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ホーム > お知らせ&日記(ブログ) > マンション管理士 業務日誌 > 修繕積立金を専有部分の改修に使用した事例の最高裁決定について

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2018年01月03日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
私が10年来お世話になっている管理組合で、4年にわたる裁判をやっていましたが、2017年9月にようやく最高裁判所の決定が出て決着した裁判があります。この裁判は、相手方(原告・控訴人・上告人)の代理人弁護士はこの業界でも有名な学者だったし、高等裁判所の判決が出た時点で、一部のマスコミにも紹介されましたのでご存じの方もいらっしゃると思います。
事件の内容は「修繕積立金を専有部分の工事に使用できるか。」というものです。注目度の高い事案だと思いますが、今までは係争中であったこともあり、本件のご紹介は控えさせていただいておりました。
しかし、最高裁判所の決定が出たことや、私のホームページで紹介することに関し、管理組合からの了解が得られたのでここに公表させていただくことにしました。

はじめに

簡単にいうと、本判決は、「マンション管理組合が大規模修繕工事等の修繕を実施する場合、一定の条件のもとで修繕積立金を専有部分の工事に使用することは、違法ではない。」という内容です。

マンションの修繕積立金の使途については、多くの場合、管理規約で定められており、国土交通省マンション標準管理規約(単棟型)では、第28条(修繕積立金)に以下のように規定されています。

  1. 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
  2. 不足の事故その他特別の事由により必要となる修繕
  3. 敷地及び共用部分等の変更
  4. 建物の建替え及びマンション敷地売却(以下「建替え等」という。)に係る合意形成に必要となる事項の調査
  5. その他敷地及び共用部分等に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理

上記の修繕は、全て共用部分が対象とされています。
また、第21条(敷地及び共用部分等の管理)第2項には以下のような条文もあります。
「2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」

そして、その条文に関する国交省のコメント欄には以下の2点があげられています。

  1. 第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。
  2. 配管の清掃等に要する費用については、「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。

給排水管の横引管が「専有部分」であることを前提として、以上を素直に解釈すると、国交省は、「専有部分を含む雑排水管の高圧洗浄等は管理費から支出しても良いが、更新(取替え)工事の場合は、専有部分に当たる部分の工事は個人負担でやりなさい。」と指導している事になります。
築年数が経過した高経年マンションが多くなった昨今、給排水管の更新工事はその事例がとても多くなっています。
その際に、「共用部分(竪管)の更新は管理組合の責任と負担で実施しますので、専有部分(横引管)については、個人負担でやってください。」となると、個人の経済的な問題もあり、専有部分の改修がなかなか進みません。
専有部分の改修が進まないと、それを原因とした漏水事故が多発し、結局は管理組合運営に支障をきたします。
そこで、管理組合に資金的な余裕や目途がある場合は、専有部分も修繕積立金で工事を実施する例は、最近は結構あります。
それが、今までは大きく揉めたり裁判沙汰までならなかったのは、反対する人が少なかったからです。
専有部分の更新工事は実施したいが、個人負担となると躊躇する住戸が出てくることは容易に想像できます。しかし、それを修繕積立金を使って管理組合が実施してくれるのであれば反対する人はいないはずです。
今回は、管理規約の改正・修繕積立金で専有部分の工事を一部実施することなどを提案した総会決議に関し、2名の組合員から「総会決議の無効」を主張して訴えられた事案です。

修繕工事のきっかけ

ご紹介するマンションは、私が2005年からお世話になっているマンションで、概要は以下のとおりです。

  • 竣工 昭和42年(1967年)今年で築51年を迎えます。
  • 4棟の団地形式で戸数は200戸弱

築40年目くらいから建替えも検討しましたが、容積率が現行法規をオーバー(いわゆる既存不適格建築物)しており、同様の規模では建替えができないことが判りました。
そこで、理事会と修繕委員会では、向こう30年間は十分に使用できる本格的な修繕工事を実施することを考え、従来型の大規模修繕工事ではなく「マンション再生工事」と名付け、本格的な検討に入りました。
建物については、従来の外壁塗装や防水工事に加え、ベランダ手摺の全面交換、玄関扉の更新を計画しました。ちなみに、アルミサッシについては米軍や自衛隊の基地が近くにある関係で、防衛省の騒音対策費でほぼ更新済みでした。
そして、設備に関しては給水管・排水管・ガス管の全面更新を計画しました。

給排水管更新工事等の概要

既設の配管類と更新方法は以下の表のとおりです。

部位現状修繕計画
排水管・配管材料は白ガス管と塩ビ管が混在
・横引管は、下階の天井裏に敷設されている
・竪管・横引管とも硬質塩ビ配管に更新
・なお、横引管は最高裁判例(平成12年3月21日)により「共用部分」
給水管・配管材料は白ガス管
・横引管は、床スラブの上にシンダーコンクリート数㎝を施工し、その中に埋設
・竪管・横引管とも架橋ポリエチレン管(電気融着継手)に更新
・横引管(専有部分)は、シンダーコンクリート内に埋設(一部露出)
トイレ・従来型便器(フラッシュバルブ方式・専有部分)・給水管、排水管の更新とともに、便器(節水タイプ・専有部分)も交換
浴室・バランス釜タイプ
・浴室防水+押えコンクリート+タイル貼り
・椀トラップを経由して、下階天井裏から排水
・浴室防水、トラップは共用部分
・バランス釜、浴槽、内装タイルは専有部分
・バランス釜と浴槽を撤去してユニットバス化
・ベランダに新規に給湯器(16号)を設置
・床スラブに新たに穴をあけ、下階天井裏に排水経路を確保
・ユニットバスと大型給湯器は専有部分

この表をご覧になって、皆様は何か感じられましたか?
更新工事の内容に、「ユニットバス」「給湯機」「便器」など明らかに専有部分である設備が多く記載されています。前述のとおり、横引管までを更新する例は多いと思いますが、ここまで踏み込んだ形での更新は珍しいと思います。

今回の、工事は共用部分の工事をするためには、浴槽も解体しなければできないとか、トイレの便器も従来品を再利用するなら保証が出ない等の難問が山積していました。
そのため、

  1. 従来のバランス釜タイプの風呂釜と風呂桶は撤去し、復旧しないでユニットバス方式に変更する。
  2. そのためには、給湯器が必要となるのでベランダに給湯機を設置する。
  3. 便器も旧式のフラッシュバルブ方式の便器を再利用するのでは、更新した配管との接続がうまくいかず、工事会社からの保証が出ないので、新品の節水型に交換する。

等の大掛かりな付帯工事が必要と判断しました。
浴室の現状図をご覧ください。
haikann.png

この状態で、排水管を更新するには、現在設置してあるバランス釜と浴槽を一旦撤去し、洗い場の床を壊して、排水管と防水層をやり替えた後、また床のコンクリートを打設したうえで、一旦撤去したバランス釜と浴槽を再設置することになります。
検討しましたが、この工法では工期も費用も掛かり、且つ再利用するバランス釜や浴槽も問題なく再利用できる保証がありません。
ユニットバス方式にする方が、工期もコストもメリットがあることが判りました。

費用負担の検討

このように、ユニットバス、給湯器、便器などは明らかに専有部分ですが、この方法で施工する方が、工期も短く費用も安く上がることや、専有部分を個人負担にすると、前述のとおり、経済的な理由等で工事ができない住戸が発生することが明らかなので、全てを修繕積立金で賄い一斉に工事することを検討しました。
長期修繕計画を見直した結果、さすがに一時的に資金ショートすることが分かりましたが、金融機関からの借入れを利用すると何とかなることも分かりました。
また、リフォーム等が進んでおり、既にユニットバス化した住戸や便器の交換をした住戸もありましたので、今回、管理組合でそれらの更新工事をしなくても良い住戸については、不公平にならないよう、何らかの配慮をすることを具体的に検討しました。案としては、それらの工事費用に相当する金額を返金する案もありましたが、規約で禁止されている修繕積立金の分割になる可能性もあるので、それは行わず、今回の工事に伴うオプション工事(個人負担)費用の減額をすることで決定しました。

手順

管理規約の改正案作成

標準管理規約(単棟型)には、第21条第2項に「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」とありますが、これをさらに踏み込んで「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分及び共用部分の管理上影響を及ぼす部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」とし、具体的にはユニットバス化や給湯器の設置を意識した改正案を作成しました。
そして、修繕積立金の使途(標準管理規約の場合は第28条第1項)に上記の工事を加えることとしました。

総会決議

重要な案件なので、事前に説明会を開催し、この方法が一番合理的であることや、組合員間の不公平が極力出ないような配慮をすることを十分に説明し、臨時総会を開催しました。
議案は以下のとおりです。

  1. 前記管理規約の改正
  2. 給排水管等更新工事の実施
  3. 資金の借入
  4. 管理費会計剰余金の修繕積立金会計への振替処理

裁 判

反対者はいたものの、議案は全て可決され工事が始まったその時に、2名の組合員から以上の決議は全て無効である旨の訴訟を起こされました。「2」、「3」、「4」は、「1」の決議に関連するものなので、実質的には「1」の規約改正の有効性を争った形となりました。
また、更に驚いたのは、原告側の代理人弁護士はマンション管理の業界では誰でも知っている有名な学者さんでした。管理組合側も、従来からお世話になっている弁護士事務所に依頼してここから長い戦いが始まります。

この間、裁判官も途中で3回変わりましたので、裁判官の性格や評判等も調査(検討)しながら弁護士事務所と協議し、裁判を進めました。
原告側は主に区分所有法の原則論的な主張が多く、さすが学者弁護士だなと思いました。
一方、被告(管理組合)としては、区分所有法の原則は尊重するものの、専有部分を同時施工する合理性や、起こり得る不公平に対する配慮などを丁寧に説明し、この建物においては、こうすることが最も合理的であることや、最終的に反対している組合員はわずか2名に過ぎないこと等を主張し、最後は多数決による「住民自治」を尊重するべきであるという点を主張しました。その間、準備書面を作成するための打合せや、関係者に証人として出頭していただくためのお願いなど、大変な苦労がありました。

そうしているうちに工事は進み、原告1名の住戸の縦系列を除いて工事は完了しました。ちなみにもう1名の原告は工事に協力し無事に完了しています。

1審(地裁)・2審(高裁)の判断

第1審の判決が出たのは、管理組合に訴状が届いて約3年7か月後でした。本当に長い戦いでしたが、結果は管理組合の全面勝訴です。
第1審の判決文はこちらをご参照ください。

原告は直ちに控訴し、裁判は更に続きましたが、6か月後に出た第2審(東京高裁)の判決も第1審の判決に加筆する形で原審を全面的に支持する内容でした。
第2審の判決文はこちらをご参照ください。

最高裁判所決定

原告(控訴人)は、高裁の判決を不満として最高裁に上告しましたが、2017年の9月に最高裁判所の決定が出ました。
決定文はこちらをご参照ください。

さいごに

私見ではありますが、マンション管理組合運営は、合理性と衡平性が担保されており、多くの区分所有者が賛成しているのであれば、区分所有者による自治がかなりの範囲で認められるのではないかと感じました。
そもそも民法の特別法として区分所有法ができたのも、民法では「全員一致」でなければできない「共用部分の変更」を見直し、区分所有建物を適正に管理するためには多数決原理を導入する必要があるという考え方に基づくものだと思います。
今回の裁判例だけをとって、「修繕積立金を専有部分の工事に使っても構わない」という短絡的な発想にはならないと思いますが、一つの参考事例にはなると思います。
今までの裁判の論点をまとめた表を以下に作成してみましたのでご参考にしていただければと思います。
各争点と裁判所の判断

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