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ホーム > お知らせ&日記(ブログ) > マンション管理士 業務日誌 > 事例:住宅紛争審査会での調停〜裁判まで<マンションに欠陥が見つかったら②>

2021年04月08日  [ カテゴリ:マンション管理士 業務日誌 ]

みなさまこんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。

前回「マンションに欠陥が見つかったら①~住宅品確法とその活用」は、住宅品確法の立法趣旨と、マンション管理組合が活用できる3つの制度「1.瑕疵保証制度」「2.住宅性能表示制度」「3.裁判外紛争処理制度」についてご紹介しました。

今回は少し掘り下げて、実際のマンションで発覚した「大量の外壁タイルの浮きや剥離」「構造スリットの未施工」から、実際に「3.裁判外紛争処理制度」の「住宅紛争審査会での調停」を活用した事例、そして裁判へと繋がるまでの経緯等をご紹介していきます。

1.マンション概要

対象となったマンションは、当事務所が大規模修繕工事コンサルティングを受託したマンションです。

該当マンションの概要
  • 築年数:13年
  • 売主:大手デベロッパー
  • 建設住宅性能評価書:あり

2.調停までの経緯

10%超のタイルに浮きや剥離。未施工も発覚

大規模修繕工事の設計段階から外壁等のタイルの浮き・剥離が多いことは分かっていましたが、工事実施の際に総足場を架けて調査したら、総タイル面積の10%以上のタイルに浮きや剥離が発見されました
また、設計図で指示されていた構造スリットの一部が未施工だったことも判明しました

【写真】外壁タイルの浮きや剥離の様子01【写真】外壁タイルの浮きや剥離の様子02【写真】外壁タイルの浮きや剥離の様子03
発見された外壁のタイル浮きや剥離の様子。浮きタイルを撤去したら、壁にほぼタイルがなくなるところも。また、タイルの下に木片があったり、目地ずれ等も確認されました

補修費用の負担を求めるも、売主は応じず...

これだけのタイルを当初の予定通りに修繕した場合は数千万円の追加費用がかかることが判明したので、売主に対し「未施工となっている構造スリットの速やかな施工とタイルの補修費用の負担」を求めましたが、売主からは「見舞金」として数百万円の支払意思はあったものの、全体的には誠意のある回答ではありませんでした

住宅紛争審査会に「調停」の申し立てへ

理事会で検討した結果、不法行為による訴訟という選択肢もありましたが、このマンションは「建設住宅性能評価書」の交付を受けていたので、管理組合で臨時総会を開催し、住宅紛争審査会に対し「調停」を申し立てることにしました。

【写真】対象マンションの建設住宅性能評価書
対象マンションの建設住宅性能評価書。性能項目毎に、等級や数値が示されています。
これがないと、裁判外紛争処理制度(今回の事案だと、住宅紛争審査会による「調停」)を利用できません。

3.住宅紛争審査会での調停

調停では、弁護士1名と建築士2名が調停委員として管理組合、売主双方の意見を聞く形で数回実施されました。
売主側の主張をまとめると以下のとおりです。

売主側の主張

  1. タイルの施工に問題があったことは認めるが、売主としての瑕疵担保責任期間の10年は経過しており、タイルの施工不良に対しての損害賠償責任はない
  2. 設計図に記載のある構造スリットに関しては、自社で再検証のうえ、必要と判断したら施工する
  3. 交渉段階で提示した数百万円は、売主としての社会的責任を考慮したうえでの「見舞金」であり、金額の算定根拠はない

品確法による調停は困難。裁判なら「不法行為」か

調停委員としての弁護士の意見も、10年を経過しているので品確法による調停は難しいと思うことや、民法上の「債務不履行」にしても10年の時効を過ぎているため、訴えるのであれば、施工業者を「不法行為」で訴えるしかないのではないかという内容でした

管理組合は、調停を中止したうえで裁判に移行することも検討しましたが、弁護士費用の件や、長期化すれば理事会の負担も大きくなることなどを考え住民アンケートを実施した結果、見舞金の増額を求める形で引き続き調停の場で解決策を模索することにしました。

しかし、最初は「協議してまいりたい」といっていた売主ですが、調停の場においても一向に進展する気配がなく、また、本件以外の諸事情も重なって調停は打ち切りとなりました。

裁判で、売主・施工業者の不法行為責任を追及へ

やむを得ず、最後の手段である訴訟について住民への経過説明会を実施した結果、裁判で追及するべしとの意見が多数だったため、訴訟のための臨時総会を開催。売主や施工業者の不法行為責任に対する「裁判申し立て」が決定し、現在も係争中です。

これまでの経緯をまとめると、以下のようになります。

一連の経緯

  1. 大規模修繕工事を控え、調査を実施。大量のタイルの浮き・剥離や未施工箇所が発覚
  2. 売主に対し「未施工箇所の速やかな施工とタイルの補修費用負担」を求める
  3. 売主から「見舞金」として数百万円の支払意思を含めた回答がある
  4. その後も金額の増額を求めて交渉を重ねたが、のらりくらりの回答に納得がいかず、理事会で住宅紛争審査会への「調停申し立て」を発案
  5. 臨時総会を開催し「調停申し立て」を決定
  6. 住宅紛争審査会による調停を数回実施
    • 調停委員より、品確法による調停は困難との見解が示される
    • 調停委員より、訴えるなら「不法行為」という形しかないのではとの見解が示される
    • また、不法行為の消滅時効も迫っているとの説明を受ける
  7. 期待する結果を得られないまま、調停の打ち切り
  8. 経過説明会の結果、裁判支持の意見が多数だったため、訴訟のための臨時総会を開催。「裁判申し立て」が決定
  9. 裁判を申し立て、現在係争中

4.調停を終えて

今回の調停について、個人的な見解等を交えながら、ポイントをまとめていきます。

住宅紛争審査会への申立ては、施工不良が明らかでも、品確法の適用がある「10年以内」でなければ、期待するような結果は得られない

品確法をご存じの方からすれば「当然だろう」というご指摘があると思います。
もちろん、この点を理解せず調停を申し立てた訳ではありません。

ではなぜ敢えて調停を申し立てたのか-。
第一に、出来ることなら売主としての社会的責任を喚起し、裁判をせずに解決を図りたい意図があったからです。前述の通り、不法行為による訴訟は最初から視野に入っていました。
もちろんそれはこちらの都合であって「10年の壁」を超えられる可能性はゼロです。

第二に、今回のケースでは、「10年の壁を超えられるのでは」というより「何とか超えたい」と強く願う理由がありました。
それは、「住宅性能評価を受けている優良マンション」という触れ込みで販売していた上で発覚した明らかな「施工不良実態」だったから、です。
住宅購入者(管理組合)の立場からすれば、到底容認できることではないことがご理解いただけるのではないでしょうか。

第三に、我々が事前に収集した情報では、今回同様10年を過ぎて発覚した同様の問題(タイルの剥離)に対し、大手デベロッパーが実際に補修したり、補修費用を負担したりした事例があったからです。
しかし、数百万円の見舞金支払意思はあったものの、のらりくらりの回答が続き、調停の場であれば、その協議がより良い形で進むのではないかという期待がありました。

こうした実態と経緯が伴えば、たとえ10年を超えていたとしても、「欠陥住宅の供給を防止し、住宅購入者の利益を守る」という立法趣旨の下、訴訟を起こすことなく、より良い解決に導ける可能性があるのでは、という期待、「ひょっとしたら」という願いがあったのです。

しかし、調停外の解決策(不法行為による訴訟)も示されたものの、あくまでも品確法ベースの調停であり、相手の側の主張が大きく変わることもなく、住宅購入者(管理組合)が望むような結果は得られませんでした。
たとえ明らかな「施工不良実態」があり相手が施工不良を認めていても、残念ながら調停で状況を変えることは出来ないのです

そして、調停当初の売主の「協議してまいりたい」という答弁は、時効等を狙った時間稼ぎの作戦でしかないことも分かりました
僅かでも相手の良心に期待するなどお人好しだと言われればそうかもしれませんが、こうした事実も含めてより多くの管理組合に知っていただき、早めの対策に繋げて欲しい、また、同じような状況になった際に参考にして欲しいと強く願っています。

結果だけ見れば「当然だろう」と思われても仕方がありませんが、住宅購入者(管理組合)の側としては、やはり納得できない、大変残念で不満が残る結果でした。

中立な第三者専門機関による見解を聞くことが出来、管理組合が低コストで行える最初の対応として、また、今後の方針を決める一助として、一定の価値はあるのではないか

今回の調停結果は不本意なものでしたが、それ抜きに冷静に考えた場合、(たとえ築10年以上であっても)管理組合がこの制度を利用する価値はあるのではないかと思いました。

  • 中立な第三者立ち会いの下、お互いの主張を冷静に確認できること
  • 調停委員である専門家(弁護士・建築士)から、中立な第三者としての見解を聞けること
  • 調停外の解決策を提示してもらえる可能性があること(今回であれば不法行為による訴訟という手段が示されました)
  • ゼロから弁護士等を探し、同等のコストや労力で同等の結論にたどり着くのは難しいように感じたこと

たとえ不本意な結論であっても、法律の下に設立された中立な第三者専門機関ですから、単に「相談した弁護士にこう言われました」よりは、合意形成・意思決定しやすいように思います。
しかしながら相応に時間はかかりますので、コストを掛けてでも早く結論を出したい場合は、この手の問題に強い弁護士に相談する方が早いかもしれません。
また、前述の事例のように不法行為による訴訟を考える場合、消滅時効があるのでくれぐれもご注意ください。問題が発覚したら、速やかにいつ時効になるかをご確認いただくのが良いと思います。

それと、後述しますが、争点によっては(今回であれば、築10年以上で「タイルの浮き・剥離」だけであれば)門前払いになる可能性もありますのでご注意ください

タイルの浮き・剥離の問題は、住宅紛争審査会での事案として適当なのか?

今回の事案には、構造スリットの未施工という問題があり、これ自体は「構造耐力上主要な部分の瑕疵」といえるので申立てが門前払いとなることはありませんでしたしかし、タイルの浮きや剥離はどう考えたらよいのか、私自身も迷うところです

施工不良によるタイルの浮きや剥離は、落下したタイルによって重大な人身事故に発展する可能性もありますし、区分所有法第9条※1も絡んで管理組合にとっては深刻な問題です。

しかし、「タイル」そのものは外装材なので構造耐力上主要な部分には当たりません
過去に私が読んだ参考書や専門家の意見によると、外壁を覆っているタイルが剥がれてしまうとコンクリートが剥き出しになり、そこから雨水が室内に侵入するので「雨水の侵入を防止する部分」と解釈できるという説もありました。私もこの考えには賛成ですが、今回の場合は「10年の壁」がネックになってしまいました 。

※1 マンションの設置又は保存に瑕疵があり、他人に損害を与えた場合はその瑕疵は共用部分の設置又は保存にあると推定する

「住宅性能評価」という言葉や「品確法(とその制度)」を過信しないこと

大前提は、新築後10年以内のマンションで、構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分、それと住宅性能評価書に記載された各項目の性能についてであること、です
そこから外れるものは、裁判で争うとか自衛が必要になります。くれぐれも過信しないことが肝要です。

【さいごに】引渡し後10年を迎える前に点検を!

前回、前々回と、2回続けて外壁タイルや品確法についてお伝えしてきましたが、いかがだったでしょうか。

品確法は、その内容や効力の範囲をきちんと理解してうまく活用出来れば、住宅購入者(管理組合)にとって心強い味方になってくれます。
しかしながら、今回のケースのように10年経過した後で発覚した問題に対しては無力に等しいものです。
そして、マンションにおいては、10年を経過した後に実施する大規模修繕工事の際に問題が発覚することが多いのです。

このようなことになる前ーー引渡し後10年を迎える前に、外壁と屋上防水の点検を行うことを強くオススメいたします

よろしければ、前回、前々回の記事も併せてご覧ください。
マンションに欠陥が見つかったら①〜住宅品確法とその活用
施工不良、剥落事故...マンションの外壁タイル問題について

外壁タイルの訴訟事例については、以下をご覧ください。
新築マンションで施工不良!外壁タイルの訴訟事例とポイント<マンションに欠陥が見つかったら③>


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