業界トップクラスの実績を持つ千葉のマンション管理士 事務所所長 マンション管理士 重松秀士が、マンション管理 コンサルタントならではのお役立ち情報をお届けします。 携帯版
こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
最近、大成建設の施工不良が話題になっていますが、マンションにおいても、過去に何度も大きな施工不良が取り沙汰されてきました。
建替え等を要するような施工不良はごく稀ですが、施工不良が発覚したものの、管理組合が一方的に費用負担を強いられるケースも少なくありません。
そこで今回は、実際に外壁タイルの施工不良により「不法行為責任に対する民事裁判(損害賠償請求訴訟)」を経て解決金を得た事例を基に、その対応方法や留意点をご紹介します。
なお、ご紹介する事例は「新築マンションにおける施工不良」ではあるものの「瑕疵担保責任期間を過ぎていた(10年経過後に発覚=時効)」という、管理組合にとっては不利な状況下から民事裁判に持ち込み解決金を得た事例であり、「外壁タイル」云々抜きに、同様の状況でお困りの管理組合にとってお役に立てるものがあると思っています。
せっかく購入した新築マンションに施工不良や重大な欠陥が見つかった際、理不尽な対応をされたり泣き寝入りすることなく、少しでも良い結果に繋がるよう、その一助にしていただければと願っています。
本記事は、実際に重松事務所が大規模修繕工事コンサルティングを受託した、築10年超の新築マンションで起こった事例を基に、他の事例も織り交ぜながら内容を抽象化・一般化した形で構成しています。
本記事を参考にしていただく際の大きなポイントは上記「1」と「2」、すなわち「新築マンションにおいて施工不良が発覚したが、瑕疵担保責任期間の10年を経過していたこと」、です。
なぜなら、通常、余程明らかな不具合、事故等がない限り、建物の劣化診断等を行う第一回目の大規模修繕工事時に発覚することが多いからです。
そしてそれは、冒頭でも触れた「住宅品確法による瑕疵担保責任期間」や「債務不履行に基づく損害賠償請求権の時効期間」の「10年」を過ぎており、管理組合にとっては厳しい状況だからです。
※2023年3月現在、品確法では今も「瑕疵担保責任」という表現が使われていますが、2020年4月の民法改正により、「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に改められました
民事裁判(損害賠償請求訴訟)までの流れは以下の通りです。
実際には大規模修繕工事を並行して実施していますが、ややこしくなるため途中から割愛しています。また、重松事務所では、受託した大規模修繕工事関連はもちろんですが、裁判前の各種交渉についても情報提供、書類作成、合意形成等をサポートしています。
前述の通り、本記事の基になった事例では、そもそも大規模修繕工事に関する相談を受けたことが事の始まりでした。
そして、管理会社が提案する責任施工方式を採用せず、「設計・監理方式」で大規模修繕工事を実施することに決定しましたが、結果論ではあるものの、その後の施工不良の発覚〜裁判を振り返ると、この時のご判断はとても大きいものでした。
繰り返しになりますが、当初の相談内容は大規模修繕工事に関するものであり、施工不良に関してではありませんでした。従って、コンサルティング開始時点で施工不良は発覚していませんでした。
ではどこで発覚し、確信に至ったのか? おおまかな経緯は以下の通りになります。
問題となった外壁タイルは、何と総タイル面積の15%以上に不具合が見つかりました。
これは、一般的な不具合率の数倍の値でした。
なお、「外壁タイル」のトラブルは、近年訴訟も含めて多くの事例が見受けられるものの一つです。
「外壁タイル」がどの程度含まれるかは分かりませんが、住宅リフォーム・紛争処理支援センターによれば、紛争処理の争点になった共同住宅における主な不具合事象として「ひび割れ」「はがれ」が上位にあり、その当該部位に「外壁」と記載されていました。
戸建住宅も1位は「ひび割れ」になっていましたが、外壁に関するトラブルが多いことがうかがえます。
不具合事象 | 当該事象が多く見られる部位 | |
---|---|---|
ひび割れ | 17.8% | 外壁、内壁、床 |
はがれ | 14.6% | 外壁、内壁、床 |
遮音不良 | 13.1% | 床、開口部・建具 |
変形 | 12.1% | 床、内壁 |
汚れ | 10.9% | 内壁、床 |
異常音 | 9.0% | 排水配管、天井 |
出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター
本記事の基になっている事例では、総タイル面積の15%超に不具合が見つかる事態でしたが、一般的な不具合率はどの程度と見るべきでしょうか。
経年劣化による浮きや剥離は、立地(環境)や自然災害も含めて様々な要因があると思いますので、全て一律に同様の判断はできないと思いますが、個人的には以下を参考指標にしています。
タイルの浮き等の参考値については、以前の記事でも触れましたが、重松事務所がお手伝いした数々のマンションにおいて、同程度や1%未満の物件もあったため、個人的には0.2%/年を一つの目安にしています。
12年目の大規模修繕工事なら、0.2×12年=2.4%になる計算で、この程度であれば正常な範囲といった見方になります。
この数値は、建築家の鈴木哲夫氏が「防水ジャーナル」で発表された、施工不良がない建物においては1年で0.19%という数字を参考にしたものです。
もう一つの参考指標は、大阪地方裁判所判事である高嶋卓氏が判例タイムズに寄せた論文で示された数字(下表参照)で、本記事の基になっている事例であれば「施工後10年超15年以内」に該当するので、「5%以上」なら施工不良の可能性が高い、という見方になります。
この数値は、先の鈴木哲夫氏による記事に記載されている「施工不良のあった建物については0.46%/年(12年なら0.46%×12年=5.52%)」という数字に近いものでもあります。
なお、本記事の基になっている事例の不具合率は15%超でしたので、これら参考指標を大きく超える数値であることをご理解いただけると思います。
施工後の期間 | 浮き・剥落の割合 |
---|---|
5年以内 | 0%以上 |
5年超10年以内 | 3%以上 |
10年超15年以内 | 5%以上 |
15年超20年以内 | 10%以上 |
出典:判例タイムズ
当初から訴訟を視野に入れていたものの、弁護士費用や時間がかかること、理事(特に理事長)の負担も大きくなること等から、まずは直接交渉(当事者同士の話し合い)を行うのが一般的です。
本記事の基になっている事例においても同様で、まずは直接交渉を行いましたが、残念ながら期待する「誠意ある回答」は得られませんでした。
他の事例においてもそうですが、10年を過ぎて施工不良が発覚した場合、大抵は「経年劣化」と「時効」を主張してきます。
一部そうではない事例もありますが、残念ながら「はい、施工不良でした。費用負担いたします。」とはいきません・・・。
次の手段として「住宅紛争審査会」や「民事調停」の活用が考えられますが、経験上、同じ主張を展開してくるので、訴訟同様の成果を得るのは極めて難しいと思います。
しかし、それぞれ低コストで済み、公平中立な場で第三者を交えてやりとりできるため、「直接交渉で全く相手にしてもらえない」「もう少しだけ譲歩してくれればいい」等の場合も含めて、うまく活用できる場面はあると思います。
従って、10年を過ぎて施工不良が発覚した場合、最初から訴訟を視野に入れて行動することが肝要だと思います。
そして、訴訟を視野に入れる場合、注意しなければならないのは以下2点です。
被害者等が損害及び加害者を知った時(今回であれば、施工不良と確信する事実を知った時)から「3年」、権利を行使しないと時効になってしまいます。(事実を知ることなく20年経った場合も時効になります)
従って、その点を十分に意識して行動することが、極めて重要なポイントです。
また、施工不良であることを、管理組合が証明しなければなりません。
それができないと、訴訟になっても期待する成果を得られません。
外壁タイルについては、前述の不具合率(浮き・剥落の割合)も根拠の一つになり得ると思いますが(実際の裁判でも提出しています)、それだけではなく、本来されているべき施工がきちんとされていたのかを丁寧に調査・検証し、誰が見ても明らかな形で「施工不良」だと分かりやすく示せること、それをできるだけ多く用意することが重要なポイントだったと感じています。
ポイント
本記事の基になっている事例における裁判の概要は以下の通りです。
この裁判では私が管理者に就任し、出廷をはじめ中心となって様々な対応にあたり、弁護士探し、資料作成、合意形成等、こちらも引き続き重松事務所でサポートをしました。
争点 |
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---|---|
提出した書類(証拠) |
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裁判所の判断 |
|
詳細はご紹介できませんが、上記のような裁判所の判断を経て「和解決着」となりました。
そして、管理組合は実際に支払った補修費用を含めて数千万円の補修費用を得るに至りました。
ポイント
本記事の基になっている事例は、前述の通り、そもそもは大規模修繕工事に関するご相談から始まりました。
そして、その途中で施工不良が発覚した形になりますが、もちろんその影響を受ける形になりました。最後にその点をご紹介して、まとめに入りたいと思います。
施工不良に伴う追加の補修工事は、足場がかかった大規模修繕工事中に対応することになりますが、今回はまだ訴訟開始前。
その状況で、ある程度の見通しを立てながら、支払いや工事範囲等を適切に決めなければなりませんでした。
想定外の出費にはなったものの、今回は上記のように対応することで、このために新たな借入等することなく対応することができました。
また、結果論ではありますが、「設計・監理方式」にして本工事の費用を抑えることができたことも幸いしたと思います。
ポイント
最後に、改めて新築マンションにおける施工不良について、ポイントを列挙してみました。ご参考にしていただければ幸いです。
今回もかなり長くなりましたが、いかがだったでしょうか。
本記事の基になっている事例では、最終的に訴訟を起こし、補修費用を得ることができました。
幸い、一方的に管理組合側が負担を強いられることがなく次の大規模修繕工事に繋げられる形で終わりましたが、うまく交渉できず泣き寝入りしたという管理組合も結構あるのではないでしょうか。
結果論ですが、たまたま大規模修繕工事のコンサルティングという形で施工不良を発見するきっかけとなった調査段階から関わることができたため、早い段階から訴訟を視野に入れた対応ができたことは幸いでした。
また、今回の裁判の他にも最高裁まで争って勝訴した訴訟等の経験があったため、そうした経験や実務に詳しい弁護士を知っていたこともプラスに働いたと思います。
しかし、状況によっては困難が予想されます。
繰り返しになりますが、このようなことになる前、つまり引渡し後10年を迎える前に、外壁や屋上防水、その他気になる箇所があればその点検を行うことを強くオススメいたします。
以下は、外壁タイル問題に関係する一連の記事です。
本記事では僅かしか触れていない住宅紛争審査会での調停についても書いていますので、お役に立てそうなものがあればそちらもご覧ください。
施工不良、剥落事故...マンションの外壁タイル問題について
マンションに欠陥が見つかったら①〜住宅品確法とその活用
事例:住宅紛争審査会での調停〜裁判まで<マンションに欠陥が見つかったら②>
マンション管理コンサルタント マンション管理士 重松 秀士(プロフィール| )
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