業界トップクラスの実績を持つ千葉のマンション管理士 事務所所長 マンション管理士 重松秀士が、マンション管理 コンサルタントならではのお役立ち情報をお届けします。 携帯版
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みなさまこんにちは。重松マンション管理士事務所スタッフでマンション管理士・防災士の飯田です。
マンションにおける防災活動の取り組みを、実際の管理組合での取り組み事例をふまえてご紹介するシリーズ。
前回の「地震への対応編」に続き、今回は「風水害への対応編」をお届けします。
昨今増加している風水害は、より身近で現実的な問題となってきています。
令和2年8月28日施行の宅地建物取引業法施行規則の一部改正では、不動産取引時に、水防法に基づき作成された各種水害ハザードマップを用いた説明をすることが義務化されました。
それ以前にマンションを購入された方の中には、風水害の可能性を全く考慮していなかった方もいると思いますが、そうした状況もふまえてご紹介していきます。
マンションでの防災活動のすゝめ
風水害への対応編
災害は地震だけではありません。
地球温暖化など気候変動に伴い、近年大規模な風水害が頻発していることはご存知のとおりです。
2019年台風19号の際、武蔵小杉のタワーマンションで浸水により停電が発生し、長期間生活に支障をきたすたいへんな被害がありました。
堅固な建物マンションで、風水害の被害が起きるとは考えにくいかもしれませんが、マンションであっても弱みはあるのです。
こうした風水害にしっかり対応できているマンションはまだ少ないのが実情ですが、実際に取り組みしているマンションの実例をもとに現実的な対応についてご紹介します。
戸建住宅と異なり、高層のマンションでは「在宅避難」が原則です。
とは言え、低層(1〜2階)や地階に住戸があるマンションは、浸水の影響を受ける場合があります。
そのようなときには、上の階へ避難(垂直避難)することになります。
風水害の被害が迫っている中での外部への避難は、危険を伴いますが、それがない分、マンションでは安心感があります。
ただし、マンションでも周囲を河川に囲まれる場合や、海抜ゼロメートルの低地、がけの前に立地する場合など、周囲からの浸水によって、長期間孤立状態になることがあります。
それに備えるためには、食料や飲料水など十分な備蓄が必要です。
また、マンションでも、状況によってはマンション外の安全な場所へ避難(水平避難)することもありえるため、あらかじめ、マンション周辺のハザードマップで浸水想定を確認しておくことが重要です。(参考リンク:国土交通省ハザードマップポータルサイト)
マンションで「在宅避難」が原則ということは、地震の場合と同様に飲料水、食料などの備蓄(兵糧)が不可欠であることは言うまでもありません。
ただ、居住者自身(特に高層階居住者)にその意識が低いことも事実です。
防災組織ではこうした各住戸への啓発活動も併せて行います。
「タイムライン」とは時系列に、その都度何をすればよいかを記載したものを言います。
一般的な水害のタイムラインとマンションでのタイムラインは少し異なります。
一般的なタイムラインは戸建て住宅などから浸水被害で逃げ遅れないようにするため、安全な場所への避難の準備と行動を表したものです。
これに対して堅牢で高層の建物のマンションでのタイムラインは、安全な場所、すなわちマンション内の居住する住戸(在宅避難)を原則とするため、風水害の危険度の高まりに合わせて「在宅避難」のために準備することを記載します。
また、マンションでタイムライン作成の際は、地震時の対応と同様に「自助」と「共助」に分けて整理すると、それぞれの役割分担も明確になり有効です。
河川の氾濫によるマンション内への浸水や、下水道から逆流する内水氾濫による浸水が引き金となって、建物内への浸水、受水槽の冠水、電気設備への浸水による停電などが発生します。
これらに伴い、エレベーターの停止、ポンプ停止による断水、セキュリティドアの開閉停止などマンションのインフラ機能のマヒが想定されます。
加えて、機械式駐車場があれば出し入れができなくなるだけでなく、地下ピットがある場合には浸水による水没の被害も想定されます。
そのほか強風や突風による被害として、隣住戸との隔て板、駐輪場・ゴミ置場屋根などの損傷・飛散、強風や飛来物によるによる窓ガラスの損傷、植栽の倒木などが想定されます。
雨、風ともに、災害時には日常では想像できないほどの被害が発生する可能性があることを意識していきましょう。
マンションでどこまで浸水から守るかを想定した「水防ライン」を設定します。
そのために、マンション敷地内でどこに浸水の危険があるかを把握します。
複数の開口部がある場合や、敷地が広い場合など、完璧な「水防ライン」を設けることが現実的でない場合があります。
そのような時は、被災による影響と費用対効果を検討したうえで、浸水防止の優先順位を決めて対応するのが現実的です。
この場合、停電によるインフラマヒを防ぐために、電気設備を最優先に守っていくことをお奨めします。
浸水対策には、土のう、水のうはじめ止水板などいくつかの方式があります【表1・表2参照】。
止水板の中でも、工事が必要なものから工事不要の脱着タイプまで様々な種類がありますが、浸水被害から守る箇所により、止水性能(止水等級)を検討します。
また、止水等級には6段階あり、電気設備のようにわずかの浸水でも停電になる可能性がある場合には、止水性能のよい(止水等級の高い)止水設備が必要となります。
土のう・水のう | 止水板 | |
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メリット |
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デメリット |
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写真 | ![]() |
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種類 | 土嚢式 | 脱着式 単一構造 |
脱着式 連続構造 |
シート式 |
操作方法 | 手動 | 手動 | 手動 | 手動 |
用途 | 一般的に使用 | 玄関・コンビニの自動扉 | 地下出入口・建物外構 | シャッター・建具 |
留意点 |
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特徴 |
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備考 | 非常時に使用する締付機構など年一回作動・破損劣化などの点検が必要。 |
写真 | ![]() |
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種類 | 起伏式 | 起伏式 (浮力方式) |
スイング式 | スライディング式 | スイング式 |
操作方法 | 手動・電動 | 自動 | 手動 | 手動・電動 | 手動 |
用途 | 地下駐車場・建物外構、地下鉄出入口 | 地下駐車場・建物外構、地下鉄出入口 | 地下駐車場・建物外構 | 地下通路、地下街ビル出入口 | 地下通路・地下鉄、地下街ビル出入口 |
留意点 |
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特徴 |
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備考 | 非常時に使用する締付機構など年一回作動・破損劣化などの点検が必要。 |
マンションのバルコニーから、雨水が溢れて住戸に浸水することも想定されます。
バルコニーの排水口は、泥が詰まると排水に影響することがあります。排水口を定期的に洗浄していれば防げますが、実際にはなかなかできていないことがあります。
万一それができていなくても、風水害が迫る前の時点で、居住者にバルコニー排水口の詰まりの除去を呼びかけるなど周知することも重要です。
2019年の台風19号で、武蔵小杉のタワーマンションでは、下水道の逆流によりマンション周辺で内水氾濫が発生しました。
エントランスなどの開口部は土のう設置などにより浸水を防げましたが、冠水した雨水が雨水桝から地下4階の貯留槽に流入。
貯留槽が溢れ、その上階にあった電気設備が冠水し、停電が発生する事故がありました。
これを防ぐためには、地表冠水時の貯留槽への雨水流入止水バルブを設置するなど、立地やマンションごとの設備に合わせた対応が必要です。
他にも、配管周りからの浸水防止や貯水槽からの溢水対策としてロック付きマンホール設置など、ハード面での浸水対策が重要です。
ハード面については、管理会社の設備担当と十分にすり合わせのうえで対応することをお奨めします。
止水板設置などのために、行政によっては助成金制度があります【表3参照】。
こうした制度を活用して止水対策を進めることは重要です。
年度や自治体によって設置にあたっての条件が異なりますので、最新の情報をご確認ください。
板橋区 | 止水板設置工事などに要した費用の2分の1以内/上限50万円 |
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北区 |
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品川区 |
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杉並区 | 防水板設置工事などに要した費用の2分の1/上限50万円 |
狛江市 |
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調布市 |
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三鷹市 | 止水板設置工事などに要した費用の2分の1/上限50万円 |
東京都以外の補助金制度については、以下をご参照ください。(2022年9月時点)
なお、いずれも現時点で把握できたものに限ってのものですので、補助金制度の有無やその内容については、お住まいの地域でご確認ください。
風水害対策のタイムラインや対応が決まったら、地震を中心に検討してきた災害時対応マニュアルに追加しましょう。
また、台風のように、数日前から進路を予測しながら、対応を準備できる場合だけとは限りません。
線状降水帯やゲリラ豪雨、竜巻など突然発生する風水害もあります。
止水対策を準備する時間がない場合や、切迫した状況などの場合の対応も想定し、マニュアルに追記しておくことをお奨めします。
地震に備えた防災訓練については地震編でお伝えしましたが、風水害においても訓練は欠かせません。
止水板の設置工事ができていたとしても、その組み立て方法がわからなければ、浸水を防ぐことはできません。
決して難しいものではありませんが、普段そうそう使うものではなく、組み立て方法がわからなかったり、組み立てのための工具がどこにあるかわからないことがあります。
また、災害が迫る中、短時間での協力者の招集方法など、実際に体験してみないとわからないことがさまざま出てくるはずです。
居住者の身の回りでもバルコニーの排水口の詰まり除去など対応するべきことが見えてくるでしょう。
私たちは、風水害に備えて、平常時から訓練しておくことが大切です。
日頃から災害を想定し、準備しているか・いないかで、災害時のマンションでの生活継続に大きな違いが出てきます。
自然災害は避けられなくても、被災時の生活の不便を軽減することはできます。
マンションで防災活動をまだ始めていなかったとしても、その重要性に気づいた今からでも遅くはありません。
この特集をきっかけにマンションでの防災活動に取り組んでいただければ幸いです。
◇著者プロフィール
飯田勝啓
マンション管理士、防災士
災害時のマンションの被災状況を調査するとともに、首都直下地震や風水害への管理組合での対応を啓発するなど、マンションにおける防災活動に取り組んでいる。
マンション管理士であり防災士でもある飯田さんの協力により、2回にわたり防災に関する取組みを紹介させていただきましたがいかがだったでしょうか?
飯田さんは、熊本地震の際にもいち早く現地に赴き被害状況の調査などもされているので、防災に関するいろいろな提案やコメントは説得力があったのではないでしょうか。
また、マンションでは「在宅避難」が原則であることもご理解いただけたのではないかと思います。
かつての行政主導の防災訓練は、マンションの住民が集まって指定された近所の避難場所や避難所に歩いていくものでした。
現在では考えられませんが、当時は避難場所や食料の配給などが話題となる事が多かったと記憶しています。
近年では、度重なる大規模自然災害や新型コロナウイルスの影響で避難所のキャパシティ問題が浮き彫りになったこともあってか、マンションに限らず戸建住宅でも「在宅避難」が推奨されているようです。
防災活動は「いつから始めたらよいのか?」
マンションの防災活動はいつから始めたらよいのかというご質問をよくいただきますが、私は「できることなら今すぐにでも始めてください」と申し上げています。
大規模自然災害は、いつ発生するか分かりませんが、必ずやってきます。
しかし、日ごろから取り組んでおかないと、いざその時になかなか思うような対応はできません。
東日本大震災の時、全児童が無事だった岩手県の釜石小学校では、震災の3年前から津波を想定した下校時避難訓練をしていたそうです。
訓練の度に変わるサイレンが鳴った場所から、一番最適と思える場所に子どもたちが自分で考えて避難するという、実に実践的な訓練だというから驚きです。
https://www.kyobun.co.jp/close-up/cu20210302/
最初は、行政や管理会社から提供される防災関連の資料を参考にしながらでも良いと思います。
ご自身のマンションにあった防災マニュアルを、自分たちで考えながら作っていくことをお勧めします。(重松)
マンション管理コンサルタント マンション管理士 重松 秀士(プロフィール)
資料請求 無料相談・お問い合わせ マンション管理士事務所
みなさまこんにちは。重松マンション管理士事務所スタッフでマンション管理士・防災士の飯田です。
地震や災害が頻発し、マンションでも災害に備えた準備をしなければ、と思われる方も多いことでしょう。既に飲料水などの備蓄を家庭でしっかりされている住戸もあると思います。
その一方で、マンション全体の防災活動の取り組みはどうでしょうか。災害はいつ発生するかわかりません。いつかはやらなければと、わかっていても、目先の管理や様々な案件に追われて、ついつい先送りしてしまう組合も多いのではないでしょうか。
そんな実態を踏まえながら、マンションで防災活動に取り組みする管理組合での実例から「地震への対応」と「風水害への対応」について2回で紹介していきます。
マンションでの防災活動のすゝめ
地震への対応編
東日本大震災から11年あまり。毎年、3月11日が近づくと連日報道されてはいますが、それも喉元過ぎればで、多くのマンション居住者の意識の中で地震を忘れかけているのではないでしょうか。
しかし、この間に、熊本地震、大阪北部地震、北海道胆振地震など大規模な地震災害は続いています。
そのような大きな地震が起きると、一時的には地震への備えを意識しても、歳月の流れとともに気持ちは緩み、「まあいいか」と先送りにしてしまいがちです。
しかしながら30年以内に70%の確率で直下型地震が発生すると言われていることは皆さんご承知のとおりです。
大規模な地震は必ず発生すると考え、意識することから始める必要があります。
東京都防災会議から「東京都の新たな被害想定」(令和4年5月25日)が発表されました。
これは平成25年に発表されたシミュレーションの10年ぶりの見直しになります。
近年、建物の耐震化が進んだこともあって、前回の想定より、被害が小さく想定されています。
とは言え、公表された都心南部直下地震(マグニチュード7.3)の想定では建物の被害約194,000棟、死者6,178人と、決して小さいものではありません(表1参照)。
①都心南部直下地震 | ②多摩東部直下地震 | ③大正関東地震 | ④立川断層帯地震 | |
---|---|---|---|---|
建物被害 | 194,431棟 | 161,516棟 | 54,962棟 | 51,928棟 |
死者 | 6,148人 | 4,986人 | 1,777人 | 1,490人 |
負傷者 | 93,435人 | 81,609人 | 38,746人 | 19,229人 |
避難者 | 約453万人 | 約276万人 | 約151万人 | 約59万人 |
電力 (停電率) |
11.9% | 9.3% | 4.0% | 2.2% |
固定電話 (不通率) |
4.0% | 2.9% | 0.9% | 0.9% |
上水道 (断水率) |
26.4% | 25.8% | 15.7% | 4.7% |
下水道 (管きょ被害率) |
4.0% | 4.3% | 2.9% | 2.0% |
ガス (低圧ガス供給停止率) |
24.3% | 12.5% | 2.8% | 2.8% |
東京都以外の地震被害想定については、以下をご参照ください。
耐震基準が昭和56年(1981年)に変わったことはご存知の方も多いことでしょう。
それ以前に建てられた旧耐震基準の耐震性は弱く、大規模地震の際に大きな被害を受けることはお分かりのとおりです(写真①参照)。
その一方で、新耐震基準だからと言って建物に被害が生じないわけではありません。
人の生命身体に被害がないというだけで、せん断破壊や給水設備の損傷など大きな被害が生じます(写真②参照)。
さらには揺れに強い免震構造だからと言っても、高層階での揺れが完全になくなるわけではありません。家具の転倒などにより被害が出るおそれがあるので、油断は禁物です。
マンション総合調査(平成30年版)によれば、マンションで自主防災組織を組織している割合はわずか16.4%(6組合に1組合程度)に過ぎません(下グラフ参照)。
また、何もしていない割合が23.4%(約4組合に1組合)にのぼります。
このように、マンションでの積極的な取り組みが少ないのには、理由があります。
地震がいつ起きるかわからず、先送りがちになること、それとともに災害が自分たちに降りかかることに無関心な区分所有者が多いことからですが、これらを解決するには問題に気付いた管理組合が、積極的に防災活動を始めるしかないでしょう。
まずは何といっても組織づくりです。
活動を継続するために旗を振る人がいなければ始まりません。
組織をこれから作るのであれば、「理事会主導」型、「防災委員会」型、「自主防災会」型と大きく3つのパターンが考えられます(表2参照)。
それぞれに特徴や一長一短がありますが、防災活動を継続させていくことを前提に、マンション(管理組合)の実状に合わせて選択します。
「防災に関心を持つ居住者が少なくて」という悩みを抱える組合も多くありますが、最初から大きな活動はできなくてもよいのです。
有志数人からでも始めるところに意義があります。まずは一歩を踏み出しましょう!
理事会主導型 | 防災委員会型 | 自主防災会型 | |
---|---|---|---|
特徴 | ![]() |
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文字通り理事会が中心になって活動 | 理事会の下部組織としての委員会として位置付けて活動 | 独立した組織として管理組合の防災業務を代行する形で活動 | |
適した規模 | 小規模マンション | 規模を問わず標準的 | 比較的大規模なマンション 防災に関心があるリーダーの下で活動 |
メリット |
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デメリット (課題) |
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組織を立ち上げるのであれば、その組織と活動の根拠を整備します。
具体的に言えば、根拠となる規約・細則の整備や防災活動のための費用の予算計上などですが、こうした活動を始める前に、組合員の合意形成を行い、管理組合のなかで理解を得ておくことは重要です。
防災活動とは、居住者のためであり、組合員でない居住者のために費用を使うことに抵抗がある方がいるかもしれません。
しかし、標準管理規約では管理組合の業務の中に「防災」に関する業務が規定されています(表3参照)。
また、管理費の用途にも「防災」の業務に要する費用も支出できるようになっています。
さらに、「自主防災会型」として別組織を作る場合でも、管理組合がマンションの「防災」に関する業務を「自主防災会」に委任し、その費用を管理費から支出することを総会で承認を取っておくことも可能です。
条項 | 内容抜粋 |
---|---|
第32条第1項 第12号 | マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに居住環境の維持及び向上に関する業務 |
第27条第1項 第11号 | その他第32条に定める(注釈:管理組合の)業務に要する費用 |
マンション住民が被災した場合、マンションが倒壊したり、火災で焼失したりしない限りは、マンションに留まって避難する「在宅避難」が基本です。
プライバシーがなく、劣悪な環境が想定される避難所よりも、マンション内の自室に留まることの方が、安心して避難と生活が継続できるからです。
エレベーターが停止するなど不便な生活があったとしても、避難所と比べれば、そのメリットは明らかでしょう。
防災組織が立ち上がったら、いよいよ活動開始です。
実際に首都直下地震が発生したことを想定し、大規模地震発生の際にマンションで何が起こるか、どの様な被害が発生するかなどをシミュレーションしましょう。
シミュレーションする際は、居住者がするべきこと(自助)とマンション全体でするべきこと(共助)に分けて考えます。
また、できれば参加型のワークショップ形式での実施が望ましいです。
ワークショップを実施する際は、一部の人だけでするのではなく、一つのイベントとして居住者に広く呼び掛けることが重要です。
広く呼び掛けることで、居住者の防災への関心を高めるとともに、管理組合で防災活動を行っていることを居住者にアピールすることができます。
また、参加者は大人だけでなく、小中学生もOKです。
親子で参加することで、子供の視点で問題を見つけることもできるし、何といってもワークショップの輪が広がります。
ワークショップで出された想定、それに対する意見やアイデアをベースに、時系列で実際に何をするかを話し合い、それを集約化してマニュアルにまとめていきます。
また、まとめていく際は居住者がするべきこと(自助)とマンション全体でするべきこと(共助)に分けて整理することがポイントです。
防災マニュアル的なものは広く社会に出回っています。
どれももっともらしく書かれていますが、汎用的なマニュアルでは実際の災害時にあなたのマンションならではのことがわかりません。
一例を挙げれば、災害の際の拠点の一つになる管理室(管理員室)の鍵を誰が保管するか、あらかじめ決めておかないと災害時に誰も鍵を開けられず、何も対応できないということになってしまいます。
参考にすることはあっても、汎用的なマニュアルをそっくりそのまま、マンションのマニュアルにすることは危険です。
地震が発生した場合、休日や深夜など時間帯によっては、管理員(管理会社)の援助を得られないことが想定されます。
ある意味で、管理会社も被災するため、仕方のないことですが、災害が発生した時にマンションにいる居住者が主体的に行動しなければなりません。
大規模災害時は、居住者以外には頼れないことをご理解ください。
同居家族の安否確認などは各居住者が自助としてしなければなりませんが、マンション全体のこと(例えば、建物の被害、エレベーターの停止、停電や断水など)には誰かが判断したり、対応する必要が出てきます。
その役割を担うのが「災害対策本部」です。
「災害対策本部」の役割や構成、災害時の立ち上げ方やタイミングなどを決め、マニュアルに加えておきます。
「災害対策本部」をどのタイミングで設置するかも重要です。
同じ建物でもフロアによって揺れ方が異なるなど人によって揺れの感じ方が違います。
そのため、誰にも共通な基準(例えば、「震度5強以上の場合に設置する」)など客観的な基準を決めておく必要があります。
家族の安否確認は同居の家族で行うのが当然ですが、同じマンションに住む居住者として、他の住戸の居住者が室内で無事にいるのか、家具の下敷きになって救助する必要があるのかなど、マンション内で命に関わる最悪の事態を引き起こさないために、「安否確認」することが望まれます。
余計なお世話かもしれませんが、これにより命が救えるなら、マンションに住む者にとって何ものにも代えられない安心感に繋がることでしょう。
特に単身で住む高齢者など、日ごろから助け合う体制を作っておくと安心です。
一定以上の震度の地震が起きた場合に、居住者が無事であることを知らせるために、マグネットを各住戸の扉の外側に掲出し、災害対策本部で安否を確認する方法が一般的です。
災害時対応マニュアルを作成していくと、災害時に何が必要になるかが見えてきます。
災害時に慌てて準備しようとしても間に合いません。
平常時から備蓄するものを選定し、確実に備蓄することが重要です。
その際、飲料水や食料などは各住戸(自助)で備蓄し、管理組合(防災会など)は各住戸で備蓄できない資器材(共助)を備蓄するのが基本です。
自助と共助の役割分担を居住者に啓発することも防災組織の大切な役割です。
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マニュアルの準備ができたら、防災訓練を行いましょう。
マニュアルはあくまでも机上のものですが、実地で体験することで不具合や不足するものが見えてきます。訓練で不足する事項が明らかになったら、それらをマニュアルに追記して、マニュアルの精度を上げていきます。
また防災訓練を実施する際は、居住者をできるだけ巻き込みながら、実施していくことが重要です。居住者の防災意識を高めることはもちろんのこと、居住者間のコミュニティ意識を高めていく効果もあります。
マンションでは消防法に基づき、消火、通報、避難の「消防訓練」の実施が義務付けられています。
一方の「防災訓練」は災害時にマニュアルに沿った対応ができるか確認するためのものです。
目的は異なりますが、どちらもマンションで欠かせない訓練です。
マニュアルを作っただけでは、実際の災害時に対応できないと言っても過言ではありません。マニュアル通りに動けるのか、十分な対応ができるのか、不足する備蓄品はないかなど防災訓練として体験することが重要です。
せっかく居住者が集まるのであれば、遊びやお祭り的な要素を加え、居住者が楽しめるイベントにできれば、コミュニティを醸成するよい機会にもなるでしょう。
今回は「地震への対応編」として基本的な対応についてお伝えしましたが、いかがだったでしょうか。
これから始めたいとお考えの方は、ぜひ管理組合のなかで共有していただきたいと思います。小さな一歩でも踏み出すきっかけになれば幸いです。
次回は、「風水害への対応」ついてお伝えします。
◇著者プロフィール
飯田勝啓
マンション管理士、防災士
災害時のマンションの被災状況を調査するとともに、首都直下地震や風水害への管理組合での対応を啓発するなど、マンションにおける防災活動に取り組んでいる。
マンション管理コンサルタント マンション管理士 重松 秀士(プロフィール)
資料請求 無料相談・お問い合わせ マンション管理士事務所
こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
国土交通省(以下「国交省」)が公表している「マンション標準管理委託契約書」はみなさまご存じのことと思います。ほとんどの管理会社がこれを基本にして管理組合と管理委託契約を締結しています。
しかし、国交省が作成したこのモデルに、管理組合のリスク管理上、見直しが必要と思われる重要な点があったことに気が付きました。
今回は、最近私が経験した管理会社変更事例において、管理組合と共にたいへんな思いをした事例をご紹介しながら、管理委託契約書の条件の一部見直しを提案したいと思います。
なお、文中記載の条文番号は、都合上「標準管理委託契約書」の条文番号を引用しています。
対象物件は都内23区内の一等地にあるマンションです。
竣工当時は別の管理会社が管理していましたが、紆余曲折を経て最終的には大手の管理会社が管理していました。
大手の管理会社ではあるものの、実は日常の対応にかなり問題があり理事会は手を焼いていたようです。
そこで、適切な管理組合運営を目指してマンション管理士の導入を検討され、面談等の選考プロセスを経て、複数のマンション管理士事務所の中から当事務所が選ばれました。
その後2020年の通常総会決議を経て業務を開始しました。
理事長のご指摘の通り、管理会社の対応にはかなり問題がありました。
いくつか象徴的な事例を挙げてみます。
管理会社提案の植栽管理に満足できなかったため、理事長がインターネットで別の植栽業者を見つけ、その業者の提案内容を理事会で報告したところ、あろうことか管理会社が現在出入りの植栽業者にその情報と内容を全て漏洩してしまいました。
これは明らかに守秘義務違反(第16条1項)です。
これだけではありません。
管理会社からそれを聞いた出入りの植栽業者が、提案をした植栽業者に電話して恫喝したことが判明しました。
私も同席の下、管理会社とオンラインで協議し、出入りの植栽業者を「出禁」としました。
異常発報がきっかけで、排水設備の点検報告書が約20年間提出されていないことが判明しました。
フロントマンに点検の実施内容を聞いてもきちんと答えられず、そもそも点検をやっていないのではないかと疑いたくなる状況でした。
幸い異常発報は「誤報」であり、点検自体も行われていたようですが、点検後の報告書提出を要請し、その後はきちんと報告書が提出されるようになりました。
顧問契約後、最初に相談を受けたのは電気設備の更新工事でした。
管理会社主導で複数の工事会社から見積りを取得済みだったのですが、私から見たら明らかに金額が高く、しかも各社の見積額ほぼ横並びで、管理会社主導で談合をさせている可能性が濃厚でした。
もしそうなら、善管注意義務違反(第5条)に相当します。
談合の証拠は見つからなかったものの、別の会社から見積りを取得したところ、全く同じ機種と仕様でほぼ半額でした。
幸い、本工事について管理会社とはまだ契約前だったので、契約先を変更することにより大損をしないで済みました。
火災保険の付保状況を確認したところ、再調達価額の100%を保険価額として契約していました。
マンションの火災保険はほとんどの場合「新価実損払い※1」なので、過去の保険事故の事例(支払金額)からしても100%付保する必要はありません。
当該マンションの再調達価額を考慮すれば30〜60%で十分なはずでしたので、その点も含めて再検討を進言・提案し、最終的には当事務所の新木マンション管理士の診断の下、大幅に保険料を下げることができました。
その後も理事会で約束したことを実施しなかったり、約束した納期を守ってくれなかったりが多かったので、担当者の上席を通じて、改善を申し入れました。
申し入れの結果、フロント担当者を変更してくれました。
変更後のフロントマンは、まじめな青年できちんと対応してくれたし、理事会との約束事項も必ず納期通りに実行してくれましたので、理事会は、やっと業務が順調に進みだしてほっとしました。
しかし、喜びも束の間。
それから約半年ほどで、そのフロントマンが退社してしまいます。
その後は、上席自らが本マンションの担当者となり業務対応をしてくれましたが、残念ながら、改善するどころかまた昔に近い状態になってしまいました。
そして、また問題が起こりました。
かねてから検討していた長期修繕計画見直しの承認と修繕積立金の値上げを臨時総会に諮り、議案は承認されたのですが、改定された修繕積立金を、決められた徴収開始時期から徴収できない事態が起きたのです。
理由を質したら、回答は「失念していました。徴収漏れの差額については来月の引落しに上乗せして徴収する予定です」でした。
長期修繕計画の見直しには、専有部分の給排水管を修繕積立金を使って更新する計画も含まれているので、修繕積立金も大幅に値上げする改定案でした。
そのため事前に説明会も開催し、十分な対応を実施したうえで決定したもので、理事会としては検討段階から多大な苦労の下に進めていた案件であり、組合員にとってもそのための対応が必要となる事案でした。
とはいえ、本件だけを見たら「大した問題ではないのでは...」と思う方もいらっしゃると思います。
組合員に謝罪・説明する手間などは発生するにせよ、普段きちんとやっていただいているならば、理事会も私も同様に思ったはずです。
しかし、前述のように大小様々な対応が積み重なり、そして残念ながら改善の兆しはなく、逆に不信感が増すような状況だったのです。
本件を重く受け止めた理事会は、管理会社の支店長に面談(オンライン)を申し入れ、善後策を検討することにしました。
残念ながら、支店長との面談はあまり意味のない内容となりました。
徴収漏れに関する件での組合員に対するお詫び文書の内容に関しては一応の話し合いができましたが、それ以外の不祥事に関する業務改善対応に関しては、何を話しても「今後気を付けます」を繰り返すのみで、細かなところを質問すると最後は「逆切れ」状態で「逆にどうすればいいですか?」と質問してくるなど、改善に向けた具体的な回答や提案等は示されませんでした。
また、業を煮やした理事長から、「(これだけ不祥事が続いても一向に改善する気配がないということは)当管理組合とはもうお付き合いをしたくないという意味ですか?」と確認したところ、「そのようなことは考えていません」との回答でしたので、改善される余地はゼロではないと、僅かながらの期待を残して面談を終えました。
しかし、その僅か数日後、事態は急展開するのです。
支店長との面談から数日後、その支店長から一通のメールが届きました。
メールの文面は簡単な内容で、「来年(2022年)6月が契約満了の管理委託契約を、管理委託契約第19条の規定に基づき、本年12月31日をもって契約を終了する。正式書面を追って送付する。」というものでした。
突然の契約解除の申し入れです。
契約書19条は、3か月前に書面で申し入れることにより、双方からいつでも契約を終了させることができる規定です。
メールが送られてきたのは9月10日なので、契約終了までの期間は3か月と20日。契約書の条文には違背していません。
それからさらに数日後、今度は社長名で正式書面が送られてきました。
管理会社の仕事ぶりから、いずれ再リプレイス等の事態になる可能性はあり得ると感じてはいましたが、先日の面談での回答もあり、私自身このような申し入れが来るとは予想できず、かなり戸惑ったことは事実です。
そして今回は、契約書に基づく管理会社からの申し入れなので、理事会としてはどうしようもなく、受け入れるしかありませんでした。
理事長から相談を受けた私は、直ちに今後のスケジュール表を作成し、
①新管理会社の選出
②組合員への説明会
③臨時総会
④管理会社の新旧引継ぎ
までを確認しましたが、どう考えても3か月では厳しく、無理なく通常のプロセスを経て行うには、6か月は必要だと思いました(下表参照)。
よって理事会は、当時の管理会社に対し、最低限の業務、つまり会計・出納・管理員・清掃・設備の法定点検だけは更に3か月延長するように申し入れましたが、管理会社の回答は「一切応じられない。契約書に基づき12月31日に契約を終了させる」というものでした。
ここでよく考えてみたいと思います。
標準管理委託契約書第19条(解約の申入れ)は、契約期間に関わらず双方から(管理組合側からも管理会社側からも)契約終了の申し入れができる規定です。
(解約の申入れ)
第十九条 前条の規定にかかわらず、甲及び乙は、その相手方に対し、少なくとも三月前に書面で解約の申入れを行うことにより、本契約を終了させることができる。
出典:国交省 マンション標準管理委託契約書
管理組合側から契約終了を申し入れる場合は、管理組合内でしかるべき準備(次期管理会社の内定や住民説明会の実施等)を整え、更に総会の決議をもって初めて契約終了を申し入れることになります。
ですから、管理会社に契約終了の申入れをしてから終了するまでの3か月間で、次期管理会社としっかり引継ぎをすることが可能です。
しかし、管理会社から突然解約を申し入れられると、それから3か月間で上記「①新管理会社の選出」から「④管理会社の新旧引継ぎ」までの作業や手続きをすべて実施しなければならず、どう考えても通常のプロセスではできそうにありません。
最近は、委託業務費の金額交渉がうまくいかなかったり、一部の居住者の対応に追われ管理員やフロントマンの業務が円滑に遂行できないなどの理由で、管理会社からの契約解除申し入れも散見されるようになりました。
ただ、私の過去の事例を見ても、契約書では3か月となっていても管理組合から延長の申入れがあると最低限の延長には全ての管理会社が応じていましたので、今回の管理会社の対応は、大手管理会社だという点、企業の社会的責任という観点からも大変残念に思います。
しかし、実際にこのような事が起こったことをふまえると、マンション管理委託契約書第19条(解約の申入れ)の契約解除の予告期間を見直す必要があると思いました。
具体的には、契約解除の予告期間を、乙(管理会社)から申し入れる場合は、少なくとも6か月とするように交渉したほうが良いと思います。
先行きがとても不透明な時代になり、事業の撤退等、今回とは違う形での契約解除申し入れの可能性もあるかもしれません。
どのような理由にせよ、もし実際に3か月前に契約解除の申し入れがあったら・・・と、現実的に起こった際を想定し、リスク管理の一環として委託契約書の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。
このような事態に陥った管理組合の混乱状況は、おそらくご覧になっている多くの方々にご理解いただけると思いますが、どうにか延長出来ないものでしょうか?
本件に関する公的機関・弁護士の見解は以下の通りです。
私が所属しているプロナーズの顧問弁護士に相談したところ、
との助言がありましたが、結論としては、訴訟等をやるよりは双方で話し合うしかないという内容でした。
前述の見解・助言を参考に管理会社に再度契約の一部を延長するよう申し入れましたが、管理会社の回答は変わらず「NO」でした。
理事会はこれ以上の話し合いは時間の無駄と判断し、次の管理会社を選定する作業に入ることにしました。
まずはマンションのグレードやコスト競争力などを考慮し、大手と準大手の中から複数社をピックアップして見積もりを依頼することにしました。
大急ぎで共通仕様書や見積要項書を作成、現地下見と質疑回答を経て見積書を取得。
金額や提出資料、提案内容などを考慮して契約先候補1社を絞り込みました。
本来ならば、1社に絞り込む前に複数社からプレゼンテーションを受けた後に本命の1社に絞り込むのですが、残念ながら今回はそこまでの時間はとれませんでした。
理事会は、絞り込んだ1社からプレゼンテーションを受け、フロント担当者とも面談して大きな問題はなさそうなので内定とし、説明会及び臨時総会に諮ることとしました。
メールで契約解除通知を受け取ってから、ここまで約1か月半。
次期管理会社を内定するまでに至りました。
理事会では、本件に関する協議・意見交換をほぼ毎日のように実施していましたので、当時の苦労(苦悩)は、計り知れないものだったと思います。
次は、組合員に対する説明会の開催です。
事案が重大な案件だけに、事情を組合員に説明し、臨時総会開催への理解を求めることが主な趣旨です。
理事会と管理会社で説明会資料を作成し、コロナ禍を考慮しオンライン形式で実施しました。
参加者は多くありませんでしたが、事前に全組合員に説明会資料を配布し、質問がある場合は書面で受け付けるべく対応しました。
当日、「管理会社に無理な要求をしすぎたから管理会社が手を引いたということは考えられないか?」という質問が出ましたが、監事と私からそうではない旨を説明し、理事会から管理会社に要望した事項として、以下の2点を回答しました。
普通にお仕事をされている方々であれば、社内外を問わず、ごく日常的にある常識的な範疇の内容であり、いずれも決して無理な要求ではないことがお分かりいただけるのではないでしょうか。
まずは臨時総会の準備です。
議案書作成は現在の管理会社に依頼できないので、理事会と当事務所で対応して配布しました。
9月10日に契約解除通知のメールを受信し、12月19日に臨時総会開催です。
管理会社変更の議案は、普通決議ですので可決することは間違いないと考えていましたが、総会承認前に新管理会社候補を交えた引継業務を開始することはできないので、引継ぎに必要な資料のうち、管理組合と当事務所で確認できる物は極力事前に確認する作業を行いました。
総会はリアル形式で開催しましたが、出席者全員の賛成により議案は可決しました。
臨時総会終了後から直ちに新旧管理会社で引継ぎ作業を開始し、旧管理会社との契約が終了する12月31日までには引き継ぐべき鍵の確認と警備関連の転送機の切り替えまで無事完了しました。
警備会社が新旧管理会社間で変更にならなかったことも幸いでした。
また、前述の通り、引継書類等の確認作業は、臨時総会で承認されてから新管理会社が実施するのでは間に合わない可能性が高かったので、事前に理事会と当事務所で確認作業を進めておいたことも奏功したと思います。
なお、本件の対応に際しては、急を要する上に僅か3か月という短期間で遂行しなければならず、無駄な時間をかけられなかったので、私の他に新木マンション管理士にも担当として、選定作業から議案書作成・引き継ぎまで、様々な実務と理事会のサポートにあたってもらいました。
私一人ではとても対応出来ませんでしたが、お陰で何とか無事引き継ぎまで対応することが出来ました。
これまで数々の管理会社変更を経験し、その中には、管理会社から契約解除を通知してきた事例もありましたが、本件のような酷い事例は初めてで、繰り返しになりますが、今後は管理組合側も管理委託契約書の契約解除の条件について、よく考えておく必要があると強く実感しました。
そして今回、このような酷いことをした管理会社は無名の業者ではなく、業界でも大手に入る著名な会社です。
少し前までは、管理会社から契約を更新しない、または途中で解約するということはあまり考えられませんでしたが、最近は少なからず耳にします。
背景には、管理会社のリプレイスによる競争、委託業務費の金額交渉などを行う管理組合が増えたことに加え、人件費の高騰があり経営が厳しくなっていることなどが考えられますが、大手の管理会社でさえこんな対応を取るのですから、十分注意された方が良いと思います。どうぞお気を付け下さい。
マンション管理コンサルタント マンション管理士 重松 秀士(プロフィール)
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こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
以前からこのブログでもお伝えしていますが、近年給排水管(給湯管を含む)の更新工事※1のコンサルティングが増えています。
マンションにおける給排水管の更新工事を円滑に実施するためには、専有部分をはじめ、克服しなければならない多くの問題があり、外壁等の大規模修繕工事とはまた違った難しさがあります。
そこで、現在工事を検討している管理組合、これから検討しようとしている管理組合の方々のために、改めて管理組合が給排水管の更新工事をじょうずに進めるポイント等について、最近の事例を織り交ぜながらご紹介したいと思います。
なお、最近建設されたマンションは、使用している給排水管の材料が、30〜40年前のマンションとは異なりますので、耐用年数も飛躍的に伸びています。
今回は、これから給排水管の更新工事を迎える築30年以上経過したマンションを対象としてお話しさせていただきます。また、更新工事に関する技術的な説明ではなく、管理組合運営(ソフト面)を中心に書かせていただきました。
給排水管は、壁のパイプスペースや床下(場合によっては天井裏)に隠蔽されていますので、普段は居住者が目にすることはありません。ときどき外部のメーターボックスを開けたときに、給排水管やガス管の竪管(共用部分)を目にするくらいです。
外壁塗装やタイルのように日常居住者が目にする場所であれば、「汚れてきた」、「破損している」などと分かるのですが、給排水管の場合は、傷んできても普通は分かりません。
では、どのようになったら給排水管の更新工事を検討するようになるのでしょうか?
「長期修繕計画において実施時期になっている」という理由もありますが、私が経験した事例では、「漏水事故」をきっかけに検討を始めることが多かったです。
ある日突然に上の階から水が漏れてきたという話をときどき聞かれると思います。
上階の人も、「水をこぼした覚えはない」という時などがその例です。
多くの場合は排水管の劣化による配管の穴あきで、生活排水(雑排水や汚水)が漏れてきますので、当然に大騒ぎになります。
漏水事故も、マンションによってその程度は様々です。
きれいな水であればまだ良いのですが、そうとは限りません。
排水管の横引管(個々の部屋の排水を竪主管まで流す配管)は、一般的には自室の床下に敷設されていますが、私がお世話になっている築40年以上のあるマンションでは、下階の天井裏を通っています。
このような状態で排水管から漏水したら、下階の人は、自分の部屋の天井から突然に雑排水や汚水が漏れてくることになるので大変です。
また、最上階の通気管※2が腐食して破損し、悪臭被害が出る場合もあります。
給水管の場合であれば、管内の錆が原因で「赤水※3」が流れてきたりするので、居住者から「どうにかして欲しい」とやはり騒ぎになります。
このように、給排水管の事故は生活と直結していますので、事故が発生したら直ちに対応(修理)することになりますが、一度事故が発生すると連続して同様の事故が発生することが給排水管の事故の特徴です。
どの部屋も同じ時期に同じ材料を使って建設しているので当然ともいえます。
そして、それなりのコストをかけて応急的な対応をしても、それ以降断続的に同様の事故が発生しますので、今後のことを考えると何らかの恒久的な対策をとらざるを得なくなり、ファイバースコープ、カメラ、レントゲン等の検査を経たうえで更新工事を検討することになります。
マンションが竣工して30年を経過すると、建物だけでなく設備関係の修繕も対象になってきますが、国土交通省が公表している昨年末の分譲マンションストック数は670万⼾を超え、その内、築30年以上を経過したマンションは230万⼾を超えています。
給排水管の更新工事は今後さらに増えていくことでしょう。
給排水管の更新工事は大規模修繕工事とは違った難しさがあると申し上げましたが、その主な違いを一覧表にしてみました。
大規模修繕工事 | 給排水管更新工事 | |
---|---|---|
大掛かりな足場 | 必要 | 不要 |
工事の対象となる共用部分 | 専有部分との区分が、比較的分かりやすい | 専有部分と一体となっており、区分するのが難しい |
工程管理 | 天候等に左右されるが、再調整することが可能 | 天候の影響は受けないが、1日刻みの詳細な管理が必要 |
住戸内への立入り | 原則不要 | 必要 |
室内工事 | なし | 内装の解体・復旧工事を伴うことが多い |
上記以外にもあると思いますが、大きな違いは、大規模修繕工事は原則として建物の外部を中心とした工事となるのに対し、給排水管更新工事は建物の内部を中心とした工事となることです。
居住者のお部屋の中に入っての工事となり、しかも壁や床(天井)の内装を壊して復旧するという作業がありますので、居住者のストレスは計り知れません。
そのうえ、1日刻みの工程をきちんとこなしていかなければなりません。
ですから、管理組合は「どんな困難を乗り越えてでも、この大変な工事を完成させないといけない」という強い覚悟と「居住者に対するきめ細かな配慮が大切」という思いやりが必要となります。
外壁等大規模修繕工事であれば、工事前に決めておくべき事項や居住者に対するお願い事項等は概ね決まっており、しかもさほど大きな資金負担につながるようなことはありません。
また、工事が進んでいくうちに予想外のことが発生しても、多くの場合は対応することが可能です。(もちろん資金的な問題はありますが...)
しかし、給排水管更新工事の場合は、事前に方針を決めて十分な準備をしておかないと、途中で簡単に方針を決定したり変更したりできませんし、またそのために臨時総会を開催しなければならなくなるなど、手続上もかなり厄介な問題があります。
以下に事例を交えながらいくつかご紹介します。
一部の例外を除いて、給排水管の横引管は専有部分※4です。
管理組合が行う工事の対象は、共用部分※5が原則ですので、「管理組合は共用部分である竪管を中心に更新するので、専有部分である横引管については、個人の判断と費用負担で実施(更新)してください。」となります。
しかし、前述のように給排水管については、共用部分と専有部分が一体化しており、密接な関係にあります。例えば、「我が家はお金がないから、横引管の更新工事はやらない。」となったらどうでしょうか?
どこからでも漏水事故が起こってもおかしくない状況になっているから、管理組合は更新工事を検討しているのに、更新工事を実施しても、横引管をそのままにしておけば、そこから漏水事故が発生する可能性が残ります。
マンションでは、給排水管を更新する場合は、竪管(共用部分)と横引管(専有部分)を同時に更新することが望ましいといわれています。
しかし、専有部分の工事を個人の判断に委ねてしまえば、せっかくの大事業が不完全な工事のまま終わることになります。
専有部分からの事故であれば、その責任は専有部分の所有者となりますが、下階を水浸しにしてしまった場合の損害賠償は高額になりますし、そうなってから自分の横引管を修理しようと思っても、更に多額の費用が掛かるので経済的な負担も甚大になります。
「保険に入っているから大丈夫」とおっしゃる方もいますが、築年数が経ったマンションにおいては保険料は高くなりますし、新規には引き受けない保険会社も出始めています。また、工事をしなかった特定の個人を守るために、管理組合が保険料を負担するのはおかしいという意見もあります。
私見ではありますが、給排水管の横引管は、専有部分であっても管理組合の責任と負担で、竪管(共用部分)の工事を実施する際に同時に行うべきと考えています。
しかし、そのためには「資金」の問題と「管理規約」の問題が出てきます。
「資金」に関しては、修繕積立金の値上げや借入れを検討して合意形成を図るべきと考えますし、「修繕積立金を専有部分の工事のために使用する」には管理規約も一部変更する必要があります。
国土交通省が公表している「マンション標準管理規約」が2021年6月に改正されましたが、給排水管更新における専有部分の工事に関するコメントが新たに追加されました。
条文自体は、「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」というもので、従来から変わっていません。
しかし、これに対するコメント、特に費用負担の部分が一部追加され充実しています。
第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。配管の清掃等に要する費用については、第27条第三号の「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。なお、共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の配管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要である。
出典:マンション標準管理規約 単棟型 21条(敷地及び共用部分等の管理)第2項のコメント⑦
従来は、「雑排水管等の清掃(高圧洗浄等)は、管理費からの支出で問題ないが、専有部分である横引配管を更新する場合は各区分所有者が個人で実費を負担するべき」という趣旨のコメントが記載されていました。
今回は、それに「共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる」と追加されています。
もう少し分かりやすく書くならば「各戸が単独で行うよりも安く工事が出来る場合は、修繕積立金を使って共有部分と専有部分をまとめて工事することも可能である」という感じでしょうか。
ただし、続けて条件の記載があることに注意しなければなりません。
更に、「先行して工事を実施している区分所有者に対しての補償の有無などにも十分に留意することが必要」と書かれている点も重要なポイントです。
余談になりますが、私がお世話になっているマンションで給排水給湯管の更新工事を実施した際に、専有部分の工事に関する費用を修繕積立金から支出して、管理組合が一部の組合員から訴えられた事例があります。
私のブログでも過去にご紹介いたしました。
【参考】修繕積立金を専有部分の改修に使用した事例の最高裁決定について
この裁判は最高裁まで争われましたが、結果は管理組合の勝訴となり、マンション管理関連の全国紙などでもかなり取り上げられました。
専有部分にかかわる工事となると「大丈夫なのか?」「いやいやダメだろう」とお考えの方もいらっしゃると思いますが、裁判により認められた事例になりますので、是非参考にしていただければと思います。
今回のマンション標準管理規約の追加コメントは、この判例がかなり影響していると思っていますが、前述のように築30年以上を経過したマンションが230万⼾を超える中、良好な管理状態を維持できるマンションが少しでも増えれば良いなと思います。
給排水管の更新工事は、室内の壁や床等を解体し、配管の更新工事が完了したら、また復旧するという工事がつきものです。
築30年以上も経つと、多くの住宅でリフォームを実施されており、内装等も竣工当初のものと違っています。場合によっては高額な内装材を使用したり、簡単に脱着することが難しいシステムキッチンに変更されたりしている住戸もあると思います。
内装等の解体復旧に関しては、基本的には管理組合の費用負担で実施しますが、以上のように各戸まちまちの仕上げについてすべてを管理組合で費用負担することは、資金計画の面でも公平性の面でも問題があります。ですから、事前に「管理組合としての対応基準」のようなものを作成し、何度もアナウンスすることが大切だと思います。
そして、管理組合が対応(復旧)する基準は、「壁紙ならば@●●円/㎡まで、床材(畳やフローリング等)であればこの程度まで、それ以上であれば差額は個人負担」のようにして、不公平感の無いようにしておくことが必要だと思います。
これも悩ましい問題です。
居住者には、室内の工事期間中(3日〜4日)は原則として在室していただくことになりますが、共働きのご夫婦の場合等は、なかなかそうはいきません。
このような場合は、工事業者に鍵を預けていただくしかないのですが、後のトラブル防止のためには、業者からは工事目的以外に鍵を使用しない旨の「誓約書」、居住者からは工事以外の室内のトラブルについては自己責任とする旨の「承諾書」を提出していただき工事を進めるようにします。
また、空家の場合も同様に外部の区分所有者と連絡を取り、期間中は鍵を貸していただくか、毎日開けに来ていただくかなどの対応をお願いします。
特に対応が難しいのは、室内に入らせてくれない住戸の場合です。
人を入れたくない理由はいろいろあると思います。
「病人がいる」「重要な書類や品物がある」のようなものもあれば、「管理組合のやり方が気に入らないから協力しない」など様々です。
今なら「新型コロナウィルスの感染が怖いから」という理由もあるかもしれません。
このような方々を説得して協力をお願いすることは、経験上容易ではありません。
しかし、ここであきらめてしまえば一大事業が完成しませんので、根気よく説得するしかありません。
お願いする際は、「この工事は、あなたの協力がないと、あなたの上下階の住戸の工事も完了しないので、管理組合だけでなく、他の住戸にも大きな迷惑をかけることになる」や、「あなたがこの工事を行わず、漏水事故が発生した場合は、あなたに高額の損害賠償責任が発生することもある」などを丁寧に話して理解していただくように努めています。
それでも協力してくださらない場合もありますが・・・POINT1の「外壁等の大規模修繕工事との違いを理解する」で申し上げた「強い覚悟」が必要という理由は、ここにあるのです。
何度も申し上げるように、給排水管(特に排水管)の更新工事は、居住者にとって多くのストレスがかかります。
一生に一度のこととはいえ、自分の生活への大きな影響が数日間に渡り及ぶわけですから、仕方がありません。
しかし、この工事は1日刻みのスケジュールを確実にこなしながら先に進めていかないとうまくいきません。
外壁等の大規模修繕工事であれば、「今日は雨が降っているから中止しよう」とか「諸般の事情で工程が遅れてしまったから、引渡し期日を少し先に延ばしてもらおう」等はよくある話ですが、給排水管の更新工事においては、上下階の関係もあり、「この日に確実にこの竪管を更新しておかないと、工程に大きな支障をきたす」とか「夜になっても、お水が使えなかったり、排水を流せなかったりする」など、大きな問題が発生します。
ですから、居住者が工事に協力してくれないと円滑に進められません。
管理組合はこれらのことを、機会あるごとに何回でも居住者にアナウンスしておくことが重要だと思います。
設計概要が固まったら「設計説明会」、工事会社が決まったら「工事説明会」などを開催し、工事の内容、特殊性を訴えるほか、とにかく居住者の協力がないと工事は成功しないことをお知らせしておくことが重要です。
ところで、居住者の中には、協力したくてもなかなかできない方もいらっしゃいます。
高齢の一人暮らしの方に、「事前に工事個所の家具等を移動しておいてください。」といっても、なかなかできません。
また、深夜勤務の警備業や看護師さんから、「昼間は寝ているので工事をしないでほしい」と言われることもあります。
私が経験した対応事例では、若い方がマンション内でボランティア組織を作り、高齢の方の家具や荷物の移動をお手伝いしたこともありますし、深夜勤務の方には、工事期間中はホテルや実家に泊まっていただくお願いをしたこともありました。(休暇をとって旅行に行っていただいたこともありました)
冒頭に申し上げた通り、今回は技術的なことは全て割愛し、工事に対する管理組合の運営ノウハウを中心に書かせていただきました。
給排水管の更新工事に関して申し上げると、工事自体はさほど高い技術水準を必要とするものではありません。
技術の進歩により、最近の材料は耐久性も高く施工もやりやすくなっています。しかし、工事を円滑に進めるためにやらなければならない事前の準備や居住者に対する配慮は、管理組合が主体となって進めていかないと良い結果は期待できません。
これから給排水管の更新工事をなさる管理組合はぜひご参考にしていただければと思います。
マンション管理コンサルタント マンション管理士 重松 秀士(プロフィール)
資料請求 無料相談・お問い合わせ マンション管理士事務所
こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
前回「長期修繕計画の学び直し①〜あるある問題事例と最近の傾向」に続き、今回は、長期修繕計画にまつわる「あるある誤解集」をご紹介します。
長期修繕計画で設定されている金額は、通常、現在における標準的な価格(いわゆる「定価」)で設定されています。
従いまして、見積合わせや入札などの適正な競争原理が働いた場合は、この金額よりも安く発注することは可能です。
ただ、なぜそのように設定するのかと言いますと、現在実際に発注できる金額で設定しておくと、将来の物価変動や社会情勢等の環境変化に対応できなくなる可能性があるからです。
例えば管理組合の一般会計予算案を作成する時、あるいは皆さまがお勤めの企業等における予算案作成時や、皆さまのご家庭における将来設計・貯金額の設定時などでお考えいただくと良いかもしれません。
全く余裕がない、ピッタリの金額で設定する(している)でしょうか。
通常、いずれの場合も、不測の事態等に備えてある程度の余裕を持たせるのが一般的です。
ご家庭の場合、不足した際にパッと融通が利く何らかの蓄えがあるならばギリギリでも良いかもしれませんが、管理組合ではそうはいきません。
特に高齢化が進んだマンションにおいては、一時金の徴収や修繕積立金の値上げは容易ではありませんので、将来の「安心」や「利便性・快適性の維持・向上」「資産価値の維持・向上」を考えるなら、なおのことではないでしょうか。
なお、長期修繕計画は定期的に見直すので、「高かったらその際に修繕積立金の額を下げればよい」という考えもあります。
マンションの状態・状況によってはそれで良い場合もあるかもしれませんが、下げる前に、
等について、確認・検討することをお勧めします。
これまで高経年化の団地等も含め多くのマンションのお手伝いをしてきましたが、建築時に最新であっても、その時々でよく検討した長期修繕計画であっても、想定外のことは起こり得ますし、内外の環境変化と共に適応が必要なこともあります。
分かりやすい例だとバリアフリー化や遊具・駐車場設備の見直し、それ以外のよくある分かりやすい例としては、給水方式の変更に伴う工事や照明のLED化等があります。
高額な工事ばかりではないものの、こうしたものを正確に予測し長期修繕計画に盛り込むことは困難であり、ある程度の余裕があれば、こうした想定外の事項に対して、修繕積立金の額を変更しないで対応可能な場合もあります。
通常、長期修繕計画に記載の工事は、新築時と同等水準の性能・機能を維持・回復することを想定しています。
新築マンションにお住まいの方はピンとこないかもしれませんが、数十年も経つと、様々な技術革新等により、住宅のスタンダードもかなり変わってきます。
資産価値の維持・向上の観点で言えば、例え現状に不満がなくても、近隣マンションの状況や、その時代に求められる機能や美観を考慮する必要も出てきます。
工事の際に十分に普及しているものであれば、当初の想定金額と大差ない金額でアップグレード出来てしまう可能性もありますが、場合によってはプラスα(アルファ)が必要になるでしょう。
また、高経年化した際に建替えをするのかしないかでも、その間の工事方針は変わるはずです。
何をどの程度考慮すべきかはマンションによって異なりますが、かなり先を見越した検討や方針、計画がないのであれば、将来的に修繕積立金不足になる可能性もありますので、ある程度の余裕を持たせておくことをお勧めします。
「高経年化に伴う」と前述しましたが、ご参考までに築30年以上のマンションにおいて想定される工事項目例をご紹介します。
しばしば見聞きするご発言ですが、先のご発言同様、長期修繕計画の正確性(不確実性)の観点からのご発言のものと、25年や30年先は自分に無関係と思っている方のご発言に大別されるように思います。
目先に迫っている工事は関心が高くなるものですが、マンションを適正に維持していくための長期間の資金計画が決まっていないと、目先の工事とはいえ、どこまでお金を使ってよいのか、または借入れをしてでも実施するべき工事なのか等の判断がしにくくなります。
結局は「今お金がこれだけあるから、その範囲内で実施しよう」となってしまいます。
これでは、適正な計画修繕は実施できません。
長期修繕計画(長期的視野)がないと、以下のようなことが起こります。
長期修繕計画の意義等、詳しくは前回の「長期修繕計画の学び直し①〜あるある問題事例と最近の傾向」に書かせていただきましたので、よろしければご一読ください。
お気持ちはよくわかりますが・・・ご発言者様がお亡くなりになった後も、マンションは誰かが引き継いで管理していかなければなりません。
ですから、「お亡くなりになった後に値上げ」ということは、今必要な値上げを先送りすることで、この先も長く住む予定の方や将来の区分所有者に多くの負担を強いることになります。
「この先のことなんて自分には関係ない」とお思いかもしれませんが・・・本当にそうでしょうか?
お亡くなりになるまでこのマンションで暮らすことができれば幸せですが、状況次第では、マンションを売却したり賃貸したりして、施設等に入る選択をすることになるかもしれません。
そうなった場合、適正に管理されているマンションとそうでないマンションでは、当然に売買価格や賃貸価格に差が出ます。
また、この先を憂慮した若い世代に見限られ、高齢者ばかりで管理をしなければならなくなったり、新規の入居者が増えず空室率が増えたせいで、管理費や修繕積立金の滞納が多くなり、財政難に陥ることもあり得ます。
そうなると、計画していた工事が出来なくなるだけではなく、清掃や点検等の日常管理が行き届かなくなり、配管が詰まったり悪臭が漂うようになったり虫が発生したり等、日常生活にも支障を来す可能性が出てきます。
今までと同様の管理をしようと思ったら、結局は住んでいる区分所有者の負担を増やさざるを得ず、管理費等の値上げや一時金の徴収ということになる可能性もあります。
私自身、実際に管理不全に陥っていた高経年化マンションのお手伝いをしてきていますが、中には多額の一時金徴収をせざるを得なかったケースもあります。
もしかしたら「仮定の話だろう」「不安を煽っているだけだろう」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが・・・実際に各地で起きていることなのです。
人生100年時代、既に定年退職された方であっても、この先20年、30年が視野に入る時代です。決して人ごとではないのです。
快適な生活を送るためには、日常の管理や計画的な修繕は非常に大切です。
ご自身が現在同等の快適性を維持したまま、安心して充実した余生を過ごすためにも、適正な長期修繕計画と資金計画が必要になることをどうかご理解ください。
長期修繕計画を非常に大切にお考えであることが分かるご発言です。
しかし、筋の通った考え方ではありますが、現状の管理規約や細則に特に定めがない場合、長期修繕計画の変更なしで実施可能です。
もちろん、特定の理事や修繕委員会、業者の意のままに適当な工事が実施されてはいけませんので、長期修繕計画をベースに実施することは非常に大切です。
信じられないかもしれませんが、管理組合が機能していないマンションでは、決して当たり前のことではないのです。
長期修繕計画の最大の目的は、今後一定期間の修繕積立金の額を設定することです。
概ね25〜30年間程度で設定しているところが多いですが、さらに長期間の計画を立てているところもあります。
そして、前の発言で価格について指摘がありましたが、工事項目や工事金額、工事実施時期はあくまでも目安です。
ですから、長期修繕計画に記載された工事の実施時期は、劣化の進行度、行政の施策(税率や補助金)、メーカーの事情(部品供給の停止)などに応じて、先送りも前倒しもあり得るのです。
ただし、マンション標準管理規約に準拠した管理規約の場合、修繕工事と長期修繕計画の作成または変更は、いずれも個別の管理として総会の議決事項とされています。(※)
従いまして、長期修繕計画にない工事の実施時はもちろん、長期修繕計画に記載された工事を予定通りに実施するとしても、個別に総会の決議をとる必要があります。
その点も誤解されやすいところですので、是非併せて覚えておいていただければと思います。
※マンション標準管理規約(単棟型)の場合、第47条及び第48条に記載があります
こちらも筋が通っている感じがしますが、残念ながらこの認識は誤りです。理事会決議で実施してはいけません(※)。
※マンション標準管理規約に準拠した管理規約の場合
非常に誤解の多いところですが、実は長期修繕計画が総会で承認されたとしても、それは今後の計画修繕の基本的な考え方(工事内容、工事実施時期、概算金額)が承認されたということを意味します。
決して個別の修繕工事の実施が承認されたわけではありません。
長期修繕計画は、マンションにとって極めて重要で必要なものですが、あくまでも目安であり不確実性を伴うが故に、実際に長期修繕計画通りに実施するかどうかは、その時々の状況に応じて判断していく必要があるのです。
また、区分所有法の第17条・第18条に以下のような条文があり、このことは法的に定められたことなのです。
(共用部分の変更)
第十七条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。
(共用部分の管理)
第十八条 共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
2 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。
3 前条第二項の規定は、第一項本文の場合に準用する。
4 共用部分につき損害保険契約をすることは、共用部分の管理に関する事項とみなす。
出典:建物の区分所有等に関する法律
区分所有法やマンション標準管理規約では、計画修繕工事(共用部分の変更)について具体的な議案の上程(提案)方法までは規定していませんので、単独議案とするのか、予算案で一括承認とするのか、または事業計画として承認してもらうのか等、工事内容や金額等に応じいくつかの上程方法があります。
しかし、繰り返しになりますが、通常、計画修繕工事を実施する際には、長期修繕計画とは別に総会承認が必要となります。
なお、「修繕積立金の改定」については、マンション標準管理規約では「普通決議事項」となっています。
ご参考までに、国交省のマンション標準管理規約の第48条を以下に転載いたします。
(議決事項)
第48条 次の各号に掲げる事項については、総会の決議を経なければならない。
一 規約及び使用細則等の制定、変更又は廃止
二 役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法
三 収支決算及び事業報告
四 収支予算及び事業計画
五 長期修繕計画の作成又は変更
六 管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法
七 修繕積立金の保管及び運用方法
八 適正化法第5条の3第1項に基づく管理計画の認定の申請、同法第5条の6第1項に基づく管理計画の認定の更新の申請及び同法第5条の7第1項に基づく管理計画の変更の認定の申請
九 第21条第2項に定める管理の実施
十 第28条第1項に定める特別の管理の実施並びにそれに充てるための資金の借入れ及び修繕積立金の取崩し
十一 区分所有法第57条第2項及び前条第3項第三号の訴えの提起並びにこれらの訴えを提起すべき者の選任
十二 建物の一部が滅失した場合の滅失した共用部分の復旧
十三 円滑化法第102条第1項に基づく除却の必要性に係る認定の申請 十四 区分所有法第62条第1項の場合の建替え及び円滑化法第108条第1項の場合のマンション敷地売却
十五 第28条第2項及び第3項に定める建替え等に係る計画又は設計等の経費のための修繕積立金の取崩し
十六 組合管理部分に関する管理委託契約の締結
十七 その他管理組合の業務に関する重要事項
出典:国交省 マンション標準管理規約(単棟型)
また、工事の内容次第ではその工事が共用部分の重大変更になる場合もありますので、「特別決議(組合員数・議決権数の各4分の3)」が必要になる事もあります。
前述の条文をご参照いただきつつ、以下の表をご参考にしてください。
ちなみに「長期修繕計画の承認」は、通常であれば前述のマンション標準管理規約の通り「普通決議事項」となっています。
総会で決議すべき事項である旨は、前述の区分所有法の第18条に定められていますが、第二項に「規約で別段の定めをすることを妨げない」とある通り、個々のマンション管理組合によって定めることが可能です。
2回にわたり長期修繕計画に関して書いてみましたが、いかがだったでしょうか。
築30年を超えると、初めて実施するような工事も出てきますし、内外の環境も変わってきます。
そうした中、資産価値を維持しながら快適な生活を続けるには、行き当たりばったりではなく相応の計画性が必要になります。
皆様のマンションにおいて、改めて長期修繕計画について見直したり考えたりするご参考になれば幸いです。
マンション管理コンサルタント マンション管理士 重松 秀士(プロフィール)
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