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最近追加されたお知らせ&日記(ブログ)10件

管理委託契約書の落とし穴〜契約解除の条件を見直しませんか?

2022年03月12日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
国土交通省(以下「国交省」)が公表している「マンション標準管理委託契約書」はみなさまご存じのことと思います。ほとんどの管理会社がこれを基本にして管理組合と管理委託契約を締結しています。
しかし、国交省が作成したこのモデルに、管理組合のリスク管理上、見直しが必要と思われる重要な点があったことに気が付きました

今回は、最近私が経験した管理会社変更事例において、管理組合と共にたいへんな思いをした事例をご紹介しながら、管理委託契約書の条件の一部見直しを提案したいと思います
なお、文中記載の条文番号は、都合上「標準管理委託契約書」の条文番号を引用しています。

1.マンションの概要と顧問契約の経緯

【イラスト】顧客マンションのイメージ対象物件は都内23区内の一等地にあるマンションです。
竣工当時は別の管理会社が管理していましたが、紆余曲折を経て最終的には大手の管理会社が管理していました。
大手の管理会社ではあるものの、実は日常の対応にかなり問題があり理事会は手を焼いていたようです。

そこで、適切な管理組合運営を目指してマンション管理士の導入を検討され、面談等の選考プロセスを経て、複数のマンション管理士事務所の中から当事務所が選ばれました。
その後2020年の通常総会決議を経て業務を開始しました。

2.現行管理会社の問題とその是正

理事長のご指摘の通り、管理会社の対応にはかなり問題がありました。
いくつか象徴的な事例を挙げてみます。

理事会が探した業者の情報漏洩・出入り業者の恫喝行為

問題

【イラスト】電話で植栽業者を恫喝管理会社提案の植栽管理に満足できなかったため、理事長がインターネットで別の植栽業者を見つけ、その業者の提案内容を理事会で報告したところ、あろうことか管理会社が現在出入りの植栽業者にその情報と内容を全て漏洩してしまいました

これは明らかに守秘義務違反(第16条1項)です

これだけではありません。
管理会社からそれを聞いた出入りの植栽業者が、提案をした植栽業者に電話して恫喝したことが判明しました

是正

私も同席の下、管理会社とオンラインで協議し、出入りの植栽業者を「出禁」としました

長期にわたる排水設備点検報告の不備

問題

【イラスト】排水設備の報告書異常発報がきっかけで、排水設備の点検報告書が約20年間提出されていないことが判明しました
フロントマンに点検の実施内容を聞いてもきちんと答えられず、そもそも点検をやっていないのではないかと疑いたくなる状況でした。

是正

幸い異常発報は「誤報」であり、点検自体も行われていたようですが、点検後の報告書提出を要請し、その後はきちんと報告書が提出されるようになりました

高額な工事金額

問題

【イラスト】高額な工事見積金額顧問契約後、最初に相談を受けたのは電気設備の更新工事でした。
管理会社主導で複数の工事会社から見積りを取得済みだったのですが、私から見たら明らかに金額が高く、しかも各社の見積額ほぼ横並びで、管理会社主導で談合をさせている可能性が濃厚でした

もしそうなら、善管注意義務違反(第5条)に相当します

是正

談合の証拠は見つからなかったものの、別の会社から見積りを取得したところ、全く同じ機種と仕様でほぼ半額でした
幸い、本工事について管理会社とはまだ契約前だったので、契約先を変更することにより大損をしないで済みました。

過剰な保険設定

問題

【イラスト】保険証券火災保険の付保状況を確認したところ、再調達価額の100%を保険価額として契約していました
マンションの火災保険はほとんどの場合「新価実損払い※1」なので、過去の保険事故の事例(支払金額)からしても100%付保する必要はありません

  1. 新価実損払い:契約金額以内であれば、約定割合に関係なく実際に修補するために必要な金額(新価)が支払われる契約

是正

当該マンションの再調達価額を考慮すれば30〜60%で十分なはずでしたので、その点も含めて再検討を進言・提案し、最終的には当事務所の新木マンション管理士の診断の下、大幅に保険料を下げることができました

3.管理会社への改善申し入れとその後の対応

その後も理事会で約束したことを実施しなかったり、約束した納期を守ってくれなかったりが多かったので、担当者の上席を通じて、改善を申し入れました。

フロントマン変更で大きく改善。しかし...

【イラスト】マンションのフロントマン申し入れの結果、フロント担当者を変更してくれました
変更後のフロントマンは、まじめな青年できちんと対応してくれたし、理事会との約束事項も必ず納期通りに実行してくれましたので、理事会は、やっと業務が順調に進みだしてほっとしました。

しかし、喜びも束の間。
それから約半年ほどで、そのフロントマンが退社してしまいます。

その後は、上席自らが本マンションの担当者となり業務対応をしてくれましたが、残念ながら、改善するどころかまた昔に近い状態になってしまいました

新たな問題発生で、支店長との面談へ

そして、また問題が起こりました。
かねてから検討していた長期修繕計画見直しの承認と修繕積立金の値上げを臨時総会に諮り、議案は承認されたのですが、改定された修繕積立金を、決められた徴収開始時期から徴収できない事態が起きたのです

理由を質したら、回答は「失念していました。徴収漏れの差額については来月の引落しに上乗せして徴収する予定です」でした。

長期修繕計画の見直しには、専有部分の給排水管を修繕積立金を使って更新する計画も含まれているので、修繕積立金も大幅に値上げする改定案でした。
そのため事前に説明会も開催し、十分な対応を実施したうえで決定したもので、理事会としては検討段階から多大な苦労の下に進めていた案件であり、組合員にとってもそのための対応が必要となる事案でした。

とはいえ、本件だけを見たら「大した問題ではないのでは...」と思う方もいらっしゃると思います。
組合員に謝罪・説明する手間などは発生するにせよ、普段きちんとやっていただいているならば、理事会も私も同様に思ったはずです

しかし、前述のように大小様々な対応が積み重なり、そして残念ながら改善の兆しはなく、逆に不信感が増すような状況だったのです

本件を重く受け止めた理事会は、管理会社の支店長に面談(オンライン)を申し入れ、善後策を検討することにしました。

進展なく終わった支店長との面談

【イラスト】管理会社の支店長残念ながら、支店長との面談はあまり意味のない内容となりました。
徴収漏れに関する件での組合員に対するお詫び文書の内容に関しては一応の話し合いができましたが、それ以外の不祥事に関する業務改善対応に関しては、何を話しても「今後気を付けます」を繰り返すのみで、細かなところを質問すると最後は「逆切れ」状態で「逆にどうすればいいですか?」と質問してくるなど、改善に向けた具体的な回答や提案等は示されませんでした。

また、業を煮やした理事長から、「(これだけ不祥事が続いても一向に改善する気配がないということは)当管理組合とはもうお付き合いをしたくないという意味ですか?」と確認したところ、「そのようなことは考えていません」との回答でしたので、改善される余地はゼロではないと、僅かながらの期待を残して面談を終えました

しかし、その僅か数日後、事態は急展開するのです。

4.管理会社から契約解除通知

支店長との面談から数日後、その支店長から一通のメールが届きました。

支店長から届いた、契約解除の通知メール

メールの文面は簡単な内容で、「来年(2022年)6月が契約満了の管理委託契約を、管理委託契約第19条の規定に基づき、本年12月31日をもって契約を終了する。正式書面を追って送付する。」というものでした。

突然の契約解除の申し入れです。

契約書19条は、3か月前に書面で申し入れることにより、双方からいつでも契約を終了させることができる規定です。
メールが送られてきたのは9月10日なので、契約終了までの期間は3か月と20日。契約書の条文には違背していません

それからさらに数日後、今度は社長名で正式書面が送られてきました。

【写真】管理委託契約終了の申し入れ文書

急遽、管理会社変更業務の実施へ

管理会社の仕事ぶりから、いずれ再リプレイス等の事態になる可能性はあり得ると感じてはいましたが、先日の面談での回答もあり、私自身このような申し入れが来るとは予想できず、かなり戸惑ったことは事実です。

そして今回は、契約書に基づく管理会社からの申し入れなので、理事会としてはどうしようもなく、受け入れるしかありませんでした

理事長から相談を受けた私は、直ちに今後のスケジュール表を作成し、
①新管理会社の選出
②組合員への説明会
③臨時総会
④管理会社の新旧引継ぎ
までを確認しましたが、どう考えても3か月では厳しく、無理なく通常のプロセスを経て行うには、6か月は必要だと思いました(下表参照)。

【図表】管理会社変更のスケジュール案

よって理事会は、当時の管理会社に対し、最低限の業務、つまり会計・出納・管理員・清掃・設備の法定点検だけは更に3か月延長するように申し入れましたが、管理会社の回答は「一切応じられない。契約書に基づき12月31日に契約を終了させる」というものでした

タイムリミット3ヶ月の困難さ〜標準管理委託契約書第19条について考える

ここでよく考えてみたいと思います。
標準管理委託契約書第19条(解約の申入れ)は、契約期間に関わらず双方から(管理組合側からも管理会社側からも)契約終了の申し入れができる規定です

(解約の申入れ)
第十九条 前条の規定にかかわらず、甲及び乙は、その相手方に対し、少なくとも三月前に書面で解約の申入れを行うことにより、本契約を終了させることができる。

出典:国交省 マンション標準管理委託契約書

"管理組合から"解約を申し入れる場合は・・・

管理組合側から契約終了を申し入れる場合は、管理組合内でしかるべき準備(次期管理会社の内定や住民説明会の実施等)を整え、更に総会の決議をもって初めて契約終了を申し入れることになります。
ですから、管理会社に契約終了の申入れをしてから終了するまでの3か月間で、次期管理会社としっかり引継ぎをすることが可能です

"管理会社から"解約を申し入れる場合は・・・

しかし、管理会社から突然解約を申し入れられると、それから3か月間で上記「①新管理会社の選出」から「④管理会社の新旧引継ぎ」までの作業や手続きをすべて実施しなければならず、どう考えても通常のプロセスではできそうにありません

管理会社から解約するケースが増えている

最近は、委託業務費の金額交渉がうまくいかなかったり、一部の居住者の対応に追われ管理員やフロントマンの業務が円滑に遂行できないなどの理由で、管理会社からの契約解除申し入れも散見されるようになりました

ただ、私の過去の事例を見ても、契約書では3か月となっていても管理組合から延長の申入れがあると最低限の延長には全ての管理会社が応じていましたので、今回の管理会社の対応は、大手管理会社だという点、企業の社会的責任という観点からも大変残念に思います。

管理委託契約書第19条(解約の申入れ)の見直しについて

しかし、実際にこのような事が起こったことをふまえると、マンション管理委託契約書第19条(解約の申入れ)の契約解除の予告期間を見直す必要があると思いました

具体的には、契約解除の予告期間を、乙(管理会社)から申し入れる場合は、少なくとも6か月とするように交渉したほうが良いと思います

先行きがとても不透明な時代になり、事業の撤退等、今回とは違う形での契約解除申し入れの可能性もあるかもしれません。
どのような理由にせよ、もし実際に3か月前に契約解除の申し入れがあったら・・・と、現実的に起こった際を想定し、リスク管理の一環として委託契約書の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。

5.公的機関・弁護士の見解

【イラスト】弁護士このような事態に陥った管理組合の混乱状況は、おそらくご覧になっている多くの方々にご理解いただけると思いますが、どうにか延長出来ないものでしょうか?
本件に関する公的機関・弁護士の見解は以下の通りです。

国土交通省関東地方整備局

  • 本局で取り扱う事例はあくまでもマンション管理適正化法を主体とした法律違反である。例えば重要事項説明義務違反(72条)や契約成立時書面交付違反(73条)、金銭着服等による管理組合の財産棄損(81条)等
  • 契約書自体に法令違反がないのであれば、あくまでも「民―民」の問題として、双方で話し合って解決して欲しい
  • よって、今回の件は指導や指示の対象外である。

一般社団法人マンション管理業協会

  • 今回の問題は契約書の条文に違背しておらず、あくまでも「民―民」の問題である。よって、双方が話し合って解決して欲しい。
  • 企業倫理上は問題があるかもしれないが、協会としては法律違反がない以上、契約終了時期を延長するなどの指導はできない。
  • そのこと(契約解除)によって管理組合に損害が発生した場合は損害賠償請求の対象になる可能性がある(民法第651条)

当事務所の顧問弁護士

私が所属しているプロナーズの顧問弁護士に相談したところ、

  • 終了時期の延長申し入れに関しては、3カ月の猶予期間を定めた契約書がある以上、法的な力でこれを延長させることは難しい。
  • ただし、委任契約が終了しても差し迫った事情がある場合は、受任者は委任者が自分で事務処理ができるようになるまで(この場合は次の管理会社が正常に業務を開始できるようになるまで)委任事務を継続する義務があることを定めた民法654条の適用があるかもしれない

との助言がありましたが、結論としては、訴訟等をやるよりは双方で話し合うしかないという内容でした。

6.新管理会社の選定作業〜引き継ぎまで

前述の見解・助言を参考に管理会社に再度契約の一部を延長するよう申し入れましたが、管理会社の回答は変わらず「NO」でした
理事会はこれ以上の話し合いは時間の無駄と判断し、次の管理会社を選定する作業に入ることにしました。

新管理会社の選定作業

【イラスト】見積取得〜面談まずはマンションのグレードやコスト競争力などを考慮し、大手と準大手の中から複数社をピックアップして見積もりを依頼することにしました。

大急ぎで共通仕様書や見積要項書を作成、現地下見と質疑回答を経て見積書を取得。
金額や提出資料、提案内容などを考慮して契約先候補1社を絞り込みました。

本来ならば、1社に絞り込む前に複数社からプレゼンテーションを受けた後に本命の1社に絞り込むのですが、残念ながら今回はそこまでの時間はとれませんでした。
理事会は、絞り込んだ1社からプレゼンテーションを受け、フロント担当者とも面談して大きな問題はなさそうなので内定とし、説明会及び臨時総会に諮ることとしました。

メールで契約解除通知を受け取ってから、ここまで約1か月半。
次期管理会社を内定するまでに至りました。

理事会では、本件に関する協議・意見交換をほぼ毎日のように実施していましたので、当時の苦労(苦悩)は、計り知れないものだったと思います

説明会の開催

【イラスト】オンライン住民説明会次は、組合員に対する説明会の開催です。
事案が重大な案件だけに、事情を組合員に説明し、臨時総会開催への理解を求めることが主な趣旨です。

理事会と管理会社で説明会資料を作成し、コロナ禍を考慮しオンライン形式で実施しました。
参加者は多くありませんでしたが、事前に全組合員に説明会資料を配布し、質問がある場合は書面で受け付けるべく対応しました。

当日、「管理会社に無理な要求をしすぎたから管理会社が手を引いたということは考えられないか?」という質問が出ましたが、監事と私からそうではない旨を説明し、理事会から管理会社に要望した事項として、以下の2点を回答しました。

  • 設備点検や事務報告について契約書通りに履行していただきたいこと
  • 事務処理等に関し、約束した納期を守ってもらいたいこと

普通にお仕事をされている方々であれば、社内外を問わず、ごく日常的にある常識的な範疇の内容であり、いずれも決して無理な要求ではないことがお分かりいただけるのではないでしょうか

臨時総会の開催

【イラスト】臨時総会まずは臨時総会の準備です。
議案書作成は現在の管理会社に依頼できないので、理事会と当事務所で対応して配布しました。

9月10日に契約解除通知のメールを受信し、12月19日に臨時総会開催です。
管理会社変更の議案は、普通決議ですので可決することは間違いないと考えていましたが、総会承認前に新管理会社候補を交えた引継業務を開始することはできないので、引継ぎに必要な資料のうち、管理組合と当事務所で確認できる物は極力事前に確認する作業を行いました。

総会はリアル形式で開催しましたが、出席者全員の賛成により議案は可決しました。

引き継ぎ

【イラスト】管理会社間の引き継ぎ臨時総会終了後から直ちに新旧管理会社で引継ぎ作業を開始し、旧管理会社との契約が終了する12月31日までには引き継ぐべき鍵の確認と警備関連の転送機の切り替えまで無事完了しました。
警備会社が新旧管理会社間で変更にならなかったことも幸いでした。

また、前述の通り、引継書類等の確認作業は、臨時総会で承認されてから新管理会社が実施するのでは間に合わない可能性が高かったので、事前に理事会と当事務所で確認作業を進めておいたことも奏功したと思います。

なお、本件の対応に際しては、急を要する上に僅か3か月という短期間で遂行しなければならず、無駄な時間をかけられなかったので、私の他に新木マンション管理士にも担当として、選定作業から議案書作成・引き継ぎまで、様々な実務と理事会のサポートにあたってもらいました。
私一人ではとても対応出来ませんでしたが、お陰で何とか無事引き継ぎまで対応することが出来ました。

【さいごに】契約解除の条件を一度見直しませんか?

これまで数々の管理会社変更を経験し、その中には、管理会社から契約解除を通知してきた事例もありましたが、本件のような酷い事例は初めてで、繰り返しになりますが、今後は管理組合側も管理委託契約書の契約解除の条件について、よく考えておく必要があると強く実感しました

そして今回、このような酷いことをした管理会社は無名の業者ではなく、業界でも大手に入る著名な会社です

少し前までは、管理会社から契約を更新しない、または途中で解約するということはあまり考えられませんでしたが、最近は少なからず耳にします

背景には、管理会社のリプレイスによる競争、委託業務費の金額交渉などを行う管理組合が増えたことに加え、人件費の高騰があり経営が厳しくなっていることなどが考えられますが、大手の管理会社でさえこんな対応を取るのですから、十分注意された方が良いと思います。どうぞお気を付け下さい。


マンション管理コンサルタント マンション管理士 重松 秀士プロフィール
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専有部分はどうする?給排水管更新工事の進め方【最新版】

2021年11月18日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。

以前からこのブログでもお伝えしていますが、近年給排水管(給湯管を含む)の更新工事※1のコンサルティングが増えています。

マンションにおける給排水管の更新工事を円滑に実施するためには、専有部分をはじめ、克服しなければならない多くの問題があり、外壁等の大規模修繕工事とはまた違った難しさがあります
そこで、現在工事を検討している管理組合、これから検討しようとしている管理組合の方々のために、改めて管理組合が給排水管の更新工事をじょうずに進めるポイント等について、最近の事例を織り交ぜながらご紹介したいと思います。

なお、最近建設されたマンションは、使用している給排水管の材料が、30〜40年前のマンションとは異なりますので、耐用年数も飛躍的に伸びています
今回は、これから給排水管の更新工事を迎える築30年以上経過したマンションを対象としてお話しさせていただきます。また、更新工事に関する技術的な説明ではなく、管理組合運営(ソフト面)を中心に書かせていただきました。

  1. 交換工事のこと。交換せずに、管内に樹脂等をコーティングする工事は更生工事という

1.工事検討のきっかけは?

給排水管は、壁のパイプスペースや床下(場合によっては天井裏)に隠蔽されていますので、普段は居住者が目にすることはありません。ときどき外部のメーターボックスを開けたときに、給排水管やガス管の竪管(共用部分)を目にするくらいです。

外壁塗装やタイルのように日常居住者が目にする場所であれば、「汚れてきた」、「破損している」などと分かるのですが、給排水管の場合は、傷んできても普通は分かりません。

では、どのようになったら給排水管の更新工事を検討するようになるのでしょうか?

漏水事故の多発が検討のきっかけに

【イラスト】配管から漏水を起こしている様子「長期修繕計画において実施時期になっている」という理由もありますが、私が経験した事例では、「漏水事故」をきっかけに検討を始めることが多かったです。

ある日突然に上の階から水が漏れてきたという話をときどき聞かれると思います。
上階の人も、「水をこぼした覚えはない」という時などがその例です。

多くの場合は排水管の劣化による配管の穴あきで、生活排水(雑排水や汚水)が漏れてきますので、当然に大騒ぎになります。

マンションによっては漏水事故の被害が大きな問題に

漏水事故も、マンションによってその程度は様々です。
きれいな水であればまだ良いのですが、そうとは限りません。

排水管の横引管(個々の部屋の排水を竪主管まで流す配管)は、一般的には自室の床下に敷設されていますが、私がお世話になっている築40年以上のあるマンションでは、下階の天井裏を通っています。

このような状態で排水管から漏水したら、下階の人は、自分の部屋の天井から突然に雑排水や汚水が漏れてくることになるので大変です。
また、最上階の通気管※2が腐食して破損し、悪臭被害が出る場合もあります。
給水管の場合であれば、管内の錆が原因で「赤水※3」が流れてきたりするので、居住者から「どうにかして欲しい」とやはり騒ぎになります。

【写真】腐食した通気管 【写真】錆が発生した給水管
腐食した通気管と錆が発生した給水管
  1. 排水管の排水をスムーズに行うために空気を通す通気口
  2. 給水管内部の錆が水の中に混じるため、錆色の水が出てくる状態

断続的な漏水事故で、恒久的な対策の検討へ

このように、給排水管の事故は生活と直結していますので、事故が発生したら直ちに対応(修理)することになりますが、一度事故が発生すると連続して同様の事故が発生することが給排水管の事故の特徴です。
どの部屋も同じ時期に同じ材料を使って建設しているので当然ともいえます。

そして、それなりのコストをかけて応急的な対応をしても、それ以降断続的に同様の事故が発生しますので、今後のことを考えると何らかの恒久的な対策をとらざるを得なくなり、ファイバースコープ、カメラ、レントゲン等の検査を経たうえで更新工事を検討することになります。

マンションが竣工して30年を経過すると、建物だけでなく設備関係の修繕も対象になってきますが、国土交通省が公表している昨年末の分譲マンションストック数は670万⼾を超え、その内、築30年以上を経過したマンションは230万⼾を超えています。
給排水管の更新工事は今後さらに増えていくことでしょう。

【グラフ】築後30、40、50年超の分譲マンション戸数


2.給排水管改修(更新)工事を成功させるための秘訣

外壁等の大規模修繕工事との違いを理解する

給排水管の更新工事は大規模修繕工事とは違った難しさがあると申し上げましたが、その主な違いを一覧表にしてみました。

大規模修繕工事 給排水管更新工事
大掛かりな足場 必要 不要
工事の対象となる共用部分 専有部分との区分が、比較的分かりやすい 専有部分と一体となっており、区分するのが難しい
工程管理 天候等に左右されるが、再調整することが可能 天候の影響は受けないが、1日刻みの詳細な管理が必要
住戸内への立入り 原則不要 必要
室内工事 なし 内装の解体・復旧工事を伴うことが多い

上記以外にもあると思いますが、大きな違いは、大規模修繕工事は原則として建物の外部を中心とした工事となるのに対し、給排水管更新工事は建物の内部を中心とした工事となることです。

居住者のお部屋の中に入っての工事となり、しかも壁や床(天井)の内装を壊して復旧するという作業がありますので、居住者のストレスは計り知れません。
そのうえ、1日刻みの工程をきちんとこなしていかなければなりません

ですから、管理組合は「どんな困難を乗り越えてでも、この大変な工事を完成させないといけない」という強い覚悟と「居住者に対するきめ細かな配慮が大切」という思いやりが必要となります。

問題となりそうな事項を工事に先立ち検討しておく

外壁等大規模修繕工事であれば、工事前に決めておくべき事項や居住者に対するお願い事項等は概ね決まっており、しかもさほど大きな資金負担につながるようなことはありません。

また、工事が進んでいくうちに予想外のことが発生しても、多くの場合は対応することが可能です。(もちろん資金的な問題はありますが...)
しかし、給排水管更新工事の場合は、事前に方針を決めて十分な準備をしておかないと、途中で簡単に方針を決定したり変更したりできませんし、またそのために臨時総会を開催しなければならなくなるなど、手続上もかなり厄介な問題があります

【写真】給排水設備のタイプ別集計表
給水設備・排水設備のタイプ別集計表。
3棟からなるマンションのものですが、11のタイプに分類することが出来ました。

以下に事例を交えながらいくつかご紹介します。

横引管(専有部分)の工事をどのようにするのか?

一部の例外を除いて、給排水管の横引管は専有部分※4です
管理組合が行う工事の対象は、共用部分※5が原則ですので、「管理組合は共用部分である竪管を中心に更新するので、専有部分である横引管については、個人の判断と費用負担で実施(更新)してください。」となります。

しかし、前述のように給排水管については、共用部分と専有部分が一体化しており、密接な関係にあります。例えば、「我が家はお金がないから、横引管の更新工事はやらない。」となったらどうでしょうか?
どこからでも漏水事故が起こってもおかしくない状況になっているから、管理組合は更新工事を検討しているのに、更新工事を実施しても、横引管をそのままにしておけば、そこから漏水事故が発生する可能性が残ります

マンションでは、給排水管を更新する場合は、竪管(共用部分)と横引管(専有部分)を同時に更新することが望ましいといわれています。
しかし、専有部分の工事を個人の判断に委ねてしまえば、せっかくの大事業が不完全な工事のまま終わることになります。

専有部分からの事故であれば、その責任は専有部分の所有者となりますが、下階を水浸しにしてしまった場合の損害賠償は高額になりますし、そうなってから自分の横引管を修理しようと思っても、更に多額の費用が掛かるので経済的な負担も甚大になります

「保険に入っているから大丈夫」とおっしゃる方もいますが、築年数が経ったマンションにおいては保険料は高くなりますし、新規には引き受けない保険会社も出始めています。また、工事をしなかった特定の個人を守るために、管理組合が保険料を負担するのはおかしいという意見もあります

私見ではありますが、給排水管の横引管は、専有部分であっても管理組合の責任と負担で、竪管(共用部分)の工事を実施する際に同時に行うべきと考えています。
しかし、そのためには「資金」の問題と「管理規約」の問題が出てきます
「資金」に関しては、修繕積立金の値上げや借入れを検討して合意形成を図るべきと考えますし、「修繕積立金を専有部分の工事のために使用する」には管理規約も一部変更する必要があります

マンション標準管理規約が改正され、配管工事についてコメントが追加されました

国土交通省が公表している「マンション標準管理規約」が2021年6月に改正されましたが、給排水管更新における専有部分の工事に関するコメントが新たに追加されました
条文自体は、「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」というもので、従来から変わっていません
しかし、これに対するコメント、特に費用負担の部分が一部追加され充実しています。

第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。配管の清掃等に要する費用については、第27条第三号の「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。なお、共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の配管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要である。

出典:マンション標準管理規約 単棟型 21条(敷地及び共用部分等の管理)第2項のコメント⑦

従来は、「雑排水管等の清掃(高圧洗浄等)は、管理費からの支出で問題ないが、専有部分である横引配管を更新する場合は各区分所有者が個人で実費を負担するべき」という趣旨のコメントが記載されていました。

今回は、それに「共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる」と追加されています。
もう少し分かりやすく書くならば「各戸が単独で行うよりも安く工事が出来る場合は、修繕積立金を使って共有部分と専有部分をまとめて工事することも可能である」という感じでしょうか。

ただし、続けて条件の記載があることに注意しなければなりません

  1. あらかじめ長期修繕計画に専有部分の配管の取替えについて記載すること
  2. 管理規約で、その工事費用を修繕積立金から拠出することを規定しておくこと

更に、先行して工事を実施している区分所有者に対しての補償の有無などにも十分に留意することが必要」と書かれている点も重要なポイントです

今回の追加コメントに関連した判例について

余談になりますが、私がお世話になっているマンションで給排水給湯管の更新工事を実施した際に、専有部分の工事に関する費用を修繕積立金から支出して、管理組合が一部の組合員から訴えられた事例があります。

私のブログでも過去にご紹介いたしました。
【参考】修繕積立金を専有部分の改修に使用した事例の最高裁決定について

この裁判は最高裁まで争われましたが、結果は管理組合の勝訴となり、マンション管理関連の全国紙などでもかなり取り上げられました。
専有部分にかかわる工事となると「大丈夫なのか?」「いやいやダメだろう」とお考えの方もいらっしゃると思いますが、裁判により認められた事例になりますので、是非参考にしていただければと思います。

今回のマンション標準管理規約の追加コメントは、この判例がかなり影響していると思っていますが、前述のように築30年以上を経過したマンションが230万⼾を超える中、良好な管理状態を維持できるマンションが少しでも増えれば良いなと思います。

  1. 内装等と同様に個人の財産。個人の責任と負担で管理する部分
  2. 建物のコンクリート部分やエレベーター等区分所有者の共有財産。管理組合の責任と負担で管理する部分

復旧するべき内装仕上げ等の基準はどのレベルで実施するのか?

給排水管の更新工事は、室内の壁や床等を解体し、配管の更新工事が完了したら、また復旧するという工事がつきものです
築30年以上も経つと、多くの住宅でリフォームを実施されており、内装等も竣工当初のものと違っています。場合によっては高額な内装材を使用したり、簡単に脱着することが難しいシステムキッチンに変更されたりしている住戸もあると思います。

内装等の解体復旧に関しては、基本的には管理組合の費用負担で実施しますが、以上のように各戸まちまちの仕上げについてすべてを管理組合で費用負担することは、資金計画の面でも公平性の面でも問題があります。ですから、事前に「管理組合としての対応基準」のようなものを作成し、何度もアナウンスすることが大切だと思います。

そして、管理組合が対応(復旧)する基準は、「壁紙ならば@●●円/㎡まで、床材(畳やフローリング等)であればこの程度まで、それ以上であれば差額は個人負担」のようにして、不公平感の無いようにしておくことが必要だと思います

【写真】立入調査チェックシートと調査の様子
各戸毎に行った調査チェックシート(左)と現地調査の様子。
直接見て確認したりお話を伺ったりしながら、細かく調査していきます。

入室拒否や不在(空家)住戸が発生した場合はどう対応するのか?

これも悩ましい問題です。
居住者には、室内の工事期間中(3日〜4日)は原則として在室していただくことになりますが、共働きのご夫婦の場合等は、なかなかそうはいきません。

このような場合は、工事業者に鍵を預けていただくしかないのですが、後のトラブル防止のためには、業者からは工事目的以外に鍵を使用しない旨の「誓約書」、居住者からは工事以外の室内のトラブルについては自己責任とする旨の「承諾書」を提出していただき工事を進めるようにします。

また、空家の場合も同様に外部の区分所有者と連絡を取り、期間中は鍵を貸していただくか、毎日開けに来ていただくかなどの対応をお願いします。

特に対応が難しいのは、室内に入らせてくれない住戸の場合です
人を入れたくない理由はいろいろあると思います。
「病人がいる」「重要な書類や品物がある」のようなものもあれば、「管理組合のやり方が気に入らないから協力しない」など様々です。
今なら「新型コロナウィルスの感染が怖いから」という理由もあるかもしれません。

このような方々を説得して協力をお願いすることは、経験上容易ではありません。
しかし、ここであきらめてしまえば一大事業が完成しませんので、根気よく説得するしかありません

お願いする際は、「この工事は、あなたの協力がないと、あなたの上下階の住戸の工事も完了しないので、管理組合だけでなく、他の住戸にも大きな迷惑をかけることになる」や、「あなたがこの工事を行わず、漏水事故が発生した場合は、あなたに高額の損害賠償責任が発生することもある」などを丁寧に話して理解していただくように努めています。

それでも協力してくださらない場合もありますが・・・POINT1の「外壁等の大規模修繕工事との違いを理解する」で申し上げた「強い覚悟」が必要という理由は、ここにあるのです

居住者に対するきめ細かな配慮

何度も申し上げるように、給排水管(特に排水管)の更新工事は、居住者にとって多くのストレスがかかります。

一生に一度のこととはいえ、自分の生活への大きな影響が数日間に渡り及ぶわけですから、仕方がありません。
しかし、この工事は1日刻みのスケジュールを確実にこなしながら先に進めていかないとうまくいきません。

外壁等の大規模修繕工事であれば、「今日は雨が降っているから中止しよう」とか「諸般の事情で工程が遅れてしまったから、引渡し期日を少し先に延ばしてもらおう」等はよくある話ですが、給排水管の更新工事においては、上下階の関係もあり、「この日に確実にこの竪管を更新しておかないと、工程に大きな支障をきたす」とか「夜になっても、お水が使えなかったり、排水を流せなかったりする」など、大きな問題が発生します。

ですから、居住者が工事に協力してくれないと円滑に進められません。

管理組合はこれらのことを、機会あるごとに何回でも居住者にアナウンスしておくことが重要だと思います
設計概要が固まったら「設計説明会」、工事会社が決まったら「工事説明会」などを開催し、工事の内容、特殊性を訴えるほか、とにかく居住者の協力がないと工事は成功しないことをお知らせしておくことが重要です

【写真】給排水管更新工事の説明会資料
詳細が記載された説明会資料

ところで、居住者の中には、協力したくてもなかなかできない方もいらっしゃいます
高齢の一人暮らしの方に、「事前に工事個所の家具等を移動しておいてください。」といっても、なかなかできません。
また、深夜勤務の警備業や看護師さんから、「昼間は寝ているので工事をしないでほしい」と言われることもあります。

私が経験した対応事例では、若い方がマンション内でボランティア組織を作り、高齢の方の家具や荷物の移動をお手伝いしたこともありますし、深夜勤務の方には、工事期間中はホテルや実家に泊まっていただくお願いをしたこともありました。(休暇をとって旅行に行っていただいたこともありました)

【さいごに】管理組合が主体となって給排水管改修工事を成功に!

冒頭に申し上げた通り、今回は技術的なことは全て割愛し、工事に対する管理組合の運営ノウハウを中心に書かせていただきました。

給排水管の更新工事に関して申し上げると、工事自体はさほど高い技術水準を必要とするものではありません。
技術の進歩により、最近の材料は耐久性も高く施工もやりやすくなっています。しかし、工事を円滑に進めるためにやらなければならない事前の準備や居住者に対する配慮は、管理組合が主体となって進めていかないと良い結果は期待できません

これから給排水管の更新工事をなさる管理組合はぜひご参考にしていただければと思います。

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長期修繕計画の工事金額は高い?30年は不要?あるある誤解集<長期修繕計画の学び直し②>

2021年08月25日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。

前回「長期修繕計画の学び直し①〜あるある問題事例と最近の傾向」に続き、今回は、長期修繕計画にまつわる「あるある誤解集」をご紹介します。

長期修繕計画「あるある誤解集」

長期修繕計画の工事金額は高いので当てにならない!
この金額をベースに修繕積立金を算出したら、必要以上に高い修繕積立金を設定することになる!

解説

長期修繕計画で設定されている金額は、通常、現在における標準的な価格(いわゆる「定価」)で設定されています。

従いまして、見積合わせや入札などの適正な競争原理が働いた場合は、この金額よりも安く発注することは可能です
ただ、なぜそのように設定するのかと言いますと、現在実際に発注できる金額で設定しておくと、将来の物価変動や社会情勢等の環境変化に対応できなくなる可能性があるからです

例えば管理組合の一般会計予算案を作成する時、あるいは皆さまがお勤めの企業等における予算案作成時や、皆さまのご家庭における将来設計・貯金額の設定時などでお考えいただくと良いかもしれません。
全く余裕がない、ピッタリの金額で設定する(している)でしょうか。

通常、いずれの場合も、不測の事態等に備えてある程度の余裕を持たせるのが一般的です。
ご家庭の場合、不足した際にパッと融通が利く何らかの蓄えがあるならばギリギリでも良いかもしれませんが、管理組合ではそうはいきません
特に高齢化が進んだマンションにおいては、一時金の徴収や修繕積立金の値上げは容易ではありませんので、将来の「安心」や「利便性・快適性の維持・向上」「資産価値の維持・向上」を考えるなら、なおのことではないでしょうか。

見直しの際に下げればいいのか?

なお、長期修繕計画は定期的に見直すので、「高かったらその際に修繕積立金の額を下げればよい」という考えもあります。

マンションの状態・状況によってはそれで良い場合もあるかもしれませんが、下げる前に、

  • 長期修繕計画の記載工事に漏れがないか
  • コンクリート躯体をはじめとした各所の劣化状況をきちんと把握しているのか
  • 時代遅れ(非効率・低機能・無駄に高コスト等)になっている工事や設備が前提になっていないか
  • 高経年化に伴うアルミサッシュやドア等、専有部分も含めた給排水管・ガス管等、その他電気・防災設備、外構・土木工事等について検討されているのか
  • 建替えや再生工事等について検討されているのか

等について、確認・検討することをお勧めします。

これまで高経年化の団地等も含め多くのマンションのお手伝いをしてきましたが、建築時に最新であっても、その時々でよく検討した長期修繕計画であっても、想定外のことは起こり得ますし、内外の環境変化と共に適応が必要なこともあります
分かりやすい例だとバリアフリー化や遊具・駐車場設備の見直し、それ以外のよくある分かりやすい例としては、給水方式の変更に伴う工事や照明のLED化等があります。

高額な工事ばかりではないものの、こうしたものを正確に予測し長期修繕計画に盛り込むことは困難であり、ある程度の余裕があれば、こうした想定外の事項に対して、修繕積立金の額を変更しないで対応可能な場合もあります。

分譲時の仕様のままでは、資産価値の維持は難しい

通常、長期修繕計画に記載の工事は、新築時と同等水準の性能・機能を維持・回復することを想定しています。
新築マンションにお住まいの方はピンとこないかもしれませんが、数十年も経つと、様々な技術革新等により、住宅のスタンダードもかなり変わってきます。

資産価値の維持・向上の観点で言えば、例え現状に不満がなくても、近隣マンションの状況や、その時代に求められる機能や美観を考慮する必要も出てきます。
工事の際に十分に普及しているものであれば、当初の想定金額と大差ない金額でアップグレード出来てしまう可能性もありますが、場合によってはプラスα(アルファ)が必要になるでしょう。

また、高経年化した際に建替えをするのかしないかでも、その間の工事方針は変わるはずです。
何をどの程度考慮すべきかはマンションによって異なりますが、かなり先を見越した検討や方針、計画がないのであれば、将来的に修繕積立金不足になる可能性もありますので、ある程度の余裕を持たせておくことをお勧めします。

築30年以上で想定される工事項目

「高経年化に伴う」と前述しましたが、ご参考までに築30年以上のマンションにおいて想定される工事項目例をご紹介します。

【表】築30年以上で想定される工事項目

25年や30年も先はどうなっているのか分からないのでそんな話をしても意味がない!
そんなことよりも5〜6年先のことを真剣に考えた方が現実的だ!

解説

しばしば見聞きするご発言ですが、先のご発言同様、長期修繕計画の正確性(不確実性)の観点からのご発言のものと、25年や30年先は自分に無関係と思っている方のご発言に大別されるように思います。

目先に迫っている工事は関心が高くなるものですが、マンションを適正に維持していくための長期間の資金計画が決まっていないと、目先の工事とはいえ、どこまでお金を使ってよいのか、または借入れをしてでも実施するべき工事なのか等の判断がしにくくなります
結局は「今お金がこれだけあるから、その範囲内で実施しよう」となってしまいます
これでは、適正な計画修繕は実施できません。

長期修繕計画がないとどうなるのか

長期修繕計画(長期的視野)がないと、以下のようなことが起こります。

  1. 行き当たりばったりの修繕を実施してしまう
  2. 高額な修繕工事の計画が無視されてしまう
  3. 修繕積立金の値上ができず、いずれ資金不足に陥る(必要な工事が出来なくなる)

長期修繕計画の意義等、詳しくは前回の「長期修繕計画の学び直し①〜あるある問題事例と最近の傾向」に書かせていただきましたので、よろしければご一読ください。

自分は年金生活者なので修繕積立金の改定(値上げ)は死んだ後にやって欲しい!
(言ってることや計算については理解したが、今のままでいいんだよ・・・)

解説

お気持ちはよくわかりますが・・・ご発言者様がお亡くなりになった後も、マンションは誰かが引き継いで管理していかなければなりません。
ですから、「お亡くなりになった後に値上げ」ということは、今必要な値上げを先送りすることで、この先も長く住む予定の方や将来の区分所有者に多くの負担を強いることになります

ずっとマンションで暮らせなかったら・・・

「この先のことなんて自分には関係ない」とお思いかもしれませんが・・・本当にそうでしょうか?
お亡くなりになるまでこのマンションで暮らすことができれば幸せですが、状況次第では、マンションを売却したり賃貸したりして、施設等に入る選択をすることになるかもしれません。
そうなった場合、適正に管理されているマンションとそうでないマンションでは、当然に売買価格や賃貸価格に差が出ます

高齢化が進み、新規入居者が増えなかったら・・・

また、この先を憂慮した若い世代に見限られ、高齢者ばかりで管理をしなければならなくなったり、新規の入居者が増えず空室率が増えたせいで、管理費や修繕積立金の滞納が多くなり、財政難に陥ることもあり得ます。
そうなると、計画していた工事が出来なくなるだけではなく、清掃や点検等の日常管理が行き届かなくなり、配管が詰まったり悪臭が漂うようになったり虫が発生したり等、日常生活にも支障を来す可能性が出てきます。
今までと同様の管理をしようと思ったら、結局は住んでいる区分所有者の負担を増やさざるを得ず、管理費等の値上げや一時金の徴収ということになる可能性もあります

私自身、実際に管理不全に陥っていた高経年化マンションのお手伝いをしてきていますが、中には多額の一時金徴収をせざるを得なかったケースもあります。

人生100年時代。今後も快適な生活を続けるには?

もしかしたら「仮定の話だろう」「不安を煽っているだけだろう」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが・・・実際に各地で起きていることなのです。
人生100年時代、既に定年退職された方であっても、この先20年、30年が視野に入る時代です。決して人ごとではないのです。

快適な生活を送るためには、日常の管理や計画的な修繕は非常に大切です
ご自身が現在同等の快適性を維持したまま、安心して充実した余生を過ごすためにも、適正な長期修繕計画と資金計画が必要になることをどうかご理解ください。

長期修繕計画にない工事の実施や時期の変更をするなら、まず長期修繕計画の変更が必要だ!
計画修繕は長期修繕計画通りに実施するべきであって、長期修繕計画の修正なしに一切の変更は認められない!

解説

長期修繕計画を非常に大切にお考えであることが分かるご発言です。
しかし、筋の通った考え方ではありますが、現状の管理規約や細則に特に定めがない場合、長期修繕計画の変更なしで実施可能です

もちろん、特定の理事や修繕委員会、業者の意のままに適当な工事が実施されてはいけませんので、長期修繕計画をベースに実施することは非常に大切です
信じられないかもしれませんが、管理組合が機能していないマンションでは、決して当たり前のことではないのです。

長期修繕計画は、あくまでも目安

長期修繕計画の最大の目的は、今後一定期間の修繕積立金の額を設定することです。
概ね25〜30年間程度で設定しているところが多いですが、さらに長期間の計画を立てているところもあります。

そして、前の発言で価格について指摘がありましたが、工事項目や工事金額、工事実施時期はあくまでも目安です
ですから、長期修繕計画に記載された工事の実施時期は、劣化の進行度、行政の施策(税率や補助金)、メーカーの事情(部品供給の停止)などに応じて、先送りも前倒しもあり得るのです。

工事の実施には、総会決議が必要

ただし、マンション標準管理規約に準拠した管理規約の場合、修繕工事と長期修繕計画の作成または変更は、いずれも個別の管理として総会の議決事項とされています。(※)
従いまして、長期修繕計画にない工事の実施時はもちろん、長期修繕計画に記載された工事を予定通りに実施するとしても、個別に総会の決議をとる必要があります
その点も誤解されやすいところですので、是非併せて覚えておいていただければと思います。

※マンション標準管理規約(単棟型)の場合、第47条及び第48条に記載があります

長期修繕計画は総会で承認済みなので、そこに記載がある工事や修繕積立金の改定は、理事会決議で可能だ!
必要な工事や時期、金額を網羅した長期修繕計画なのだから、合意済みの内容で実施可能なら問題ないはずだ!

解説

こちらも筋が通っている感じがしますが、残念ながらこの認識は誤りです。理事会決議で実施してはいけません(※)。

※マンション標準管理規約に準拠した管理規約の場合

長期修繕計画と実際の工事の承認は別

非常に誤解の多いところですが、実は長期修繕計画が総会で承認されたとしても、それは今後の計画修繕の基本的な考え方(工事内容、工事実施時期、概算金額)が承認されたということを意味します
決して個別の修繕工事の実施が承認されたわけではありません

長期修繕計画は、マンションにとって極めて重要で必要なものですが、あくまでも目安であり不確実性を伴うが故に、実際に長期修繕計画通りに実施するかどうかは、その時々の状況に応じて判断していく必要があるのです。

また、区分所有法の第17条・第18条に以下のような条文があり、このことは法的に定められたことなのです

(共用部分の変更)
第十七条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。

(共用部分の管理)
第十八条 共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
2 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。
3 前条第二項の規定は、第一項本文の場合に準用する。
4 共用部分につき損害保険契約をすることは、共用部分の管理に関する事項とみなす。

出典:建物の区分所有等に関する法律

区分所有法やマンション標準管理規約では、計画修繕工事(共用部分の変更)について具体的な議案の上程(提案)方法までは規定していませんので、単独議案とするのか、予算案で一括承認とするのか、または事業計画として承認してもらうのか等、工事内容や金額等に応じいくつかの上程方法があります。
しかし、繰り返しになりますが、通常、計画修繕工事を実施する際には、長期修繕計画とは別に総会承認が必要となります

総会での議決事項

なお、「修繕積立金の改定」については、マンション標準管理規約では「普通決議事項」となっています

ご参考までに、国交省のマンション標準管理規約の第48条を以下に転載いたします。

(議決事項)
第48条 次の各号に掲げる事項については、総会の決議を経なければならない。
一 規約及び使用細則等の制定、変更又は廃止
二 役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法
三 収支決算及び事業報告
四 収支予算及び事業計画
五 長期修繕計画の作成又は変更
六 管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法
七 修繕積立金の保管及び運用方法
八 適正化法第5条の3第1項に基づく管理計画の認定の申請、同法第5条の6第1項に基づく管理計画の認定の更新の申請及び同法第5条の7第1項に基づく管理計画の変更の認定の申請
九 第21条第2項に定める管理の実施
十 第28条第1項に定める特別の管理の実施並びにそれに充てるための資金の借入れ及び修繕積立金の取崩し
十一 区分所有法第57条第2項及び前条第3項第三号の訴えの提起並びにこれらの訴えを提起すべき者の選任
十二 建物の一部が滅失した場合の滅失した共用部分の復旧
十三 円滑化法第102条第1項に基づく除却の必要性に係る認定の申請 十四 区分所有法第62条第1項の場合の建替え及び円滑化法第108条第1項の場合のマンション敷地売却
十五 第28条第2項及び第3項に定める建替え等に係る計画又は設計等の経費のための修繕積立金の取崩し
十六 組合管理部分に関する管理委託契約の締結
十七 その他管理組合の業務に関する重要事項

出典:国交省 マンション標準管理規約(単棟型)

普通決議と特別決議

また、工事の内容次第ではその工事が共用部分の重大変更になる場合もありますので、「特別決議(組合員数・議決権数の各4分の3)」が必要になる事もあります
前述の条文をご参照いただきつつ、以下の表をご参考にしてください。

【表】普通決議・特別決議と共有部分の工事例等

ちなみに「長期修繕計画の承認」は、通常であれば前述のマンション標準管理規約の通り「普通決議事項」となっています
総会で決議すべき事項である旨は、前述の区分所有法の第18条に定められていますが、第二項に「規約で別段の定めをすることを妨げない」とある通り、個々のマンション管理組合によって定めることが可能です。

【さいごに】

2回にわたり長期修繕計画に関して書いてみましたが、いかがだったでしょうか。

築30年を超えると、初めて実施するような工事も出てきますし、内外の環境も変わってきます。
そうした中、資産価値を維持しながら快適な生活を続けるには、行き当たりばったりではなく相応の計画性が必要になります。

皆様のマンションにおいて、改めて長期修繕計画について見直したり考えたりするご参考になれば幸いです。

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長期修繕計画の学び直し①〜あるある問題事例と最近の傾向

2021年05月06日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。

長期修繕計画については、過去にも「マンションの長期修繕計画見直しのポイント 修繕積立金の目安・周期他」等で何度か取り上げて書いておりますが、依然として誤解等が多いと感じています。

この春から新たに理事になった方もいらっしゃると思いますので、今回から2回に分けて、最近の長期修繕計画書の傾向なども含め、改めて長期修繕計画についてご紹介していきたいと思います。
なお、本記事では、築年数が経過(15年以上)したマンションにおいて見直しを行うという前提で書いておりますので、その前提でお読みいただければと思います。


1.長期修繕計画の作成状況

国土交通省が実施した平成30年度マンション総合調査では、自分のマンションには長期修繕計画が備わっていると回答した管理組合は90.9%です。

【グラフ】長期修繕計画の作成・未作成の割合

管理組合が専門業者に依頼してかなりのコストをかけて作成したものから、管理会社が無料で作成してくれたものまで様々だと思いますが、多くの管理組合で長期修繕計画が整備されていることが分かります。

ところが、私が管理組合運営のお手伝いをした限りにおいて、長期修繕計画の意義や運用方法に関しては、意外と多くの管理組合が理解していないと感じています。
そもそも、自分のマンションに長期修繕計画があることをご存じない区分所有者の方も結構いらっしゃいました。

しかし、輪番制で運営される管理組合においてそうしたことは何ら不思議なことではありません。
さらに長期修繕計画の細部まで熟知している方となれば、一部のごく熱心な理事や修繕委員会の方々以外、ほとんどいないのが現実ではないでしょうか。

そうした背景もふまえ、今回は、改めて長期修繕計画の意義や早めに検討すべき内容等をご紹介していきたいと思います。

2.長期修繕計画がないとどうなるのか

行き当たりばったりの修繕を実施してしまう

適正な長期修繕計画書には、向こう30年程度を見据えたうえでそのマンションの適正な維持管理に必要な「工事項目」「概算工事費用」「工事実施時期」「資金計画等」が記載されています。

前述の通り、平成30年度マンション総合調査によれば、長期修繕計画を作成している管理組合の割合は約90%に上ります。
ところが、同調査の「計画期間25年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金の額を設定している割合」になると、53.6%に低下してしまいます

【グラフ】25年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金の額を設定している割合

長期修繕計画がないと、あるいは短期の修繕計画しかないと、例えば管理会社から、

「エレベーターの更新をしたらどうですか。耐用年数の25年を超えていますし、この機種は既に製造中止になっています。また法律で定められた部品の保存期間も終了しています。最近は省エネで地震対策も完ぺきな最新型の機種がありますよ。それに現在の修繕積立金の残高は●●円ありますから、ここで2千万円程度使ってもまだ残りますよ。」

などといわれて工事を実施してしまうことが典型的な事例です。

この話を聞いて「そんなバカな」と思われる方々も少なからずいらっしゃると思いますが、実はこんな事例はいくらでもあるのです。

決して管理会社の提案が悪いといっているわけではありませんが、管理会社にも事情があるのでしょうか、時々びっくりする提案をしてくることがあります。
過去に私がお世話になった管理組合の事例においても、思わず耳を疑いたくなる工事を実施している管理組合が結構ありました。優先順位や今後の資金計画を考えないで、高額な修繕工事を実施しているのです
その典型が、エレベーターの更新、電気幹線の張替え、給水竪管の更新、機械式駐車場の更新等です

これらの工事の中には、いつかは必ず実施しなければならない大切な工事もあります。
ですからやってはいけませんよといっているのではありませんが、優先順位(必要性)と今後の資金計画を考えないで実施してしまうと、その後本当に必要な工事を行わなければならないときになって、資金不足を理由に、管理組合内での合意形成が得られなくなったりします。
そうなるとマンションの資産価値の維持にも影響が出てきます。

高額な修繕工事の計画が無視されてしまう

【イラスト】アルミサッシ代表的な事例は、「アルミサッシュ(共用部分)の更新」です
ご存知の方も多いと思いますが、アルミサッシュの更新には高額な費用(数十万円〜百万円程度)がかかります。耐用年数は35年前後ですが、この工事の実施については、日頃から管理組合で検討をしておく必要があります。

アルミサッシュ更新に関する方針例

  1. 一定の時期に管理組合で全数の更新工事を実施する。
  2. 管理組合で実施するには負担が大きいので、共用部分ではあるが、一定の条件下で個人での実施を認める。
  3. 定期的に部品交換を管理組合で実施し、極力延命を図る。

などがありますが、どの案を採用するかによって工事費用(資金)が大きく変わりますので、本来ならば管理組合で十分に議論を重ねたうえで、その方針をきちんと長期修繕計画に反映させておくべきなのです

しかし、長期修繕計画がないと、そんな面倒くさいことを検討することはできず、結局は議論されないままダラダラと年数だけが経ってしまい、気が付いたときは「●●号室の人は、自分で勝手にやったみたいだ。」とか、「サッシュの動きが重たくなってどうしようもないのだけれど、どうしたらいいの?」などの声が聞こえてくるようになります。
管理組合としてはこのような状態になってから対応しようとしても、適正な対応ができない場合があります。

修繕積立金の値上ができず、いずれ資金不足に陥る

【イラスト】修繕積立金が不足して青ざめる人マンションを適正に維持にするには、管理費にしても修繕積立金にしても、それなりの費用負担を伴います。
無駄遣いをしないで節約することと、必要なお金をきちんと使うことは別に考えなければなりません

戸建て住宅とは違い、合意形成が難しいマンションの場合は、日頃から適正な修繕積立金を徴収する必要があり、更にマンションが直面する事情や社会情勢の変化等に応じてその徴収額は改定(値上げ)していかなければなりません。
しかし問題は、値上額の妥当性をいかにして区分所有者に理解していただくかです。

3.長期修繕計画の意義

長期修繕計画の持つ意義は、以下3つに集約されます。

長期修繕計画の意義

  1. マンションの適正な維持・管理に必要な修繕計画と資金計画を明確にし、予めそれを区分所有者に周知する
  2. 「1」により、多額の費用を伴う大規模修繕工事等の合意形成をやりやすくする
  3. 「1」により、適正な額の修繕積立金を算出する根拠資料とする

残念ながら、心血を注いで作成した長期修繕計画を「見たことがない」という方もいらっしゃいますが、、、作成した長期修繕計画は、きちんと配布して周知〜合意を得ることが非常に重要です。

また、適正な修繕計画であることが前提になりますが、前述の通り、修繕積立金の値上げが必要になった際にとても重要なポイントになるのが「3」だと感じています

そして、適正な修繕計画であるためには、長期修繕計画を定期的(5〜6年)に見直して、修繕積立金の徴収額が適正な範囲を維持できているか等を継続的に検証していただく作業も重要です

予め不測の事態や物価上昇等を加味し、かなり余裕を持たせた計画を立てている管理組合もありますが、大規模災害も含め、何十年も先まで正確に予測することは困難です。
また、状況によっては専有部分の給排水管の更新について、あるいは、建替えや再生工事、解体を視野に入れた議論が必要になるかもしれません。


4.最近の長期修繕計画見直しの傾向

専有部分の給排水管の更新を見込む

長期修繕計画において修繕の対象となっている部位は、「共用部分」です。
そして、専有部分の維持管理は、個人の責任と負担で実施することが「建前」です

築30年以上経過したマンションにおいては、給排水管の更新工事が重要なテーマとなりますが、そのようなマンションの管理のお手伝いをしているうちに、あることに気づきました。
専有部分の給水(給湯)管や排水管の更新については、個人での実施を前提に修繕計画を進めようとしても、個人の考え方の違いや経済的な事情等が影響し、専有部分の工事が進まないことです。

そうなると、共用部分(竪管)を更新しても、専有部分を原因とした漏水事故が多発するようになり、多額の損害賠償の問題、上下間住戸の近隣トラブルの問題、管理組合が関与を余儀なくされる煩わしさの問題等が起こり大変なことになります

【イラスト】保険証券「保険に入っているから大丈夫」という考え方もあるかもしれませんが、最近の高経年マンションで発生している漏水事故の多さは保険会社も十分知っています。
実際、漏水事故が頻発した高経年マンションにおいて、更新時に高額の保険料になり、更新を断念した例は結構あります。
そうしたマンションの中には、各戸の自己責任とし、リフォーム時の工事を促したり個人で加入する保険でカバーするよう周知したりしている例もありますが、保険については「"経年劣化"による水漏れ」をカバーしているかしていないか、将来的な保険料の値上げの可能性等についても、しっかり周知しておく必要があると思います。

私は長期修繕計画に専有部分の給排水管の更新を見込むようにお勧めしていますが、これにも以下のような注意点があります。

給排水管更新工事の注意点

  1. なるべく早い時点で管理組合としての考え方を周知しておく。
    築年数の経過とともに専有部分のリフォーム工事も多くなってきます。区分所有者によっては、このときに専有部分である給排水管の横引管を更新される場合があります。
    後になってから、専有部分の工事を個人負担でやった方と管理組合の負担でやった方の不公平感が出ないように、管理組合で実施する方針が決まれば、なるべく早く区分所有者にお知らせした方が良いと思います。
  2. 管理規約を改正する。
    最近のマンションの管理規約は、多くの場合国土交通省の「マンション標準管理規約」をベースに作成されていますが、専有部分の工事に関しては、要約すると「共用部分と一体化している個所(給排水管はその典型です)に関しては管理組合が管理(工事)を行うことができるが、費用負担は個人である(修繕積立金を使用してはならない)」となっています。
    この部分に問題があり、専有部分の工事に修繕積立金を使ったことについて裁判に発展している場合もあります。

このようなことが起こらないように、「共用部分と一体化した専有部分の工事に、修繕積立金を使用することができる。」というように管理規約を改正しておくことをお勧めしています

段階増額積立方式より均等積立方式

【イラスト】お金の束修繕積立金の積立方法には2通りあります。
数年ごとに積立金の額を少しずつ増やしていく方式を「段階増額積立方式」といいます。この方式は、以前は多く採用されていました。特に分譲会社が最初に提示する長期修繕計画においてはほとんどこの方式です。
購入当初の積立金の負担を少なくした方がマンションを分譲しやすいという分譲会社の思惑もあるなどと言われていますが、結局はツケを先送りする理屈と同じで、将来負担する修繕積立金の額が大きな額となってしまいます。

一方、積立期間中の徴収額を変えない積立方式を「均等積立方式」といい、当初の負担額は大きく感じることもありますが、その金額が将来通じて変わらないというメリットや途中でマンションを購入する人にも分かりやすいということもあり、最近はこの方式を採用する管理組合が多くなっています
前述の国土交通省のガイドラインでもこの方式を推奨しています。

大規模修繕工事の実施周期を12年より長く設定する

2008年に国土交通省から公表された「長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン」では、多額の費用を使って実施する外壁や屋上の修繕工事(いわゆる「大規模修繕工事」)の実施周期は、「参考」とはしているものの12年と記述されています

この「12年」は、昔から多くの書籍や資料で目にしますが、明確な根拠はありません。
もちろん法律で定められているわけでもありません。

「屋上防水工事の保証期間が一般的には10年なので、期待耐用年数は12年くらい・・・」とか、「外壁のシール材の耐用年数は10〜12年くらい・・・」など、なるほどと思うような説もありますが、この12年周期を延ばすことができれば、長期修繕計画の計画期間中の大規模修繕工事の回数を減らすことができるので、その分計画期間中の工事費用総額を減らすことができます

仮に15年前後の周期に延ばすことができた場合、たった2〜3年ではありますが、長い目で見れば大規模修繕工事の回数を減らすことが可能になります。

そうなると、当然ですが、修繕積立金の設定額(増額)も少なくて済みます

【イラスト】大規模修繕工事等で組んだ足場ただし、大規模修繕工事の周期を延ばすためには、外部仮設足場を必要とする工事(具体的には外壁塗装、シール打替工事、タイル補修工事など)について、それなりの耐用年数が期待できる材料や工法を考える必要があります
従いまして、まずは次回の大規模修繕工事をそれに対応できる仕様で計画し、その次からの大規模修繕工事を新たな周期で計画すると良いと思います

なお、以前の記事「施工不良、剥落事故...マンションの外壁タイル問題について」でも触れましたが、タイル、石貼り等を使った外壁については、建築基準法第12条に基づく定期報告制度により、全面打診等の調査が必要になります
「竣工、外壁改修等の後10年を超えてから最初の調査である場合」と定義されているため「基本的に10年毎に全面調査・報告が必要」になりますが、「3年以内に外壁改修もしくは全面打診等を完了することが確実である場合」は全面調査の猶予が認められています。
つまり、従来通り大規模修繕工事が12年周期の場合、大規模修繕工事の際に外壁調査を行うようにしても大丈夫で、その場合は外壁調査のためだけに新たに足場を組まずに済み効率的です。

しかし、大規模修繕工事の周期が延びる場合、外壁調査のためだけに足場を組む必要が生じる可能性があります

足場を組むのは結構な費用がかかってしまうため、外壁調査のためだけに足場を組むのは非効率ですが、その場合、打診ではなく赤外線調査(ドローンを使った目視+赤外線調査含む)という方法もあります。
ただし赤外線調査は、例えば東京都の定期報告に関するQ&A
「東京都所管物件においては、赤外線調査を行うことで、落下により危害を加えるおそれのある部分の劣化及び損傷の状況が正確に判断できる場合、赤外線調査での確認を認めています。赤外線調査を行う場合、測定確度が確保できるか、障害物はないか等に留意した上で調査を実施してください」
と記されている通り、条件によっては期待する精度を確保出来ない場合があるので、その点には十分な注意が必要です
検討時、所管の特定行政庁にも確認を取るのが良いと思います。

【さいごに】給排水管の更新については十分に議論を!

今回は、長期修繕計画に関する基本的な内容と最近の傾向が中心となりましたが、いかがだったでしょうか。
次回は、長期修繕計画にまつわる誤解集をご紹介する予定です。

なお、本文でも触れた専有部分の給排水管の更新については、長期修繕計画の「建前」からは逸脱するかもしれませんが、区分所有者の皆様で一度十分に議論されることをお勧めします

<余談>

冒頭でもお伝えしたとおり、今回の特集で取り上げた長期修繕計画は、築年数が経過(15年以上)したマンションにおいて見直しを行った際の長期修繕計画書を対象としています。
その理由は、最近分譲されたマンションの長期修繕計画は、使用部品の材質が違ったりして計画周期等が異なる工事等があることです。
また、マンション自体も、設備の更新工事がやりやすい設計上の配慮もされています。
何十年も経たないと分からないこともありますが、技術の進歩や材料の進歩によって、より長持ちする、より維持・管理しやすくなるマンションが出来ているのはとても良いことだと感じています。

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事例:住宅紛争審査会での調停〜裁判まで<マンションに欠陥が見つかったら②>

2021年04月08日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

みなさまこんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。

前回「マンションに欠陥が見つかったら①~住宅品確法とその活用」は、住宅品確法の立法趣旨と、マンション管理組合が活用できる3つの制度「1.瑕疵保証制度」「2.住宅性能表示制度」「3.裁判外紛争処理制度」についてご紹介しました。

今回は少し掘り下げて、実際のマンションで発覚した「大量の外壁タイルの浮きや剥離」「構造スリットの未施工」から、実際に「3.裁判外紛争処理制度」の「住宅紛争審査会での調停」を活用した事例、そして裁判へと繋がるまでの経緯等をご紹介していきます。

1.マンション概要

対象となったマンションは、当事務所が大規模修繕工事コンサルティングを受託したマンションです。

該当マンションの概要
  • 築年数:13年
  • 売主:大手デベロッパー
  • 建設住宅性能評価書:あり

2.調停までの経緯

10%超のタイルに浮きや剥離。未施工も発覚

大規模修繕工事の設計段階から外壁等のタイルの浮き・剥離が多いことは分かっていましたが、工事実施の際に総足場を架けて調査したら、総タイル面積の10%以上のタイルに浮きや剥離が発見されました
また、設計図で指示されていた構造スリットの一部が未施工だったことも判明しました

【写真】外壁タイルの浮きや剥離の様子01【写真】外壁タイルの浮きや剥離の様子02【写真】外壁タイルの浮きや剥離の様子03
発見された外壁のタイル浮きや剥離の様子。目地ずれも確認されました

補修費用の負担を求めるも、売主は応じず...

これだけのタイルを当初の予定通りに修繕した場合は数千万円の追加費用がかかることが判明したので、売主に対し「未施工となっている構造スリットの速やかな施工とタイルの補修費用の負担」を求めましたが、売主からは「見舞金」として数百万円の支払意思はあったものの、全体的には誠意のある回答ではありませんでした

住宅紛争審査会に「調停」の申し立てへ

理事会で検討した結果、不法行為による訴訟という選択肢もありましたが、このマンションは「建設住宅性能評価書」の交付を受けていたので、管理組合で臨時総会を開催し、住宅紛争審査会に対し「調停」を申し立てることにしました。

【写真】対象マンションの建設住宅性能評価書
対象マンションの建設住宅性能評価書。性能項目毎に、等級や数値が示されています。
これがないと、裁判外紛争処理制度(今回の事案だと、住宅紛争審査会による「調停」)を利用できません。

3.住宅紛争審査会での調停

調停では、弁護士1名と建築士2名が調停委員として管理組合、売主双方の意見を聞く形で数回実施されました。
売主側の主張をまとめると以下のとおりです。

売主側の主張

  1. タイルの施工に問題があったことは認めるが、売主としての瑕疵担保責任期間の10年は経過しており、タイルの施工不良に対しての損害賠償責任はない
  2. 設計図に記載のある構造スリットに関しては、自社で再検証のうえ、必要と判断したら施工する
  3. 交渉段階で提示した数百万円は、売主としての社会的責任を考慮したうえでの「見舞金」であり、金額の算定根拠はない

品確法による調停は困難。裁判なら「不法行為」か

調停委員としての弁護士の意見も、10年を経過しているので品確法による調停は難しいと思うことや、民法上の「債務不履行」にしても10年の時効を過ぎているため、訴えるのであれば、施工業者を「不法行為」で訴えるしかないのではないかという内容でした

管理組合は、調停を中止したうえで裁判に移行することも検討しましたが、弁護士費用の件や、長期化すれば理事会の負担も大きくなることなどを考え住民アンケートを実施した結果、見舞金の増額を求める形で引き続き調停の場で解決策を模索することにしました。

しかし、最初は「協議してまいりたい」といっていた売主ですが、調停の場においても一向に進展する気配がなく、また、本件以外の諸事情も重なって調停は打ち切りとなりました。

裁判で、売主・施工業者の不法行為責任を追及へ

やむを得ず、最後の手段である訴訟について住民への経過説明会を実施した結果、裁判で追及するべしとの意見が多数だったため、訴訟のための臨時総会を開催。売主や施工業者の不法行為責任に対する「裁判申し立て」が決定し、現在も係争中です。

これまでの経緯をまとめると、以下のようになります。

一連の経緯

  1. 大規模修繕工事を控え、調査を実施。大量のタイルの浮き・剥離や未施工箇所が発覚
  2. 売主に対し「未施工箇所の速やかな施工とタイルの補修費用負担」を求める
  3. 売主から「見舞金」として数百万円の支払意思を含めた回答がある
  4. その後も金額の増額を求めて交渉を重ねたが、のらりくらりの回答に納得がいかず、理事会で住宅紛争審査会への「調停申し立て」を発案
  5. 臨時総会を開催し「調停申し立て」を決定
  6. 住宅紛争審査会による調停を数回実施
    • 調停委員より、品確法による調停は困難との見解が示される
    • 調停委員より、訴えるなら「不法行為」という形しかないのではとの見解が示される
    • また、不法行為の消滅時効も迫っているとの説明を受ける
  7. 期待する結果を得られないまま、調停の打ち切り
  8. 経過説明会の結果、裁判支持の意見が多数だったため、訴訟のための臨時総会を開催。「裁判申し立て」が決定
  9. 裁判を申し立て、現在係争中

4.調停を終えて

今回の調停について、個人的な見解等を交えながら、ポイントをまとめていきます。

住宅紛争審査会への申立ては、施工不良が明らかでも、品確法の適用がある「10年以内」でなければ、期待するような結果は得られない

品確法をご存じの方からすれば「当然だろう」というご指摘があると思います。
もちろん、この点を理解せず調停を申し立てた訳ではありません。

ではなぜ敢えて調停を申し立てたのか-。
第一に、出来ることなら売主としての社会的責任を喚起し、裁判をせずに解決を図りたい意図があったからです。前述の通り、不法行為による訴訟は最初から視野に入っていました。
もちろんそれはこちらの都合であって「10年の壁」を超えられる可能性はゼロです。

第二に、今回のケースでは、「10年の壁を超えられるのでは」というより「何とか超えたい」と強く願う理由がありました。
それは、「住宅性能評価を受けている優良マンション」という触れ込みで販売していた上で発覚した明らかな「施工不良実態」だったから、です。
住宅購入者(管理組合)の立場からすれば、到底容認できることではないことがご理解いただけるのではないでしょうか。

第三に、我々が事前に収集した情報では、今回同様10年を過ぎて発覚した同様の問題(タイルの剥離)に対し、大手デベロッパーが実際に補修したり、補修費用を負担したりした事例があったからです。
しかし、数百万円の見舞金支払意思はあったものの、のらりくらりの回答が続き、調停の場であれば、その協議がより良い形で進むのではないかという期待がありました。

こうした実態と経緯が伴えば、たとえ10年を超えていたとしても、「欠陥住宅の供給を防止し、住宅購入者の利益を守る」という立法趣旨の下、訴訟を起こすことなく、より良い解決に導ける可能性があるのでは、という期待、「ひょっとしたら」という願いがあったのです。

しかし、調停外の解決策(不法行為による訴訟)も示されたものの、あくまでも品確法ベースの調停であり、相手の側の主張が大きく変わることもなく、住宅購入者(管理組合)が望むような結果は得られませんでした。
たとえ明らかな「施工不良実態」があり相手が施工不良を認めていても、残念ながら調停で状況を変えることは出来ないのです

そして、調停当初の売主の「協議してまいりたい」という答弁は、時効等を狙った時間稼ぎの作戦でしかないことも分かりました
僅かでも相手の良心に期待するなどお人好しだと言われればそうかもしれませんが、こうした事実も含めてより多くの管理組合に知っていただき、早めの対策に繋げて欲しい、また、同じような状況になった際に参考にして欲しいと強く願っています。

結果だけ見れば「当然だろう」と思われても仕方がありませんが、住宅購入者(管理組合)の側としては、やはり納得できない、大変残念で不満が残る結果でした。

中立な第三者専門機関による見解を聞くことが出来、管理組合が低コストで行える最初の対応として、また、今後の方針を決める一助として、一定の価値はあるのではないか

今回の調停結果は不本意なものでしたが、それ抜きに冷静に考えた場合、(たとえ築10年以上であっても)管理組合がこの制度を利用する価値はあるのではないかと思いました。

  • 中立な第三者立ち会いの下、お互いの主張を冷静に確認できること
  • 調停委員である専門家(弁護士・建築士)から、中立な第三者としての見解を聞けること
  • 調停外の解決策を提示してもらえる可能性があること(今回であれば不法行為による訴訟という手段が示されました)
  • ゼロから弁護士等を探し、同等のコストや労力で同等の結論にたどり着くのは難しいように感じたこと

たとえ不本意な結論であっても、法律の下に設立された中立な第三者専門機関ですから、単に「相談した弁護士にこう言われました」よりは、合意形成・意思決定しやすいように思います。
しかしながら相応に時間はかかりますので、コストを掛けてでも早く結論を出したい場合は、この手の問題に強い弁護士に相談する方が早いかもしれません。
また、前述の事例のように不法行為による訴訟を考える場合、消滅時効があるのでくれぐれもご注意ください。問題が発覚したら、速やかにいつ時効になるかをご確認いただくのが良いと思います。

それと、後述しますが、争点によっては(今回であれば、築10年以上で「タイルの浮き・剥離」だけであれば)門前払いになる可能性もありますのでご注意ください

タイルの浮き・剥離の問題は、住宅紛争審査会での事案として適当なのか?

今回の事案には、構造スリットの未施工という問題があり、これ自体は「構造耐力上主要な部分の瑕疵」といえるので申立てが門前払いとなることはありませんでしたしかし、タイルの浮きや剥離はどう考えたらよいのか、私自身も迷うところです

施工不良によるタイルの浮きや剥離は、落下したタイルによって重大な人身事故に発展する可能性もありますし、区分所有法第9条※1も絡んで管理組合にとっては深刻な問題です。

しかし、「タイル」そのものは外装材なので構造耐力上主要な部分には当たりません
過去に私が読んだ参考書や専門家の意見によると、外壁を覆っているタイルが剥がれてしまうとコンクリートが剥き出しになり、そこから雨水が室内に侵入するので「雨水の侵入を防止する部分」と解釈できるという説もありました。私もこの考えには賛成ですが、今回の場合は「10年の壁」がネックになってしまいました 。

※1 マンションの設置又は保存に瑕疵があり、他人に損害を与えた場合はその瑕疵は共用部分の設置又は保存にあると推定する

「住宅性能評価」という言葉や「品確法(とその制度)」を過信しないこと

大前提は、新築後10年以内のマンションで、構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分、それと住宅性能評価書に記載された各項目の性能についてであること、です
そこから外れるものは、裁判で争うとか自衛が必要になります。くれぐれも過信しないことが肝要です。

【さいごに】引渡し後10年を迎える前に点検を!

前回、前々回と、2回続けて外壁タイルや品確法についてお伝えしてきましたが、いかがだったでしょうか。

品確法は、その内容や効力の範囲をきちんと理解してうまく活用出来れば、住宅購入者(管理組合)にとって心強い味方になってくれます。
しかしながら、今回のケースのように10年経過した後で発覚した問題に対しては無力に等しいものです。
そして、マンションにおいては、10年を経過した後に実施する大規模修繕工事の際に問題が発覚することが多いのです。

今回ご紹介した事例の裁判は、2021年3月現在、まだ係争中ですが、このようなことになる前ーー引渡し後10年を迎える前に、外壁と屋上防水の点検を行うことを強くオススメいたします

よろしければ、前回、前々回の記事も併せてご覧ください。

裁判結果については、結果が出た後、いずれこのブログでご紹介出来ればと思っています。

マンション管理コンサルタント マンション管理士 重松 秀士プロフィール
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