察すれば、一定の発生頻度を予想することが可能になります。

②収支相当の原則

保険は、原則として加入者が支払う保険料の範囲内で運営・処理されることを前提として成り立っています。
事故が発生した時に加入者に支払う保険金に充当する「純保険料」と、事業運営のための経費等に充当される「付加保険料」があり、純保険料の総額と保険金の支払い総額は一緒でなければなりません。これを「収支相当の原則」といいます。
具体的な計算例として、マンションが100万戸あった場合、火災事故の発生件数が年間に2,000件で、1件当たりの平均被害金額(支払保険金)が1000万円と想定してみましょう。
保険金総額は、1,000万円×2,000件=200億円となりますので、必要な保険料は200億円÷100万戸=2万円/年間になります。
保険業法で、保険会社が、顧客獲得のために勝手に値引き販売をしたり、過剰な保険金を支払うことが禁止されている理由も「収支相当」でなければならいことにあります。

③給付・反対給付均等の原則(公平の原則又はレクシスの原則)

例えば、木造の戸建住宅と鉄筋コンクリート造のマンションに保険をかけるとします。どちらも評価額は5千万円とした場合、火災が発生するリスクは木造住宅の方が高いことは容易に理解できます。だったら、加入者が支払う保険料は、木造住宅の方がマンションよりも高くなって当然ということです。
専門的にいうと、加入者が負担する保険料は、保険事故が発生する確率と保険金を乗じた額と同じでなければならないという原則です。
マンションでの漏水事故を考えた場合、築浅のマンションと高経年マンションではその発生率が全く違います。最近は、高経年マンションの保険料がとても高くなっているという理由はそこにあります。

④利得禁止の原則

損害保険の場合は一部の例外を除き、その保険で利益を得てはいけないという原則があり、これを「利得禁止の原則」といいます。例えば1億円の保険契約をしていても、損害額が1千万円だったら貰える保険金は1千万円です。わざと事故を起こし、保険金で儲けようとする行為を防止するためです。
損害保険契約をする場合は、十分な補償をしてもらえるように考えて契約することが大事ですが、必要以上の金額で契約をしても、高い保険料を支払うだけになってしまいますので、検討が必要です。

4.マンションに付保する損害保険の代表例

①物保険(基本保証)

一般的には「主契約」といわれ、契約する保険の基本的な部分です。火災保険がベースで、特約としてその他のさまざまな補償がついています。契約金額(保険金額)はマンションの再調達価額 の●●%という方法で決定し、その金額に応じた保険料を負担することになります。鉄筋コンクリート造のマンションの場合は、火災による全損は考えられませんので、100%の契約をする必要はありませんが、30~60%で契約している管理組合が多いようです。また、マンションでは火災の発生よりも、悪戯や飛来落下物等の外的要因による破汚損の方が圧倒的に多いので、どのような特約を付保するかも検討のポイントになります。水害の可能性がほとんどない高台のマンションに、「水害保証特約」を付けたりしている管理組合を見かけますが、専門家にも相談しながら再検討されたらよいと思います。

②施設賠償責任保険

前述の火災保険は、マンションが被害を受けたときの補償を目的とした保険ですが、施設賠償責任保険は、マンション管理組合が維持・管理する共用施設に原因(管理の不備等)があり、第三者に損害を与えた場合、その損害賠償責任を担保してくれる保険です。
共用部分である給水管からの漏水で、居住者の住戸を水浸しにしてしまったとか、マンション内公園の遊具の管理状況に問題があり、幼児がけがをしたとかなどが代表的な事例で、その場合は管理組合に損害賠償責任が発生しますが、施設賠償責任保険を付保していれば保険でカバーできます。

③個人賠償責任保険

この保険も賠償責任保険ですが、対象は管理組合の共用施設ではなく、マンションの居住者になります。
居住者が、日常生活において、過失等が原因で第三者に対して損害を与えてしまった場合の保険となります。
この保険がカバーしている範囲は結構広く、日常生活に起因する事故等であればマンションの外で発生した場合も適用されます。しかし、近年は高経年マンションを中心に、専有部分の配管が原因での漏水事故が多発しており、そのためにこの保険料が大幅に値上がりしています。
また、そもそも共用部分には関係のない個人の損害賠償責任を、なぜ管理組合が負担して保険をかけなければならないのかという議論もあります。
上下階の漏水事故は、個人間の問題とはいえ、加害者に賠償能力がない場合には、必ずといってよいほど管理組合が紛争に巻き込まれますので、多くの管理組合で付保している場合が多いと思います。しかし、保険料が安い時代ならともかく、最近の大幅な値上がりを考えると、管理組合で付保することの是非も再検討した方が良いかもしれません。

5.その他

地震保険に対する考え方

管理組合で地震保険を付保するべきかそうでないかはよく問題となるところです。
あくまでも私見ですが、私は以下の理由であまりお勧めはしていません。①最大でも住宅の50%までしか付保できず、受け取った保険金で損害を全てカバーできないこと。つまり、地震保険は、被害を受けた建物を修復するというよりは、被害者の当面の生活の補てんが目的であり、管理組合の本来の目的とはいい難いこと。②保険料がかなり高いこと。③補償の対象が建物なので、設備や附属施設に大きな被害が出ても保証されないこと。④1回の地震での保険金支払総額が11.3兆円を超えた場合は、契約金額に応じて比例配分(減額)されるので、首都圏で大地震が発生した場合は、契約通りの保険金がもらえない可能性があること。などです。
しかし、東日本大震災以降、マンションにおける地震保険の契約率が大幅に上がっていることも事実ですので、管理組合のそれぞれの事情を考慮して検討されたらよいと思います。

保険金請求に関する誤解と時効

保険金は、契約者が被った損害に対して支払われますので、受領した保険金をどのように使うかは管理組合の自由です。例えば、敷地内のベンチが何者かに壊されたので、保険申請をして保険金を受領した場合、同等品を新規に購入するのか、更に費用をかけてもっと高級なベンチを購入するのか、購入しないで当面様子を見るのかなどは管理組合が決めればよいことです。被害が発生していないのに保険金を請求したら、詐欺になりますが、被った被害に対する保険金を受領しているのですからこの場合は詐欺になりません。
また、保険金請求の時効は3年といわれていますが、多くの人は、3年以上前に発生した事故は保険請求ができないと勘違いされています。3年の時効とは、保険会社の認定が下りて、保険金を受領できるようになってから、3年間請求をしなければ時効になってしまうという意味ですので、3年以上前の事故であっても、保険会社にきちんと説明ができる事故であれば、まずは請求してみた方が良いと思います。
それから、マンションの損害保険は自動車保険とは異なり、保険事故が発生して保険金を請求しても、更新時に保険料が上がることはありません。
(※料率の改定により、保険料が上がることはあります。)
また最近では、契約期間内の一定の判定期間内に保険金の請求がなかった場合(いわゆる無事故の場合)には、更新時の保険料を割り引く保険会社も出始めました。

マンションドクター火災保険について

多くの保険会社は、マンションの築年数だけで計算して保険料を算出します。前述のように築浅のマンションと高経年マンションでは漏水事故の発生率に大きな差があるからです。しかし、適切な修繕を実施して、給水管や排水管をきちんと更新しているマンションの場合はどうでしょうか。漏水事故の発生率は新築マンションと変わらないはずです。保険料を築年数だけで算出するのではなく、マンションの管理状況を細かく評価したうえで、保険料を算出する保険会社も出てきています。築年数が古い場合でも、適正な管理ができているマンションであれば、保険料が30~40%も安くなっている事例もあります。
このマンションドクター火災保険を適用するための管理状況の査定は、研修を受けたマンション管理士が行う必要がありますが、高経年マンションであっても、きちんと管理がされているマンションであればぜひ検討する価値はあると思います。

6.さいごに

いかがでしたか?マンションに付保する保険の場合、商品の変遷等もあり、誤解や勘違いなども結構多いように思います。保険の中身を知らない場合には、大きな損をする可能性もありますので、分からないときなどはぜひ専門家に相談して検討してみてください。


マンション管理コンサルタント マンション管理士 重松 秀士プロフィール
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