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みなさまこんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
マンションの外壁におけるタイル仕上げは、高級感があり最近のマンションにはよく使用されていますが、一方で、外壁タイルに大量の浮きや剥離が発見されたり、剥落事故を起こして問題となっている事例が後を絶ちません。法律問題等も関係し、場合によっては売主と瑕疵に関する交渉をしなければならないこともあるのでご参考にしていただければと思います。
なお、今回テーマにしたタイルの工法は、いわゆる「湿式工法」といい、現場で貼付けモルタルを使用してタイルを接着する工法を対象としています(※)。
※「湿式工法」以外では「乾式工法(モルタルを使用せずに有機系の接着剤で張り付ける工法)」や「プレキャスト工法(予め工場でコンクリート板とタイルを一体化させ、完成品を現場で組み立てる工法)」があります。
マンション外壁のタイル仕上げは、タイル職人が1枚ずつ丁寧に仕上げていく時代の後、昭和60年代にモザイクタイル貼り工法が普及しました。
モザイクタイル貼り工法は、予め複数のタイルを紙に張り付けてユニット化したうえで、その紙ごと貼る工法のため、従来の職人ほどの熟練技術を必要とせず、効率が良いという利点があり、また、「高級感がある」「耐久性が高い」「メンテナンス不要」という謳い文句が流行り、多くのマンションの外壁に採用されるようになりました。
急速に普及する一方で、工期や効率を追求するあまり施工精度が低下し「浮き」や「剥落」が散見されるようになりました。しかし、それは施工技術の問題と理解され、タイルの浮きや剥離が大きな問題となることはなかったようです。
そのような中、平成17年(2005年)6月14日に東京都内のオフィスビルの斜壁(斜めになった外壁)のタイルが剥落して通行人2名が負傷する重大事故が発生しました。
そこで国交省は、これを機に全国調査を行い、10年以上経過した3階建て以上の建物で外壁材の落下の危険性のある建物が全国で900件以上あることを把握しました。
詳細は私もわかりませんが、おそらくこの前後から、タイル仕上げは「ノーメンテナンス」ではなく経年劣化で浮きや剥離が発生するものであるという認識に変わっていったと思われます。
ちなみに施工外(経年劣化)の要因としては、外壁が温度や湿度の変化を受けた場合、膨張係数の異なるコンクリート、下地モルタル、貼付けモルタルが伸縮を繰り返し、材料間に疲労が蓄積して各材料の境界面で剥離が発生するといわれています。
建築基準法では、建物所有者の義務として、安全上、防火上、衛生上特に重要な建物は定期的に調査をしてその結果を特定行政庁に報告することになっており、管轄の特定行政庁によっては一定規模以上のマンション(集合住宅)もその対象となっています。なお、特定行政庁というのは、市町村・特別区・都道府県のいずれかになります。お住まいの地域によって異なりますのでご注意ください。
例えば東京都であれば、「5階以上」かつ「共同住宅の用途に供する部分の床面積の合計が1000㎡」のものが3年毎の定期報告の対象になっています。ご存じだったでしょうか?
また、千葉県内については一般的な居住専用のマンションは規模を問わず対象外となっていますが、それぞれの特定行政庁によって異なりますので、外壁にタイルを使用しているマンションにお住まいの方は、後述に参考リンクを記載しておきますので是非一度確認してみてください。
平成20年(2008年)4月1日以前の施行令では、タイルについては手の届く範囲を打診(専用のハンマー等でたたいて浮きや剥離を調査する方法)し、それ以外の範囲は目視(外観を見て判断する)で良いとされていました。
しかし、同年4月1日に施行令が改正(国交省告示第282号)され、
とされました。
分かりやすくいうと、「タイル仕上げの建物は、10年毎に全面打診調査を実施しなさい」ということです。
ただし、「全面」とありますが、打診の対象は「落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分」になります。
つまり平成20年4月以降は、タイル仕上げはメンテナンスフリーではなく、経年劣化により剥離・脱落する危険性があるので、定期的な調査の他、10年に1回は本格的な打診調査が必要と認識されたといえます。
前述した事故や、その後の法改正を経た近年でも、残念ながらタイルの剥落、それによる人や物を巻き込んだ事故は続いています。
近年私が関わった大規模修繕工事(第1回目)等においても、外壁タイルの大量の浮きや剥離が確認された事例が複数あります。
この状況を見ると、単に「経年劣化」とはいい難く「施工不良」ではないかと思われるものもあります。私がお手伝いしている案件でも発生いたしましたが、タイルの浮きや剥離を巡って紛争に発展しているケースもあります。
想定されるリスク
実はタイルの貼替えコストは結構高く、設計価格レベルでは@1,000円/枚程度です。普通のタイル(45mm×95mm)は外壁1m²当たりに200枚使っていますから、10m²程度の浮きでも2,000枚、貼替え費用は200万円にもなります。
大きなマンションではこれが1万枚以上になる場合もありますので莫大な費用負担になることが分かります。全貼替えともなれば、億を超える想定外の出費になることも覚悟しなければなりません。
また、事故そのものについては言うまでもありませんが、事故にならない場合でも、剥落が起きればその対応に追われることになり、様々な想定外の負担や出費が生じることになります。単純な補修だけで済めば良いですが、経年劣化ではなく施工不良の疑いがあれば、第三者による調査や施工会社との交渉、場合によっては訴訟など、弁護士費用などの費用面はもちろんですが、管理組合の負担が大きくなります。
さらに、事故を起こしニュースにでもなってしまうと、マンション名が不本意な形でインターネット上に残り続けてしまうこともあり得ます。ビル名を変えたところもあるようですが・・・住みにくさを感じるようになったり、売却・賃貸しづらくなるようなケースもあるかもしれません。
定期報告の対象となっているマンションであれば、報告を怠ったりした際に罰則が適用される可能性もあります(建築基準法第101条によれば100万円以下の罰金にあたるようです)。今のところ、罰則が適用されたマンションの話は聞いたことがありません。
以前のタイルの貼付けは、コンクリート面をまずはモルタルで平滑にし、その後貼付けモルタルを用いてタイルを接着する工法が主流でした。
しかし、コンクリートの打設技術や型枠離型剤の進歩により、コンクリートの仕上り制度が向上したため、下地補修モルタルの工程を省いた直貼り工法が普及し始めました。
国土交通省大臣官房営繕部が発行している「公共建築工事標準仕様書」というものがあり、この標準仕様書は、建築工事施工の際の指針となっています。
タイル施工に関しては、平成7年(1995年)版では、コンクリート下地にタイルを張る場合の留意事項として、
とだけ書かれています。
ところが平成17年(2005年)に同仕様書が改定され、タイル貼り付けの基準がかなり詳細に書かれています。
コンクリート下地については、以下の通りです。
どうですか、かなり詳細になっていますよね。さらに、清掃や目荒しの方法についても別表を示し、その方法や効果の違い等を一覧表として示しています。
この標準仕様書の大幅改定と前述の重大事故の発生が平成17年であることに何らかのものを感じるのは私だけではないと思います。
平成17年以降の仕様書に基づいて確実に施工されていれば、タイルの大量の浮きや剥離は発生しなかったと思います。
現在タイルの大量の浮き等で問題となっているマンションの多くは、平成17年以前に建設されたマンションか、以降であっても突貫工事等で標準仕様書通りに施工されなかったと思われるマンションです。
例えば、下地の清掃(散水・ケレン・離型剤の除去等)をきちんとやっていない、貼付けモルタルを塗布した後のオープンタイム(所定の接着強度が出るまでの待ち時間)を十分にとっていない等が考えられます。
では正常に施工したとした場合、経年劣化でどれだけ浮きや剥離が発生するのか、できれば国交省などの公認された数値を知りたいものですよね。逆にいうと、その数値よりも悪ければ施工不良といえるのかということです。
コンクリート躯体のひび割れについては、国交省でも一定の数値を公表していますし、業界でも瑕疵や保証の基準が出来上がっています。しかし、タイルの浮きや剥離については国交省も明確な基準を出していません。
一般的に使われている基準は、「タイル施工総面積に対して何パーセントの浮きや剥離があるか」といういい方をし、●●%と表記します。
BELCA(ロングライフビル推進協会)では、5年で3%(1年で0.6%)、マンション管理業協会では、14.5年で7%(1年で0.48%)という数字を出していますが、これは施工不良があった建物も母数に含んでの調査結果と思われるため、あくまでも参考数字として考えられています。
タイルの浮きに関するレポートとしては、建築家の鈴木哲夫氏が「防水ジャーナル」2016年1月号に注目すべき寄稿をされています。
同氏は、実際に補修が行われた200件以上のタイル貼り工法の建物を調査し、施工不良があった場合とそうでない場合に層別して統計を取り、その結果、施工不良がない建物においては1年で0.19%という数字を出しています。
私がお手伝いした過去の大規模修繕工事においても、12年程度経過していても浮き率が2%程度や、1%未満の物件もありましたので同氏のおっしゃることは理解できます。
ここまでで、外壁タイルが抱える問題について何となくご理解いただけたのではと思いますが、もう一つ問題があります。
それは、外壁のタイルに大量の浮きや剥離が存在することが発見されるのが、10年以上経過して第1回目の大規模修繕工事を実施する時に多いことです。なぜかというと、そのとき初めて外壁全面に足場を組んで打診調査するからです。
近年の事故例には築10年未満のマンションも散見されますが、なぜ10年以上経って気づくのが問題なのか。それは、アフターサービスや住宅品確法の対象外となってしまうからです。
外壁タイルの浮きや剥離自体は、瑕疵担保期間を10年と定めた「品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」で明確に規定されているわけではなく、ほとんどの場合は売主とのアフターサービス基準で決められています。その期間も2年〜10年と幅が広く、また、2年〜5年が多いようです。
そして、10年以上経過した第1回目の大規模修繕工事を実施する時に初めて「事件?」に気づき、売主や建設会社に何らかの苦情を申し入れるのですが、アフターサービス期間を経過しているためなかなか対応してもらえず、結局は「泣き寝入り」の形で、自分たちの費用負担で補修をしている管理組合も多いのではないでしょうか。
経年劣化によるタイルの浮きや剥離は、建物の形状、日照等のほか、地震(例えば3.11)の影響などもありますから、全ての建物に対して同様の判断はできないと思いますが、私は、正常な施工であれば0.2%/年の指標を支持しています。つまり、12年目の大規模修繕工事のときなら、0.2×12年=2.4%程度であれば正常で、これが8%や10%以上であったら何らかの施工不良が原因である可能性が高いと思っています。
管理組合が、施工不良つまり瑕疵ではないかと思ったときは、まずは売主に連絡し売主の見解を求めますが、多くの場合は、施工不良には言及せず「法律上の責任期間を過ぎている」とか「アフターサービス基準の適用期間を過ぎている」といって、対応してもらえません。
しかし、大手で名前の通った売主の場合は、明らかな施工不良があった場合は、「企業の道義的責任」という名目で補修費用の一部負担に応じる場合もあります。
また、品確法やアフターサービスとは関係なく、「施工不良」であることの証明が管理組合側でできるのであれば、民法上(709条)の「不法行為(消滅時効は20年)」として、裁判上で争うことも可能です。
有名な事件としては「別府マンション事件」の最高裁判例が引き合いに出されますが、この詳細については別の機会にご紹介できればと思います。
今回も長くなりましたが、外壁タイルが抱える問題についてご理解いただけたでしょうか。
平成17年の事故以降、法改正等を経た現在も、依然として見聞きするマンション外壁のタイルの浮きや剥離問題、そしてそれを補修する場合の巨額の費用、更には売主や建設会社の誠意の感じられない対応などを拝見していると、タイル仕上げのマンションは高級感はあるものの、法律の変更も相俟って、運が悪ければ管理にかなりのコストがかかる場合があることを認識しておく必要があると思います。
そして、タイルの浮きなどに関して、国交省で早く一定の基準や統計等を公表していただきたいと思っています。
前述のように、アフターサービス期間を経過した場合、例え施工不良であってもすんなり対応してもらえる可能性は低くなります。新築マンションの場合、可能であればアフターサービス期間内かつ品確法適用内の引渡し後10年を迎える前に点検を行うことをオススメいたします。
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