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長期修繕計画の工事金額は高い?30年は不要?あるある誤解集<長期修繕計画の学び直し②>

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2021年08月25日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。

前回「長期修繕計画の学び直し①〜あるある問題事例と最近の傾向」に続き、今回は、長期修繕計画にまつわる「あるある誤解集」をご紹介します。

長期修繕計画「あるある誤解集」

長期修繕計画の工事金額は高いので当てにならない!
この金額をベースに修繕積立金を算出したら、必要以上に高い修繕積立金を設定することになる!

解説

長期修繕計画で設定されている金額は、通常、現在における標準的な価格(いわゆる「定価」)で設定されています。

従いまして、見積合わせや入札などの適正な競争原理が働いた場合は、この金額よりも安く発注することは可能です
ただ、なぜそのように設定するのかと言いますと、現在実際に発注できる金額で設定しておくと、将来の物価変動や社会情勢等の環境変化に対応できなくなる可能性があるからです

例えば管理組合の一般会計予算案を作成する時、あるいは皆さまがお勤めの企業等における予算案作成時や、皆さまのご家庭における将来設計・貯金額の設定時などでお考えいただくと良いかもしれません。
全く余裕がない、ピッタリの金額で設定する(している)でしょうか。

通常、いずれの場合も、不測の事態等に備えてある程度の余裕を持たせるのが一般的です。
ご家庭の場合、不足した際にパッと融通が利く何らかの蓄えがあるならばギリギリでも良いかもしれませんが、管理組合ではそうはいきません
特に高齢化が進んだマンションにおいては、一時金の徴収や修繕積立金の値上げは容易ではありませんので、将来の「安心」や「利便性・快適性の維持・向上」「資産価値の維持・向上」を考えるなら、なおのことではないでしょうか。

見直しの際に下げればいいのか?

なお、長期修繕計画は定期的に見直すので、「高かったらその際に修繕積立金の額を下げればよい」という考えもあります。

マンションの状態・状況によってはそれで良い場合もあるかもしれませんが、下げる前に、

  • 長期修繕計画の記載工事に漏れがないか
  • コンクリート躯体をはじめとした各所の劣化状況をきちんと把握しているのか
  • 時代遅れ(非効率・低機能・無駄に高コスト等)になっている工事や設備が前提になっていないか
  • 高経年化に伴うアルミサッシュやドア等、専有部分も含めた給排水管・ガス管等、その他電気・防災設備、外構・土木工事等について検討されているのか
  • 建替えや再生工事等について検討されているのか

等について、確認・検討することをお勧めします。

これまで高経年化の団地等も含め多くのマンションのお手伝いをしてきましたが、建築時に最新であっても、その時々でよく検討した長期修繕計画であっても、想定外のことは起こり得ますし、内外の環境変化と共に適応が必要なこともあります
分かりやすい例だとバリアフリー化や遊具・駐車場設備の見直し、それ以外のよくある分かりやすい例としては、給水方式の変更に伴う工事や照明のLED化等があります。

高額な工事ばかりではないものの、こうしたものを正確に予測し長期修繕計画に盛り込むことは困難であり、ある程度の余裕があれば、こうした想定外の事項に対して、修繕積立金の額を変更しないで対応可能な場合もあります。

分譲時の仕様のままでは、資産価値の維持は難しい

通常、長期修繕計画に記載の工事は、新築時と同等水準の性能・機能を維持・回復することを想定しています。
新築マンションにお住まいの方はピンとこないかもしれませんが、数十年も経つと、様々な技術革新等により、住宅のスタンダードもかなり変わってきます。

資産価値の維持・向上の観点で言えば、例え現状に不満がなくても、近隣マンションの状況や、その時代に求められる機能や美観を考慮する必要も出てきます。
工事の際に十分に普及しているものであれば、当初の想定金額と大差ない金額でアップグレード出来てしまう可能性もありますが、場合によってはプラスα(アルファ)が必要になるでしょう。

また、高経年化した際に建替えをするのかしないかでも、その間の工事方針は変わるはずです。
何をどの程度考慮すべきかはマンションによって異なりますが、かなり先を見越した検討や方針、計画がないのであれば、将来的に修繕積立金不足になる可能性もありますので、ある程度の余裕を持たせておくことをお勧めします。

築30年以上で想定される工事項目

「高経年化に伴う」と前述しましたが、ご参考までに築30年以上のマンションにおいて想定される工事項目例をご紹介します。

【表】築30年以上で想定される工事項目

25年や30年も先はどうなっているのか分からないのでそんな話をしても意味がない!
そんなことよりも5〜6年先のことを真剣に考えた方が現実的だ!

解説

しばしば見聞きするご発言ですが、先のご発言同様、長期修繕計画の正確性(不確実性)の観点からのご発言のものと、25年や30年先は自分に無関係と思っている方のご発言に大別されるように思います。

目先に迫っている工事は関心が高くなるものですが、マンションを適正に維持していくための長期間の資金計画が決まっていないと、目先の工事とはいえ、どこまでお金を使ってよいのか、または借入れをしてでも実施するべき工事なのか等の判断がしにくくなります
結局は「今お金がこれだけあるから、その範囲内で実施しよう」となってしまいます
これでは、適正な計画修繕は実施できません。

長期修繕計画がないとどうなるのか

長期修繕計画(長期的視野)がないと、以下のようなことが起こります。

  1. 行き当たりばったりの修繕を実施してしまう
  2. 高額な修繕工事の計画が無視されてしまう
  3. 修繕積立金の値上ができず、いずれ資金不足に陥る(必要な工事が出来なくなる)

長期修繕計画の意義等、詳しくは前回の「長期修繕計画の学び直し①〜あるある問題事例と最近の傾向」に書かせていただきましたので、よろしければご一読ください。

自分は年金生活者なので修繕積立金の改定(値上げ)は死んだ後にやって欲しい!
(言ってることや計算については理解したが、今のままでいいんだよ・・・)

解説

お気持ちはよくわかりますが・・・ご発言者様がお亡くなりになった後も、マンションは誰かが引き継いで管理していかなければなりません。
ですから、「お亡くなりになった後に値上げ」ということは、今必要な値上げを先送りすることで、この先も長く住む予定の方や将来の区分所有者に多くの負担を強いることになります

ずっとマンションで暮らせなかったら・・・

「この先のことなんて自分には関係ない」とお思いかもしれませんが・・・本当にそうでしょうか?
お亡くなりになるまでこのマンションで暮らすことができれば幸せですが、状況次第では、マンションを売却したり賃貸したりして、施設等に入る選択をすることになるかもしれません。
そうなった場合、適正に管理されているマンションとそうでないマンションでは、当然に売買価格や賃貸価格に差が出ます

高齢化が進み、新規入居者が増えなかったら・・・

また、この先を憂慮した若い世代に見限られ、高齢者ばかりで管理をしなければならなくなったり、新規の入居者が増えず空室率が増えたせいで、管理費や修繕積立金の滞納が多くなり、財政難に陥ることもあり得ます。
そうなると、計画していた工事が出来なくなるだけではなく、清掃や点検等の日常管理が行き届かなくなり、配管が詰まったり悪臭が漂うようになったり虫が発生したり等、日常生活にも支障を来す可能性が出てきます。
今までと同様の管理をしようと思ったら、結局は住んでいる区分所有者の負担を増やさざるを得ず、管理費等の値上げや一時金の徴収ということになる可能性もあります

私自身、実際に管理不全に陥っていた高経年化マンションのお手伝いをしてきていますが、中には多額の一時金徴収をせざるを得なかったケースもあります。

人生100年時代。今後も快適な生活を続けるには?

もしかしたら「仮定の話だろう」「不安を煽っているだけだろう」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが・・・実際に各地で起きていることなのです。
人生100年時代、既に定年退職された方であっても、この先20年、30年が視野に入る時代です。決して人ごとではないのです。

快適な生活を送るためには、日常の管理や計画的な修繕は非常に大切です
ご自身が現在同等の快適性を維持したまま、安心して充実した余生を過ごすためにも、適正な長期修繕計画と資金計画が必要になることをどうかご理解ください。

長期修繕計画にない工事の実施や時期の変更をするなら、まず長期修繕計画の変更が必要だ!
計画修繕は長期修繕計画通りに実施するべきであって、長期修繕計画の修正なしに一切の変更は認められない!

解説

長期修繕計画を非常に大切にお考えであることが分かるご発言です。
しかし、筋の通った考え方ではありますが、現状の管理規約や細則に特に定めがない場合、長期修繕計画の変更なしで実施可能です

もちろん、特定の理事や修繕委員会、業者の意のままに適当な工事が実施されてはいけませんので、長期修繕計画をベースに実施することは非常に大切です
信じられないかもしれませんが、管理組合が機能していないマンションでは、決して当たり前のことではないのです。

長期修繕計画は、あくまでも目安

長期修繕計画の最大の目的は、今後一定期間の修繕積立金の額を設定することです。
概ね25〜30年間程度で設定しているところが多いですが、さらに長期間の計画を立てているところもあります。

そして、前の発言で価格について指摘がありましたが、工事項目や工事金額、工事実施時期はあくまでも目安です
ですから、長期修繕計画に記載された工事の実施時期は、劣化の進行度、行政の施策(税率や補助金)、メーカーの事情(部品供給の停止)などに応じて、先送りも前倒しもあり得るのです。

工事の実施には、総会決議が必要

ただし、マンション標準管理規約に準拠した管理規約の場合、修繕工事と長期修繕計画の作成または変更は、いずれも個別の管理として総会の議決事項とされています。(※)
従いまして、長期修繕計画にない工事の実施時はもちろん、長期修繕計画に記載された工事を予定通りに実施するとしても、個別に総会の決議をとる必要があります
その点も誤解されやすいところですので、是非併せて覚えておいていただければと思います。

※マンション標準管理規約(単棟型)の場合、第47条及び第48条に記載があります

長期修繕計画は総会で承認済みなので、そこに記載がある工事や修繕積立金の改定は、理事会決議で可能だ!
必要な工事や時期、金額を網羅した長期修繕計画なのだから、合意済みの内容で実施可能なら問題ないはずだ!

解説

こちらも筋が通っている感じがしますが、残念ながらこの認識は誤りです。理事会決議で実施してはいけません(※)。

※マンション標準管理規約に準拠した管理規約の場合

長期修繕計画と実際の工事の承認は別

非常に誤解の多いところですが、実は長期修繕計画が総会で承認されたとしても、それは今後の計画修繕の基本的な考え方(工事内容、工事実施時期、概算金額)が承認されたということを意味します
決して個別の修繕工事の実施が承認されたわけではありません

長期修繕計画は、マンションにとって極めて重要で必要なものですが、あくまでも目安であり不確実性を伴うが故に、実際に長期修繕計画通りに実施するかどうかは、その時々の状況に応じて判断していく必要があるのです。

また、区分所有法の第17条・第18条に以下のような条文があり、このことは法的に定められたことなのです

(共用部分の変更)
第十七条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。

(共用部分の管理)
第十八条 共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
2 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。
3 前条第二項の規定は、第一項本文の場合に準用する。
4 共用部分につき損害保険契約をすることは、共用部分の管理に関する事項とみなす。

出典:建物の区分所有等に関する法律

区分所有法やマンション標準管理規約では、計画修繕工事(共用部分の変更)について具体的な議案の上程(提案)方法までは規定していませんので、単独議案とするのか、予算案で一括承認とするのか、または事業計画として承認してもらうのか等、工事内容や金額等に応じいくつかの上程方法があります。
しかし、繰り返しになりますが、通常、計画修繕工事を実施する際には、長期修繕計画とは別に総会承認が必要となります

総会での議決事項

なお、「修繕積立金の改定」については、マンション標準管理規約では「普通決議事項」となっています

ご参考までに、国交省のマンション標準管理規約の第48条を以下に転載いたします。

(議決事項)
第48条 次の各号に掲げる事項については、総会の決議を経なければならない。
一 規約及び使用細則等の制定、変更又は廃止
二 役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法
三 収支決算及び事業報告
四 収支予算及び事業計画
五 長期修繕計画の作成又は変更
六 管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法
七 修繕積立金の保管及び運用方法
八 適正化法第5条の3第1項に基づく管理計画の認定の申請、同法第5条の6第1項に基づく管理計画の認定の更新の申請及び同法第5条の7第1項に基づく管理計画の変更の認定の申請
九 第21条第2項に定める管理の実施
十 第28条第1項に定める特別の管理の実施並びにそれに充てるための資金の借入れ及び修繕積立金の取崩し
十一 区分所有法第57条第2項及び前条第3項第三号の訴えの提起並びにこれらの訴えを提起すべき者の選任
十二 建物の一部が滅失した場合の滅失した共用部分の復旧
十三 円滑化法第102条第1項に基づく除却の必要性に係る認定の申請 十四 区分所有法第62条第1項の場合の建替え及び円滑化法第108条第1項の場合のマンション敷地売却
十五 第28条第2項及び第3項に定める建替え等に係る計画又は設計等の経費のための修繕積立金の取崩し
十六 組合管理部分に関する管理委託契約の締結
十七 その他管理組合の業務に関する重要事項

出典:国交省 マンション標準管理規約(単棟型)

普通決議と特別決議

また、工事の内容次第ではその工事が共用部分の重大変更になる場合もありますので、「特別決議(組合員数・議決権数の各4分の3)」が必要になる事もあります
前述の条文をご参照いただきつつ、以下の表をご参考にしてください。

【表】普通決議・特別決議と共有部分の工事例等

ちなみに「長期修繕計画の承認」は、通常であれば前述のマンション標準管理規約の通り「普通決議事項」となっています
総会で決議すべき事項である旨は、前述の区分所有法の第18条に定められていますが、第二項に「規約で別段の定めをすることを妨げない」とある通り、個々のマンション管理組合によって定めることが可能です。

【さいごに】

2回にわたり長期修繕計画に関して書いてみましたが、いかがだったでしょうか。

築30年を超えると、初めて実施するような工事も出てきますし、内外の環境も変わってきます。
そうした中、資産価値を維持しながら快適な生活を続けるには、行き当たりばったりではなく相応の計画性が必要になります。

皆様のマンションにおいて、改めて長期修繕計画について見直したり考えたりするご参考になれば幸いです。

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長期修繕計画の学び直し①〜あるある問題事例と最近の傾向

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2021年05月06日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。

長期修繕計画については、過去にも「マンションの長期修繕計画見直しのポイント 修繕積立金の目安・周期他」等で何度か取り上げて書いておりますが、依然として誤解等が多いと感じています。

この春から新たに理事になった方もいらっしゃると思いますので、今回から2回に分けて、最近の長期修繕計画書の傾向なども含め、改めて長期修繕計画についてご紹介していきたいと思います。
なお、本記事では、築年数が経過(15年以上)したマンションにおいて見直しを行うという前提で書いておりますので、その前提でお読みいただければと思います。


1.長期修繕計画の作成状況

国土交通省が実施した平成30年度マンション総合調査では、自分のマンションには長期修繕計画が備わっていると回答した管理組合は90.9%です。

【グラフ】長期修繕計画の作成・未作成の割合

管理組合が専門業者に依頼してかなりのコストをかけて作成したものから、管理会社が無料で作成してくれたものまで様々だと思いますが、多くの管理組合で長期修繕計画が整備されていることが分かります。

ところが、私が管理組合運営のお手伝いをした限りにおいて、長期修繕計画の意義や運用方法に関しては、意外と多くの管理組合が理解していないと感じています。
そもそも、自分のマンションに長期修繕計画があることをご存じない区分所有者の方も結構いらっしゃいました。

しかし、輪番制で運営される管理組合においてそうしたことは何ら不思議なことではありません。
さらに長期修繕計画の細部まで熟知している方となれば、一部のごく熱心な理事や修繕委員会の方々以外、ほとんどいないのが現実ではないでしょうか。

そうした背景もふまえ、今回は、改めて長期修繕計画の意義や早めに検討すべき内容等をご紹介していきたいと思います。

2.長期修繕計画がないとどうなるのか

行き当たりばったりの修繕を実施してしまう

適正な長期修繕計画書には、向こう30年程度を見据えたうえでそのマンションの適正な維持管理に必要な「工事項目」「概算工事費用」「工事実施時期」「資金計画等」が記載されています。

前述の通り、平成30年度マンション総合調査によれば、長期修繕計画を作成している管理組合の割合は約90%に上ります。
ところが、同調査の「計画期間25年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金の額を設定している割合」になると、53.6%に低下してしまいます

【グラフ】25年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金の額を設定している割合

長期修繕計画がないと、あるいは短期の修繕計画しかないと、例えば管理会社から、

「エレベーターの更新をしたらどうですか。耐用年数の25年を超えていますし、この機種は既に製造中止になっています。また法律で定められた部品の保存期間も終了しています。最近は省エネで地震対策も完ぺきな最新型の機種がありますよ。それに現在の修繕積立金の残高は●●円ありますから、ここで2千万円程度使ってもまだ残りますよ。」

などといわれて工事を実施してしまうことが典型的な事例です。

この話を聞いて「そんなバカな」と思われる方々も少なからずいらっしゃると思いますが、実はこんな事例はいくらでもあるのです。

決して管理会社の提案が悪いといっているわけではありませんが、管理会社にも事情があるのでしょうか、時々びっくりする提案をしてくることがあります。
過去に私がお世話になった管理組合の事例においても、思わず耳を疑いたくなる工事を実施している管理組合が結構ありました。優先順位や今後の資金計画を考えないで、高額な修繕工事を実施しているのです
その典型が、エレベーターの更新、電気幹線の張替え、給水竪管の更新、機械式駐車場の更新等です

これらの工事の中には、いつかは必ず実施しなければならない大切な工事もあります。
ですからやってはいけませんよといっているのではありませんが、優先順位(必要性)と今後の資金計画を考えないで実施してしまうと、その後本当に必要な工事を行わなければならないときになって、資金不足を理由に、管理組合内での合意形成が得られなくなったりします。
そうなるとマンションの資産価値の維持にも影響が出てきます。

高額な修繕工事の計画が無視されてしまう

【イラスト】アルミサッシ代表的な事例は、「アルミサッシュ(共用部分)の更新」です
ご存知の方も多いと思いますが、アルミサッシュの更新には高額な費用(数十万円〜百万円程度)がかかります。耐用年数は35年前後ですが、この工事の実施については、日頃から管理組合で検討をしておく必要があります。

アルミサッシュ更新に関する方針例

  1. 一定の時期に管理組合で全数の更新工事を実施する。
  2. 管理組合で実施するには負担が大きいので、共用部分ではあるが、一定の条件下で個人での実施を認める。
  3. 定期的に部品交換を管理組合で実施し、極力延命を図る。

などがありますが、どの案を採用するかによって工事費用(資金)が大きく変わりますので、本来ならば管理組合で十分に議論を重ねたうえで、その方針をきちんと長期修繕計画に反映させておくべきなのです

しかし、長期修繕計画がないと、そんな面倒くさいことを検討することはできず、結局は議論されないままダラダラと年数だけが経ってしまい、気が付いたときは「●●号室の人は、自分で勝手にやったみたいだ。」とか、「サッシュの動きが重たくなってどうしようもないのだけれど、どうしたらいいの?」などの声が聞こえてくるようになります。
管理組合としてはこのような状態になってから対応しようとしても、適正な対応ができない場合があります。

修繕積立金の値上ができず、いずれ資金不足に陥る

【イラスト】修繕積立金が不足して青ざめる人マンションを適正に維持にするには、管理費にしても修繕積立金にしても、それなりの費用負担を伴います。
無駄遣いをしないで節約することと、必要なお金をきちんと使うことは別に考えなければなりません

戸建て住宅とは違い、合意形成が難しいマンションの場合は、日頃から適正な修繕積立金を徴収する必要があり、更にマンションが直面する事情や社会情勢の変化等に応じてその徴収額は改定(値上げ)していかなければなりません。
しかし問題は、値上額の妥当性をいかにして区分所有者に理解していただくかです。

3.長期修繕計画の意義

長期修繕計画の持つ意義は、以下3つに集約されます。

長期修繕計画の意義

  1. マンションの適正な維持・管理に必要な修繕計画と資金計画を明確にし、予めそれを区分所有者に周知する
  2. 「1」により、多額の費用を伴う大規模修繕工事等の合意形成をやりやすくする
  3. 「1」により、適正な額の修繕積立金を算出する根拠資料とする

残念ながら、心血を注いで作成した長期修繕計画を「見たことがない」という方もいらっしゃいますが、、、作成した長期修繕計画は、きちんと配布して周知〜合意を得ることが非常に重要です。

また、適正な修繕計画であることが前提になりますが、前述の通り、修繕積立金の値上げが必要になった際にとても重要なポイントになるのが「3」だと感じています

そして、適正な修繕計画であるためには、長期修繕計画を定期的(5〜6年)に見直して、修繕積立金の徴収額が適正な範囲を維持できているか等を継続的に検証していただく作業も重要です

予め不測の事態や物価上昇等を加味し、かなり余裕を持たせた計画を立てている管理組合もありますが、大規模災害も含め、何十年も先まで正確に予測することは困難です。
また、状況によっては専有部分の給排水管の更新について、あるいは、建替えや再生工事、解体を視野に入れた議論が必要になるかもしれません。


4.最近の長期修繕計画見直しの傾向

専有部分の給排水管の更新を見込む

長期修繕計画において修繕の対象となっている部位は、「共用部分」です。
そして、専有部分の維持管理は、個人の責任と負担で実施することが「建前」です

築30年以上経過したマンションにおいては、給排水管の更新工事が重要なテーマとなりますが、そのようなマンションの管理のお手伝いをしているうちに、あることに気づきました。
専有部分の給水(給湯)管や排水管の更新については、個人での実施を前提に修繕計画を進めようとしても、個人の考え方の違いや経済的な事情等が影響し、専有部分の工事が進まないことです。

そうなると、共用部分(竪管)を更新しても、専有部分を原因とした漏水事故が多発するようになり、多額の損害賠償の問題、上下間住戸の近隣トラブルの問題、管理組合が関与を余儀なくされる煩わしさの問題等が起こり大変なことになります

【イラスト】保険証券「保険に入っているから大丈夫」という考え方もあるかもしれませんが、最近の高経年マンションで発生している漏水事故の多さは保険会社も十分知っています。
実際、漏水事故が頻発した高経年マンションにおいて、更新時に高額の保険料になり、更新を断念した例は結構あります。
そうしたマンションの中には、各戸の自己責任とし、リフォーム時の工事を促したり個人で加入する保険でカバーするよう周知したりしている例もありますが、保険については「"経年劣化"による水漏れ」をカバーしているかしていないか、将来的な保険料の値上げの可能性等についても、しっかり周知しておく必要があると思います。

私は長期修繕計画に専有部分の給排水管の更新を見込むようにお勧めしていますが、これにも以下のような注意点があります。

給排水管更新工事の注意点

  1. なるべく早い時点で管理組合としての考え方を周知しておく。
    築年数の経過とともに専有部分のリフォーム工事も多くなってきます。区分所有者によっては、このときに専有部分である給排水管の横引管を更新される場合があります。
    後になってから、専有部分の工事を個人負担でやった方と管理組合の負担でやった方の不公平感が出ないように、管理組合で実施する方針が決まれば、なるべく早く区分所有者にお知らせした方が良いと思います。
  2. 管理規約を改正する。
    最近のマンションの管理規約は、多くの場合国土交通省の「マンション標準管理規約」をベースに作成されていますが、専有部分の工事に関しては、要約すると「共用部分と一体化している個所(給排水管はその典型です)に関しては管理組合が管理(工事)を行うことができるが、費用負担は個人である(修繕積立金を使用してはならない)」となっています。
    この部分に問題があり、専有部分の工事に修繕積立金を使ったことについて裁判に発展している場合もあります。

このようなことが起こらないように、「共用部分と一体化した専有部分の工事に、修繕積立金を使用することができる。」というように管理規約を改正しておくことをお勧めしています

段階増額積立方式より均等積立方式

【イラスト】お金の束修繕積立金の積立方法には2通りあります。
数年ごとに積立金の額を少しずつ増やしていく方式を「段階増額積立方式」といいます。この方式は、以前は多く採用されていました。特に分譲会社が最初に提示する長期修繕計画においてはほとんどこの方式です。
購入当初の積立金の負担を少なくした方がマンションを分譲しやすいという分譲会社の思惑もあるなどと言われていますが、結局はツケを先送りする理屈と同じで、将来負担する修繕積立金の額が大きな額となってしまいます。

一方、積立期間中の徴収額を変えない積立方式を「均等積立方式」といい、当初の負担額は大きく感じることもありますが、その金額が将来通じて変わらないというメリットや途中でマンションを購入する人にも分かりやすいということもあり、最近はこの方式を採用する管理組合が多くなっています
前述の国土交通省のガイドラインでもこの方式を推奨しています。

大規模修繕工事の実施周期を12年より長く設定する

2008年に国土交通省から公表された「長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン」では、多額の費用を使って実施する外壁や屋上の修繕工事(いわゆる「大規模修繕工事」)の実施周期は、「参考」とはしているものの12年と記述されています

この「12年」は、昔から多くの書籍や資料で目にしますが、明確な根拠はありません。
もちろん法律で定められているわけでもありません。

「屋上防水工事の保証期間が一般的には10年なので、期待耐用年数は12年くらい・・・」とか、「外壁のシール材の耐用年数は10〜12年くらい・・・」など、なるほどと思うような説もありますが、この12年周期を延ばすことができれば、長期修繕計画の計画期間中の大規模修繕工事の回数を減らすことができるので、その分計画期間中の工事費用総額を減らすことができます

仮に15年前後の周期に延ばすことができた場合、たった2〜3年ではありますが、長い目で見れば大規模修繕工事の回数を減らすことが可能になります。

そうなると、当然ですが、修繕積立金の設定額(増額)も少なくて済みます

【イラスト】大規模修繕工事等で組んだ足場ただし、大規模修繕工事の周期を延ばすためには、外部仮設足場を必要とする工事(具体的には外壁塗装、シール打替工事、タイル補修工事など)について、それなりの耐用年数が期待できる材料や工法を考える必要があります
従いまして、まずは次回の大規模修繕工事をそれに対応できる仕様で計画し、その次からの大規模修繕工事を新たな周期で計画すると良いと思います

なお、以前の記事「施工不良、剥落事故...マンションの外壁タイル問題について」でも触れましたが、タイル、石貼り等を使った外壁については、建築基準法第12条に基づく定期報告制度により、全面打診等の調査が必要になります
「竣工、外壁改修等の後10年を超えてから最初の調査である場合」と定義されているため「基本的に10年毎に全面調査・報告が必要」になりますが、「3年以内に外壁改修もしくは全面打診等を完了することが確実である場合」は全面調査の猶予が認められています。
つまり、従来通り大規模修繕工事が12年周期の場合、大規模修繕工事の際に外壁調査を行うようにしても大丈夫で、その場合は外壁調査のためだけに新たに足場を組まずに済み効率的です。

しかし、大規模修繕工事の周期が延びる場合、外壁調査のためだけに足場を組む必要が生じる可能性があります

足場を組むのは結構な費用がかかってしまうため、外壁調査のためだけに足場を組むのは非効率ですが、その場合、打診ではなく赤外線調査(ドローンを使った目視+赤外線調査含む)という方法もあります。
ただし赤外線調査は、例えば東京都の定期報告に関するQ&A
「東京都所管物件においては、赤外線調査を行うことで、落下により危害を加えるおそれのある部分の劣化及び損傷の状況が正確に判断できる場合、赤外線調査での確認を認めています。赤外線調査を行う場合、測定確度が確保できるか、障害物はないか等に留意した上で調査を実施してください」
と記されている通り、条件によっては期待する精度を確保出来ない場合があるので、その点には十分な注意が必要です
検討時、所管の特定行政庁にも確認を取るのが良いと思います。

【さいごに】給排水管の更新については十分に議論を!

今回は、長期修繕計画に関する基本的な内容と最近の傾向が中心となりましたが、いかがだったでしょうか。
次回は、長期修繕計画にまつわる誤解集をご紹介する予定です。

なお、本文でも触れた専有部分の給排水管の更新については、長期修繕計画の「建前」からは逸脱するかもしれませんが、区分所有者の皆様で一度十分に議論されることをお勧めします

<余談>

冒頭でもお伝えしたとおり、今回の特集で取り上げた長期修繕計画は、築年数が経過(15年以上)したマンションにおいて見直しを行った際の長期修繕計画書を対象としています。
その理由は、最近分譲されたマンションの長期修繕計画は、使用部品の材質が違ったりして計画周期等が異なる工事等があることです。
また、マンション自体も、設備の更新工事がやりやすい設計上の配慮もされています。
何十年も経たないと分からないこともありますが、技術の進歩や材料の進歩によって、より長持ちする、より維持・管理しやすくなるマンションが出来ているのはとても良いことだと感じています。

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事例:住宅紛争審査会での調停〜裁判まで<マンションに欠陥が見つかったら②>

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2021年04月08日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

みなさまこんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。

前回「マンションに欠陥が見つかったら①~住宅品確法とその活用」は、住宅品確法の立法趣旨と、マンション管理組合が活用できる3つの制度「1.瑕疵保証制度」「2.住宅性能表示制度」「3.裁判外紛争処理制度」についてご紹介しました。

今回は少し掘り下げて、実際のマンションで発覚した「大量の外壁タイルの浮きや剥離」「構造スリットの未施工」から、実際に「3.裁判外紛争処理制度」の「住宅紛争審査会での調停」を活用した事例、そして裁判へと繋がるまでの経緯等をご紹介していきます。

1.マンション概要

対象となったマンションは、当事務所が大規模修繕工事コンサルティングを受託したマンションです。

該当マンションの概要
  • 築年数:13年
  • 売主:大手デベロッパー
  • 建設住宅性能評価書:あり

2.調停までの経緯

10%超のタイルに浮きや剥離。未施工も発覚

大規模修繕工事の設計段階から外壁等のタイルの浮き・剥離が多いことは分かっていましたが、工事実施の際に総足場を架けて調査したら、総タイル面積の10%以上のタイルに浮きや剥離が発見されました
また、設計図で指示されていた構造スリットの一部が未施工だったことも判明しました

【写真】外壁タイルの浮きや剥離の様子01【写真】外壁タイルの浮きや剥離の様子02【写真】外壁タイルの浮きや剥離の様子03
発見された外壁のタイル浮きや剥離の様子。目地ずれも確認されました

補修費用の負担を求めるも、売主は応じず...

これだけのタイルを当初の予定通りに修繕した場合は数千万円の追加費用がかかることが判明したので、売主に対し「未施工となっている構造スリットの速やかな施工とタイルの補修費用の負担」を求めましたが、売主からは「見舞金」として数百万円の支払意思はあったものの、全体的には誠意のある回答ではありませんでした

住宅紛争審査会に「調停」の申し立てへ

理事会で検討した結果、不法行為による訴訟という選択肢もありましたが、このマンションは「建設住宅性能評価書」の交付を受けていたので、管理組合で臨時総会を開催し、住宅紛争審査会に対し「調停」を申し立てることにしました。

【写真】対象マンションの建設住宅性能評価書
対象マンションの建設住宅性能評価書。性能項目毎に、等級や数値が示されています。
これがないと、裁判外紛争処理制度(今回の事案だと、住宅紛争審査会による「調停」)を利用できません。

3.住宅紛争審査会での調停

調停では、弁護士1名と建築士2名が調停委員として管理組合、売主双方の意見を聞く形で数回実施されました。
売主側の主張をまとめると以下のとおりです。

売主側の主張

  1. タイルの施工に問題があったことは認めるが、売主としての瑕疵担保責任期間の10年は経過しており、タイルの施工不良に対しての損害賠償責任はない
  2. 設計図に記載のある構造スリットに関しては、自社で再検証のうえ、必要と判断したら施工する
  3. 交渉段階で提示した数百万円は、売主としての社会的責任を考慮したうえでの「見舞金」であり、金額の算定根拠はない

品確法による調停は困難。裁判なら「不法行為」か

調停委員としての弁護士の意見も、10年を経過しているので品確法による調停は難しいと思うことや、民法上の「債務不履行」にしても10年の時効を過ぎているため、訴えるのであれば、施工業者を「不法行為」で訴えるしかないのではないかという内容でした

管理組合は、調停を中止したうえで裁判に移行することも検討しましたが、弁護士費用の件や、長期化すれば理事会の負担も大きくなることなどを考え住民アンケートを実施した結果、見舞金の増額を求める形で引き続き調停の場で解決策を模索することにしました。

しかし、最初は「協議してまいりたい」といっていた売主ですが、調停の場においても一向に進展する気配がなく、また、本件以外の諸事情も重なって調停は打ち切りとなりました。

裁判で、売主・施工業者の不法行為責任を追及へ

やむを得ず、最後の手段である訴訟について住民への経過説明会を実施した結果、裁判で追及するべしとの意見が多数だったため、訴訟のための臨時総会を開催。売主や施工業者の不法行為責任に対する「裁判申し立て」が決定し、現在も係争中です。

これまでの経緯をまとめると、以下のようになります。

一連の経緯

  1. 大規模修繕工事を控え、調査を実施。大量のタイルの浮き・剥離や未施工箇所が発覚
  2. 売主に対し「未施工箇所の速やかな施工とタイルの補修費用負担」を求める
  3. 売主から「見舞金」として数百万円の支払意思を含めた回答がある
  4. その後も金額の増額を求めて交渉を重ねたが、のらりくらりの回答に納得がいかず、理事会で住宅紛争審査会への「調停申し立て」を発案
  5. 臨時総会を開催し「調停申し立て」を決定
  6. 住宅紛争審査会による調停を数回実施
    • 調停委員より、品確法による調停は困難との見解が示される
    • 調停委員より、訴えるなら「不法行為」という形しかないのではとの見解が示される
    • また、不法行為の消滅時効も迫っているとの説明を受ける
  7. 期待する結果を得られないまま、調停の打ち切り
  8. 経過説明会の結果、裁判支持の意見が多数だったため、訴訟のための臨時総会を開催。「裁判申し立て」が決定
  9. 裁判を申し立て、現在係争中

4.調停を終えて

今回の調停について、個人的な見解等を交えながら、ポイントをまとめていきます。

住宅紛争審査会への申立ては、施工不良が明らかでも、品確法の適用がある「10年以内」でなければ、期待するような結果は得られない

品確法をご存じの方からすれば「当然だろう」というご指摘があると思います。
もちろん、この点を理解せず調停を申し立てた訳ではありません。

ではなぜ敢えて調停を申し立てたのか-。
第一に、出来ることなら売主としての社会的責任を喚起し、裁判をせずに解決を図りたい意図があったからです。前述の通り、不法行為による訴訟は最初から視野に入っていました。
もちろんそれはこちらの都合であって「10年の壁」を超えられる可能性はゼロです。

第二に、今回のケースでは、「10年の壁を超えられるのでは」というより「何とか超えたい」と強く願う理由がありました。
それは、「住宅性能評価を受けている優良マンション」という触れ込みで販売していた上で発覚した明らかな「施工不良実態」だったから、です。
住宅購入者(管理組合)の立場からすれば、到底容認できることではないことがご理解いただけるのではないでしょうか。

第三に、我々が事前に収集した情報では、今回同様10年を過ぎて発覚した同様の問題(タイルの剥離)に対し、大手デベロッパーが実際に補修したり、補修費用を負担したりした事例があったからです。
しかし、数百万円の見舞金支払意思はあったものの、のらりくらりの回答が続き、調停の場であれば、その協議がより良い形で進むのではないかという期待がありました。

こうした実態と経緯が伴えば、たとえ10年を超えていたとしても、「欠陥住宅の供給を防止し、住宅購入者の利益を守る」という立法趣旨の下、訴訟を起こすことなく、より良い解決に導ける可能性があるのでは、という期待、「ひょっとしたら」という願いがあったのです。

しかし、調停外の解決策(不法行為による訴訟)も示されたものの、あくまでも品確法ベースの調停であり、相手の側の主張が大きく変わることもなく、住宅購入者(管理組合)が望むような結果は得られませんでした。
たとえ明らかな「施工不良実態」があり相手が施工不良を認めていても、残念ながら調停で状況を変えることは出来ないのです

そして、調停当初の売主の「協議してまいりたい」という答弁は、時効等を狙った時間稼ぎの作戦でしかないことも分かりました
僅かでも相手の良心に期待するなどお人好しだと言われればそうかもしれませんが、こうした事実も含めてより多くの管理組合に知っていただき、早めの対策に繋げて欲しい、また、同じような状況になった際に参考にして欲しいと強く願っています。

結果だけ見れば「当然だろう」と思われても仕方がありませんが、住宅購入者(管理組合)の側としては、やはり納得できない、大変残念で不満が残る結果でした。

中立な第三者専門機関による見解を聞くことが出来、管理組合が低コストで行える最初の対応として、また、今後の方針を決める一助として、一定の価値はあるのではないか

今回の調停結果は不本意なものでしたが、それ抜きに冷静に考えた場合、(たとえ築10年以上であっても)管理組合がこの制度を利用する価値はあるのではないかと思いました。

  • 中立な第三者立ち会いの下、お互いの主張を冷静に確認できること
  • 調停委員である専門家(弁護士・建築士)から、中立な第三者としての見解を聞けること
  • 調停外の解決策を提示してもらえる可能性があること(今回であれば不法行為による訴訟という手段が示されました)
  • ゼロから弁護士等を探し、同等のコストや労力で同等の結論にたどり着くのは難しいように感じたこと

たとえ不本意な結論であっても、法律の下に設立された中立な第三者専門機関ですから、単に「相談した弁護士にこう言われました」よりは、合意形成・意思決定しやすいように思います。
しかしながら相応に時間はかかりますので、コストを掛けてでも早く結論を出したい場合は、この手の問題に強い弁護士に相談する方が早いかもしれません。
また、前述の事例のように不法行為による訴訟を考える場合、消滅時効があるのでくれぐれもご注意ください。問題が発覚したら、速やかにいつ時効になるかをご確認いただくのが良いと思います。

それと、後述しますが、争点によっては(今回であれば、築10年以上で「タイルの浮き・剥離」だけであれば)門前払いになる可能性もありますのでご注意ください

タイルの浮き・剥離の問題は、住宅紛争審査会での事案として適当なのか?

今回の事案には、構造スリットの未施工という問題があり、これ自体は「構造耐力上主要な部分の瑕疵」といえるので申立てが門前払いとなることはありませんでしたしかし、タイルの浮きや剥離はどう考えたらよいのか、私自身も迷うところです

施工不良によるタイルの浮きや剥離は、落下したタイルによって重大な人身事故に発展する可能性もありますし、区分所有法第9条※1も絡んで管理組合にとっては深刻な問題です。

しかし、「タイル」そのものは外装材なので構造耐力上主要な部分には当たりません
過去に私が読んだ参考書や専門家の意見によると、外壁を覆っているタイルが剥がれてしまうとコンクリートが剥き出しになり、そこから雨水が室内に侵入するので「雨水の侵入を防止する部分」と解釈できるという説もありました。私もこの考えには賛成ですが、今回の場合は「10年の壁」がネックになってしまいました 。

※1 マンションの設置又は保存に瑕疵があり、他人に損害を与えた場合はその瑕疵は共用部分の設置又は保存にあると推定する

「住宅性能評価」という言葉や「品確法(とその制度)」を過信しないこと

大前提は、新築後10年以内のマンションで、構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分、それと住宅性能評価書に記載された各項目の性能についてであること、です
そこから外れるものは、裁判で争うとか自衛が必要になります。くれぐれも過信しないことが肝要です。

【さいごに】引渡し後10年を迎える前に点検を!

前回、前々回と、2回続けて外壁タイルや品確法についてお伝えしてきましたが、いかがだったでしょうか。

品確法は、その内容や効力の範囲をきちんと理解してうまく活用出来れば、住宅購入者(管理組合)にとって心強い味方になってくれます。
しかしながら、今回のケースのように10年経過した後で発覚した問題に対しては無力に等しいものです。
そして、マンションにおいては、10年を経過した後に実施する大規模修繕工事の際に問題が発覚することが多いのです。

今回ご紹介した事例の裁判は、2021年3月現在、まだ係争中ですが、このようなことになる前ーー引渡し後10年を迎える前に、外壁と屋上防水の点検を行うことを強くオススメいたします

よろしければ、前回、前々回の記事も併せてご覧ください。

裁判結果については、結果が出た後、いずれこのブログでご紹介出来ればと思っています。

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マンションに欠陥が見つかったら①~住宅品確法とその活用

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2021年02月11日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

みなさまこんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。

いきなりですが、もしも購入した新築マンションに欠陥が見つかったら、みなさまはどうされますか?
考えたくもないことだと思いますが、今回ご紹介する住宅品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律、以下「品確法」)は、新築マンションにお住まいの方、今後新築マンションの購入をお考えの方などにとって、知っているかどうかで大きな差が出ることもある重要な法律です。

今回から2回に分け、当事務所が経験した「調停」事案も含めてご紹介していきます。是非ご参考にしていただければと思います。

1.立法趣旨と3要素

この法律は、住宅生産者の責任を強化することにより、欠陥住宅の供給を防止し、住宅購入者の利益を守ることを立法趣旨として、2012年4月に施行されました。
そして、それを実現するために「1.瑕疵保証制度」「2.住宅性能表示制度」「3.裁判外紛争処理制度」の3つの要素から構成されています。

【イラスト】住宅品確法を構成する3要素

2.瑕疵保証制度

概要
新築住宅(マンション含む)の基本構造部分(構造耐力上主要な部分・雨水の侵入を防止する部分)を対象に、住宅を供給する請負人や売主に対して10年間の瑕疵担保責任を義務づける制度。

瑕疵担保責任」とは、引き渡した住宅に欠陥(瑕疵)があった場合、その欠陥を補修したり、補修するための費用を負担したりする責任のことです。
そして「基本構造部分」とは、「1.構造耐力上主要な部分」と、「2.雨水の侵入を防止する部分」です(下図参照)。
「10年間の瑕疵担保責任(期間)」は、売主と買主の合意によっても短縮することはできない強行規定となっていますが、逆に双方の合意によって20年まで延長することは可能です。

【イラスト】瑕疵担保責任対象の基本構造部分(構造耐力上主要な部分・雨水の侵入を防止する部分)

新築住宅

この法律でいう新築住宅の定義は、「新たに建設された住宅で人が住んだことのない住宅(ただし、新築後1年以上経過したものを除く)」です。新築マンションであっても1年以上経過したものや、新築1年以内でも最初にマンションを取得した人から購入した場合には、品確法の瑕疵担保責任は適用されません
しかし、最初にマンションを取得した人は、その人が他の人にマンションを売ったとしても、当初の住宅供給者に対して瑕疵担保責任を追及することはできます。

【イラスト】新築マンション
新築1年以内で、かつ、最初にマンションを取得した人は、瑕疵担保責任を追及できます。

構造耐力上主要な部分

住宅の安全性を確保するために絶対的に必要不可欠な部分のことで、建築基準法施行令第1条に規定してある部分と同じ内容です。
マンションの場合、具体的には基礎、杭、壁、柱、梁、桁、屋根版等を言います。これらの部分は、土や内外装材で覆われてしまうことが多いため、欠陥を発見することが難しく、何年かして何らかの現象が起きないと見つからない部分がほとんどです。ですから、瑕疵担保期間を長期間定めています。

【イラスト】構造耐力上主要な部分
極めて重要な部分ですが、表面上分かりにくい場所が多いので要注意です。

なお、地盤の軟弱性等については品確法の対象外となっています。
しかし、建設するときに適切な地盤の調査を行わず、不適切な杭や基礎の工事をして建物が不動沈下などを起こせば杭や基礎に瑕疵があると判断されることもあります。数年前に横浜で発生した「傾きマンション事件」は、杭の施工に問題があり不動沈下したもので、結局、売主がマンションを建て替える結果となったことは記憶に新しいでしょう。

雨水の侵入を防止する部分

住宅が構造上安全であることは必須ですが、生活するうえで雨水の被害を受けないことも快適な生活を営む上での絶対条件です具体的には、屋根、外壁、開口部、雨水排水管等、瑕疵があれば室内に雨水が侵入してくる部分を対象としています
なお、キーワードは「雨水」と「室内」ですので、上階のベランダの床にひび割れがあり、そこから雨水が下階のベランダに垂れて来ても、室内ではないので品確法の瑕疵対象外ですし、給水管に瑕疵があって、水道水が漏ったとしても品確法の瑕疵にはなりません

【イラスト】雨水の侵入を防止する部分
キーワードは「雨水」と「室内」です。

3.住宅性能表示制度

概要
供給された住宅がどの程度の性能を持っているのかを、共通の基準によって分かりやすく示すことにより、住宅取得者がどの程度の住宅を取得できるのか等、契約内容を明確にすることができる制度です。

性能表示の対象となっている項目は10項目で、それぞれに第三者機関がチェックした性能表示が「評価書」という形で明示されます。
なお、本制度は、品確法で規定された制度ではありますが、強制ではなく任意です

評価対象となる性能項目

性能表示の対象となる項目は国土交通省告示で明示されており、以下の10項目になります

評価対象となる性能項目

構造安全性
耐震等級、耐風等級、耐積雪等級など
火災時安全性
感知警報装置設置等級、避難安全対策など
劣化の軽減
劣化対策等級
維持管理への配慮
維持管理対策等級、更新対策
温熱環境(省エネ対策)
断熱等性能等級など
空気環境
ホルムアルデヒド対策、換気対策など
光・視環境
単純開口率、方位別開口比
音環境
重量床衝撃音対策、軽量床衝撃音対策など
高齢者等への配慮
高齢者等配慮対策等級など
防犯
開口部の侵入防止対策

それぞれの項目は、共通ルールに基づいた等級や数値で表示されるため、専門知識がない素人でも、他のマンション等と比較したり、自分のマンションがどういうレベルにあるのかを客観的に知ることができます

評価機関

前述の性能表示の評価(審査)は、国土交通大臣から指定を受けた評価機関が行います。性能評価や性能評価書の交付を業として行う第三者機関です。大臣の指定を受けた評価機関ですので、第三者性はもちろん、一定数以上の評価員を有していることや、業務を行うための十分な適格性を備えていること等が条件になります。
評価は、設計段階と建設された段階の2回にわたり実施され、設計段階の性能評価は、設計仕様が性能評価の基準(日本住宅性能表示基準)を満たす設計となっているかを審査し、建設段階の性能評価は、当初の設計通りに施工されているかの審査となります。
なお、2段階ありますが、2段階共に審査を受ける必要はなく、それぞれ申請に基づき実施されるものなので、設計段階の性能評価のみというケースもあります。

【イラスト】設計住宅性能評価書と建設住宅性能評価書の位置づけ

このような手順を経て出来上がった性能評価書ですから、それなりの権威があります
例えば、設計住宅性能評価書を契約書に添付した場合、交付された評価書の内容が契約内容になったと見做されます。また、取得した住宅が性能評価書の基準を満たしていなかったことが判明した場合は、住宅供給者だけでなく、指定審査機関も住宅取得者が被った損害を賠償する責任を負うこともこの制度の特徴です
前述のとおり、この制度は任意ではありますが、住宅性能評価書の交付を受けた住宅は、一定の基準を満たした良質な住宅であることの証明となりますので、中古住宅として売買する際も、売り手にとっても有利、買い手にとっても安心感がある、ということが言えると思います。

ただし、「住宅性能評価書がある=あらゆる面で高性能な住宅」という訳ではありません
各項目それぞれにランクがありますので、ある項目は最高ランクだけど、ある項目は最低ランク、ということもあります。「あらゆる面で高性能な住宅の証明」ではありませんので、その点には注意してください。

なお、一般社団法人住宅性能評価・表示協会の統計データによると、共同住宅等における現時点での交付実績(累積)は、設計住宅性能評価が約223万8千戸、建設住宅性能評価が約170万4千戸となっています。昨年は顕著な落ち込みがみられますが、近年はほぼコンスタントにそれぞれ10万戸前後の交付数で推移しています。
また、国交省の統計データによれば、竣工ベースのマンションの供給戸数は近年10万戸前後です。各データの内訳を把握できていないのでハッキリとは申し上げられませんが、近年の新築マンションの多くは設計住宅性能評価書がある状態ではないでしょうか。

【グラフ】直近5年の住宅性能評価書交付数とマンションの新規供給戸数の推移

4.裁判外紛争処理制度

概要
欠陥住宅問題を合理的に解決するためのルールを作成し、弁護士会を中心に、裁判外で紛争の解決を図る手法を取り入れた制度です。

品確法制定以前の欠陥住宅紛争では、専門性の高さが要求されたり、補修方法や補修費用を巡る供給側と取得側の意見の隔たりが大きかったりして、裁判をしても時間と費用が掛かる割にはいつまでも解決しない状況となることが多かったようです。そうした背景から生まれた制度のためか、申請費用も1万円と廉価です。
ただし、この制度の対象となる住宅は、「建設住宅性能評価書」が交付されている住宅のみとなり、当事者は当該住宅の購入者(相続人を含む)、建設業者、販売業者となります

指定住宅紛争処理機関(住宅紛争審査会)

その名のとおり、(欠陥)住宅紛争を解決するための機関で、「建設住宅性能評価書」が交付されている住宅がこの機関を活用できます。「住宅紛争審査会」と呼ばれるこの機関は、後述の3種類の方法によって、裁判せずに迅速に住宅紛争を解決することを目指し、国土交通大臣が指定した各地の弁護士会が主体となって運営しています。

3種類の紛争処理方法

指定住宅紛争処理機関(住宅紛争審査会)を活用してできる紛争処理は、「1.あっせん」「2.調停」「3.仲裁」の3種類です

【イラスト】3種類の紛争処理方法

1.あっせん

「あっせん」は、紛争処理委員の弁護士が当事者双方の主張の要点を確かめたうえで、話合いで解決できるための助言を行う制度です。手続きが簡単で、早急な解決が必要な事案や技術的な争点が少ない事案などに適しています

2.調停

「調停」は、当事者双方の主張を聞いた紛争処理委員が争点を整理したうえで、調停案を作成し、双方にその受諾を勧告する制度です。この手続きが最も多いようです

3.仲裁

「仲裁」は、紛争処理委員が双方の主張を聞き、必要に応じて現地調査や証拠調べなども実施したうえで、仲裁判断を行う制度です。裁判にかなり近い形となりますし、仲裁判断は裁判の確定判決と同じ効力を有することになります

いずれの場合も、弁護士が紛争処理委員となり、その裁量の下に進めていきます。建築の専門的な知識も必要となるため、建築士も委員として参加します。
また、国土交通省は、品確法第70条に基づき紛争処理の参考となる「住宅紛争処理技術関連資料(技術的基準)」を公表しています。この技術的基準が審議された国会の付帯決議には、速やかな紛争解決の参考にするべきことや住宅取得者の利益の保護に十分配慮して定めること等が記されています。

なお、3の「仲裁」には時効を中断する効力がありますが、1の「あっせん」と2の「調停」はそれがありません
また、いずれの場合も、当事者同士の合意の上での各紛争処理となる点には注意が必要です。たとえ管理組合がこの制度の「仲裁」を利用したいと思っても、あるいは、住宅紛争審査会から解決案が示されても、相手が応じなければ、他の道を模索しなければなりません。
もちろん、この制度を利用することなく、最初から裁判を選択することも可能です。

【イラスト】裁判するか迷う区分所有者
指定住宅紛争処理機関(住宅紛争審査会)での紛争処理は、双方の合意があって成立します。
納得いかなければ裁判の道も・・・

5.品確法と、売主のアフターサービス基準について

新築時に売主からもらう書類の中に「アフターサービス基準」があります。マンションの共用部分等について、保証期間が定められています。

品確法は「法律」です。定められた期間内に対象部位について瑕疵があれば、住宅供給者が責任をもって補修したりその費用を負担したりしなければなりませんが、問題(紛争)となっている箇所が対象部位に該当するのか、また、竣工当初からの瑕疵に当たるのか等は明確でない部分も多く、意見が対立したりしています。

一方、アフターサービス基準は売主と買主間の「契約」です
前述のような解釈の違いによって解決が長引くことを防止するため、契約期間内に予め決められた不具合等が発生した場合は、売主負担で補修するという内容です。
また、品確法の期間が一律10年なのに対し、アフターサービス基準は2年〜10年とかなりの幅があります

【さいごに】引渡し後10年を迎える前に点検を!

押さえておいて欲しいポイントが多く、文字量が多くなってしまいましたが、ある程度ご理解いただけたでしょうか。

マンションを管理する管理組合は、普段から共用部分を点検し、修繕等の対応をしています。
しかし、隠れた瑕疵を発見することは極めて難しく、多くの場合は、外壁に総足場を架けて実施する第1回目の大規模修繕工事のときに今まで気付かなかった不具合が発見されます。ところが、1回目の大規模修繕工事を実施するのは築10年以降で、品確法や民法の債務不履行責任が問えなくなっているのです(※1)。

そのような理由から、前回の「施工不良、剥落事故...マンションの外壁タイル問題について」でも書かせていただいたことですが、お客様には引渡し後10年を迎える前に外壁と屋上防水の点検を行うことをオススメしています

点検項目は、外装がタイルの場合はタイルの割れ・浮き・剥離等で、塗装の場合は躯体のヒビ割れ・爆裂(※2)等です。総足場を架けることはできませんので、屋上からブランコを吊るして主要なゾーンを数箇所チェックします。もしその時点でタイルの大量の浮きや剥離が発見されたり、外壁のひび割れ等が多かった場合は、売主に補修を求めたり、見解を求めたりする必要がありますし、きちんとした売主であれば誠意を持って対応してくれます。

タイルの剥離や浮きはアフターサービス基準で2年〜5年と定められている場合がほとんどですが、前述のとおり雨水の侵入を防止する部分に該当する考え方もありますので指摘するべきと思います
マンションの躯体・タイル・防水の不具合に関しては、普段から注意するとともに、10年の節目を迎える際にはもう一度総点検をして、マンションの適正な保全に努められますようお願いいたします。

次回は、当事務所が経験した「調停」事案をご紹介する予定です。

  • 不法行為(時効は20年)として追及することは可能です。
  • コンクリート内の鉄筋が錆びて膨張し、内部からコンクリートを破壊して鉄筋がむき出しになった状態

※参考文献:よく分かる住宅の品確法

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施工不良、剥落事故...マンションの外壁タイル問題について

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2020年11月23日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

みなさまこんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。

【イラスト】外壁タイルマンションの外壁におけるタイル仕上げは、高級感があり最近のマンションにはよく使用されていますが、一方で、外壁タイルに大量の浮きや剥離が発見されたり、剥落事故を起こして問題となっている事例が後を絶ちません。法律問題等も関係し、場合によっては売主と瑕疵に関する交渉をしなければならないこともあるのでご参考にしていただければと思います。
なお、今回テーマにしたタイルの工法は、いわゆる「湿式工法」といい、現場で貼付けモルタルを使用してタイルを接着する工法を対象としています(※)。

※「湿式工法」以外では「乾式工法(モルタルを使用せずに有機系の接着剤で張り付ける工法)」や「プレキャスト工法(予め工場でコンクリート板とタイルを一体化させ、完成品を現場で組み立てる工法)」があります。

1.外壁タイルは、経年劣化によりいずれ剥がれるものである(ノーメンテナンスではない!)

外壁タイル普及の歴史と背景

マンション外壁のタイル仕上げは、タイル職人が1枚ずつ丁寧に仕上げていく時代の後、昭和60年代にモザイクタイル貼り工法が普及しました。
モザイクタイル貼り工法は、予め複数のタイルを紙に張り付けてユニット化したうえで、その紙ごと貼る工法のため、従来の職人ほどの熟練技術を必要とせず、効率が良いという利点があり、また、「高級感がある」「耐久性が高い」「メンテナンス不要」という謳い文句が流行り、多くのマンションの外壁に採用されるようになりました。

急速に普及する一方で、工期や効率を追求するあまり施工精度が低下し「浮き」や「剥落」が散見されるようになりました。しかし、それは施工技術の問題と理解され、タイルの浮きや剥離が大きな問題となることはなかったようです。

転機となったタイル剥落事故

そのような中、平成17年(2005年)6月14日に東京都内のオフィスビルの斜壁(斜めになった外壁)のタイルが剥落して通行人2名が負傷する重大事故が発生しました
そこで国交省は、これを機に全国調査を行い、10年以上経過した3階建て以上の建物で外壁材の落下の危険性のある建物が全国で900件以上あることを把握しました

詳細は私もわかりませんが、おそらくこの前後から、タイル仕上げは「ノーメンテナンス」ではなく経年劣化で浮きや剥離が発生するものであるという認識に変わっていったと思われます。
ちなみに施工外(経年劣化)の要因としては、外壁が温度や湿度の変化を受けた場合、膨張係数の異なるコンクリート、下地モルタル、貼付けモルタルが伸縮を繰り返し、材料間に疲労が蓄積して各材料の境界面で剥離が発生するといわれています

【写真】実際に外壁タイルが浮いている状態
青いテープはタイルが浮いている箇所。
一見するとわかりづらいですが、全面的にタイルが浮いている状態で、いつ剥がれ落ちても不思議ではない状態でした。

2.建築基準法の対象内外、施工不良の有無に関係なく、定期的な調査が必要である

一部マンションも対象! 建築基準法で調査報告を義務付け

建築基準法では、建物所有者の義務として、安全上、防火上、衛生上特に重要な建物は定期的に調査をしてその結果を特定行政庁に報告することになっており、管轄の特定行政庁によっては一定規模以上のマンション(集合住宅)もその対象となっています。なお、特定行政庁というのは、市町村・特別区・都道府県のいずれかになります。お住まいの地域によって異なりますのでご注意ください。

例えば東京都であれば、「5階以上」かつ「共同住宅の用途に供する部分の床面積の合計が1000㎡」のものが3年毎の定期報告の対象になっています。ご存じだったでしょうか?
また、千葉県内については一般的な居住専用のマンションは規模を問わず対象外となっていますが、それぞれの特定行政庁によって異なりますので、外壁にタイルを使用しているマンションにお住まいの方は、後述に参考リンクを記載しておきますので是非一度確認してみてください。

より厳密な調査を求める内容へ

平成20年(2008年)4月1日以前の施行令では、タイルについては手の届く範囲を打診(専用のハンマー等でたたいて浮きや剥離を調査する方法)し、それ以外の範囲は目視(外観を見て判断する)で良いとされていました。

しかし、同年4月1日に施行令が改正(国交省告示第282号)され、

  1. 手の届く範囲は打診、それ以外は目視し、異常が発見された場合は全面的打診調査
  2. 異常の有無にかかわらず竣工後(又は前回の全面打診調査後)10年以上経過した建物の初回の調査の際には全面打診調査

とされました。

分かりやすくいうと、「タイル仕上げの建物は10年毎に全面打診調査を実施しなさい」ということです

10年毎に全面打診調査が必要!

つまり平成20年4月以降は、タイル仕上げはメンテナンスフリーではなく、経年劣化により剥離・脱落する危険性があるので、定期的な調査の他、10年に1回は本格的な打診調査が必要と認識されたといえます

【写真】外壁タイルを検査している様子
最近の事例ではありませんが、パルハンマーを使ってタイルの浮き状況を確認している様子。
青いテープで囲んである部分はタイルが浮いている箇所です

3.事故リスクや施工不良によるコスト負担等のリスクが存在する

前述した事故や、その後の法改正を経た近年でも、残念ながらタイルの剥落、それによる人や物を巻き込んだ事故は続いています。
近年私が関わった大規模修繕工事(第1回目)等においても、外壁タイルの大量の浮きや剥離が確認された事例が複数あります。
この状況を見ると、単に「経年劣化」とはいい難く「施工不良」ではないかと思われるものもあります。私がお手伝いしている案件でも発生いたしましたが、タイルの浮きや剥離を巡って紛争に発展しているケースもあります

想定されるリスク

  1. 事故(訴訟)リスク
  2. 負担・出費のリスク
  3. 修繕積立金圧迫のリスク
  4. 悪評・資産価値低下のリスク
  5. 罰則リスク

タイル貼替えコストは馬鹿にならない

実はタイルの貼替えコストは結構高く、設計価格レベルでは@1,000円/枚程度です。普通のタイル(45mm×95mm)は外壁1m²当たりに200枚使っていますから、10m²程度の浮きでも2,000枚、貼替え費用は200万円にもなります。
大きなマンションではこれが1万枚以上になる場合もありますので莫大な費用負担になることが分かります。全貼替えともなれば、億を超える想定外の出費になることも覚悟しなければなりません。

剥落が起きれば、事故にならなくても対応に追われる

また、事故そのものについては言うまでもありませんが、事故にならない場合でも、剥落が起きればその対応に追われることになり、様々な想定外の負担や出費が生じることになります。単純な補修だけで済めば良いですが、経年劣化ではなく施工不良の疑いがあれば、第三者による調査や施工会社との交渉、場合によっては訴訟など、弁護士費用などの費用面はもちろんですが、管理組合の負担が大きくなります。

さらに、事故を起こしニュースにでもなってしまうと、マンション名が不本意な形でインターネット上に残り続けてしまうこともあり得ます。ビル名を変えたところもあるようですが・・・住みにくさを感じるようになったり、売却・賃貸しづらくなるようなケースもあるかもしれません。

報告義務があれば罰則の可能性も

定期報告の対象となっているマンションであれば、報告を怠ったりした際に罰則が適用される可能性もあります(建築基準法第101条によれば100万円以下の罰金にあたるようです)。今のところ、罰則が適用されたマンションの話は聞いたことがありません。

4.タイルの浮きや剥離は、国交省等による明確な基準値が存在しない。0.2%/年は一つの目安になる

タイルの貼付工法の基準

以前のタイルの貼付けは、コンクリート面をまずはモルタルで平滑にし、その後貼付けモルタルを用いてタイルを接着する工法が主流でした。
しかし、コンクリートの打設技術や型枠離型剤の進歩により、コンクリートの仕上り制度が向上したため、下地補修モルタルの工程を省いた直貼り工法が普及し始めました。

国交省「公共建築工事標準仕様書」の指針

国土交通省大臣官房営繕部が発行している「公共建築工事標準仕様書」というものがあり、この標準仕様書は、建築工事施工の際の指針となっています。
タイル施工に関しては、平成7年(1995年)版では、コンクリート下地にタイルを張る場合の留意事項として、

  1. 下地補修材の選定や施工上の管理に注意すること
  2. 油脂系の型枠離型剤を使用している場合は貼付け前に下地コンクリートの「ケレン清掃(貼付けモルタルの不着を良くするためワイヤーブラシ等でコンクリート表面に傷をつける作業)」を実施する

とだけ書かれています。

ところが平成17年(2005年)に同仕様書が改定され、タイル貼り付けの基準がかなり詳細に書かれています
コンクリート下地については、以下の通りです。

  1. 剥離防止のための清掃及び目荒しを確実に実施する
  2. 下地面の精度は長さ2mにつき6mmを標準とし、不陸の著しい個所は不陸調整をする
  3. 不陸調整用の補修モルタルは品質の保証された既製調合モルタルとする
  4. 型枠剥離剤を用いた場合は、剥離剤が残り接着不良を起こすことがあるので、タイル貼り付け前に下地の清掃を、水洗い・ブラシ掛け等により実施する

どうですか、かなり詳細になっていますよね。さらに、清掃や目荒しの方法についても別表を示し、その方法や効果の違い等を一覧表として示しています。

現在大量の問題が発生している原因は...

この標準仕様書の大幅改定と前述の重大事故の発生が平成17年であることに何らかのものを感じるのは私だけではないと思います。
平成17年以降の仕様書に基づいて確実に施工されていれば、タイルの大量の浮きや剥離は発生しなかったと思います。
現在タイルの大量の浮き等で問題となっているマンションの多くは、平成17年以前に建設されたマンションか、以降であっても突貫工事等で標準仕様書通りに施工されなかったと思われるマンションです
例えば、下地の清掃(散水・ケレン・離型剤の除去等)をきちんとやっていない、貼付けモルタルを塗布した後のオープンタイム(所定の接着強度が出るまでの待ち時間)を十分にとっていない等が考えられます

【写真】外壁タイルを検査している様子②
浮いているタイルを実際にはがした様子。
下地調整のためのモルタルの厚さが6cmもあり驚きました(通常2cm前後)。

数値で判断できるか?

では正常に施工したとした場合、経年劣化でどれだけ浮きや剥離が発生するのか、できれば国交省などの公認された数値を知りたいものですよね。逆にいうと、その数値よりも悪ければ施工不良といえるのかということです。
コンクリート躯体のひび割れについては、国交省でも一定の数値を公表していますし、業界でも瑕疵や保証の基準が出来上がっています。しかし、タイルの浮きや剥離については国交省も明確な基準を出していません

公表されている基準値とその見方

一般的に使われている基準は、「タイル施工総面積に対して何パーセントの浮きや剥離があるか」といういい方をし、●●%と表記します。
BELCA(ロングライフビル推進協会)では、5年で3%(1年で0.6%)、マンション管理業協会では、14.5年で7%(1年で0.48%)という数字を出していますが、これは施工不良があった建物も母数に含んでの調査結果と思われるため、あくまでも参考数字として考えられています

施工不良がなければ「1年で0.19%」?

タイルの浮きに関するレポートとしては、建築家の鈴木哲夫氏が「防水ジャーナル」2016年1月号に注目すべき寄稿をされています。
同氏は、実際に補修が行われた200件以上のタイル貼り工法の建物を調査し、施工不良があった場合とそうでない場合に層別して統計を取り、その結果、施工不良がない建物においては1年で0.19%という数字を出しています

私がお手伝いした過去の大規模修繕工事においても、12年程度経過していても浮き率が2%程度や、1%未満の物件もありましたので同氏のおっしゃることは理解できます

5.新築マンションがタイルの問題に気付くのは、10年以上経った第一回大規模修繕工事の時が多い

ここまでで、外壁タイルが抱える問題について何となくご理解いただけたのではと思いますが、もう一つ問題があります。
それは、外壁のタイルに大量の浮きや剥離が存在することが発見されるのが、10年以上経過して第1回目の大規模修繕工事を実施する時に多いことです。なぜかというと、そのとき初めて外壁全面に足場を組んで打診調査するからです。

近年の事故例には築10年未満のマンションも散見されますが、なぜ10年以上経って気づくのが問題なのか。それは、アフターサービスや住宅品確法の対象外となってしまうからです。

タイルの浮きや剥離は、住宅品確法の対象外(=瑕疵担保責任対象外)である

アフターサービス期間と発見時期のギャップ

外壁タイルの浮きや剥離自体は、瑕疵担保期間を10年と定めた「品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」で明確に規定されているわけではなく、ほとんどの場合は売主とのアフターサービス基準で決められています。その期間も2年〜10年と幅が広く、また、2年〜5年が多いようです。
そして、10年以上経過した第1回目の大規模修繕工事を実施する時に初めて「事件?」に気づき、売主や建設会社に何らかの苦情を申し入れるのですが、アフターサービス期間を経過しているためなかなか対応してもらえず、結局は「泣き寝入り」の形で、自分たちの費用負担で補修をしている管理組合も多いのではないでしょうか。

瑕疵かどうかをどう判断するか?

経年劣化によるタイルの浮きや剥離は、建物の形状、日照等のほか、地震(例えば3.11)の影響などもありますから、全ての建物に対して同様の判断はできないと思いますが、私は、正常な施工であれば0.2%/年の指標を支持しています。つまり、12年目の大規模修繕工事のときなら、0.2×12年=2.4%程度であれば正常で、これが8%や10%以上であったら何らかの施工不良が原因である可能性が高いと思っています。

なかなか難しい瑕疵認定

管理組合が、施工不良つまり瑕疵ではないかと思ったときは、まずは売主に連絡し売主の見解を求めますが、多くの場合は、施工不良には言及せず「法律上の責任期間を過ぎている」とか「アフターサービス基準の適用期間を過ぎている」といって、対応してもらえません

しかし、大手で名前の通った売主の場合は、明らかな施工不良があった場合は、「企業の道義的責任」という名目で補修費用の一部負担に応じる場合もあります。
また、品確法やアフターサービスとは関係なく、「施工不良」であることの証明が管理組合側でできるのであれば、民法上(709条)の「不法行為(消滅時効は20年)」として、裁判上で争うことも可能です

有名な事件としては「別府マンション事件」の最高裁判例が引き合いに出されますが、この詳細については別の機会にご紹介できればと思います。

【さいごに】引渡し後10年を迎える前に点検を!

今回も長くなりましたが、外壁タイルが抱える問題についてご理解いただけたでしょうか。

平成17年の事故以降、法改正等を経た現在も、依然として見聞きするマンション外壁のタイルの浮きや剥離問題、そしてそれを補修する場合の巨額の費用、更には売主や建設会社の誠意の感じられない対応などを拝見していると、タイル仕上げのマンションは高級感はあるものの、法律の変更も相俟って、運が悪ければ管理にかなりのコストがかかる場合があることを認識しておく必要があると思います。
そして、タイルの浮きなどに関して、国交省で早く一定の基準や統計等を公表していただきたいと思っています。

前述のように、アフターサービス期間を経過した場合、例え施工不良であってもすんなり対応してもらえる可能性は低くなります。新築マンションの場合、可能であればアフターサービス期間内かつ品確法適用内の引渡し後10年を迎える前に点検を行うことをオススメいたします。

参考リンク

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