業界トップクラスの実績を持つ千葉のマンション管理士 事務所所長 マンション管理士 重松秀士が、マンション管理 コンサルタントならではのお役立ち情報をお届けします。 携帯版
みなさまこんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
前回「マンションに欠陥が見つかったら①~住宅品確法とその活用」は、住宅品確法の立法趣旨と、マンション管理組合が活用できる3つの制度「1.瑕疵保証制度」「2.住宅性能表示制度」「3.裁判外紛争処理制度」についてご紹介しました。
今回は少し掘り下げて、実際のマンションで発覚した「大量の外壁タイルの浮きや剥離」「構造スリットの未施工」から、実際に「3.裁判外紛争処理制度」の「住宅紛争審査会での調停」を活用した事例、そして裁判へと繋がるまでの経緯等をご紹介していきます。
対象となったマンションは、当事務所が大規模修繕工事コンサルティングを受託したマンションです。
大規模修繕工事の設計段階から外壁等のタイルの浮き・剥離が多いことは分かっていましたが、工事実施の際に総足場を架けて調査したら、総タイル面積の10%以上のタイルに浮きや剥離が発見されました。
また、設計図で指示されていた構造スリットの一部が未施工だったことも判明しました。
これだけのタイルを当初の予定通りに修繕した場合は数千万円の追加費用がかかることが判明したので、売主に対し「未施工となっている構造スリットの速やかな施工とタイルの補修費用の負担」を求めましたが、売主からは「見舞金」として数百万円の支払意思はあったものの、全体的には誠意のある回答ではありませんでした。
理事会で検討した結果、不法行為による訴訟という選択肢もありましたが、このマンションは「建設住宅性能評価書」の交付を受けていたので、管理組合で臨時総会を開催し、住宅紛争審査会に対し「調停」を申し立てることにしました。
調停では、弁護士1名と建築士2名が調停委員として管理組合、売主双方の意見を聞く形で数回実施されました。
売主側の主張をまとめると以下のとおりです。
調停委員としての弁護士の意見も、10年を経過しているので品確法による調停は難しいと思うことや、民法上の「債務不履行」にしても10年の時効を過ぎているため、訴えるのであれば、施工業者を「不法行為」で訴えるしかないのではないかという内容でした。
管理組合は、調停を中止したうえで裁判に移行することも検討しましたが、弁護士費用の件や、長期化すれば理事会の負担も大きくなることなどを考え住民アンケートを実施した結果、見舞金の増額を求める形で引き続き調停の場で解決策を模索することにしました。
しかし、最初は「協議してまいりたい」といっていた売主ですが、調停の場においても一向に進展する気配がなく、また、本件以外の諸事情も重なって調停は打ち切りとなりました。
やむを得ず、最後の手段である訴訟について住民への経過説明会を実施した結果、裁判で追及するべしとの意見が多数だったため、訴訟のための臨時総会を開催。売主や施工業者の不法行為責任に対する「裁判申し立て」が決定し、現在も係争中です。
これまでの経緯をまとめると、以下のようになります。
今回の調停について、個人的な見解等を交えながら、ポイントをまとめていきます。
品確法をご存じの方からすれば「当然だろう」というご指摘があると思います。
もちろん、この点を理解せず調停を申し立てた訳ではありません。
ではなぜ敢えて調停を申し立てたのか-。
第一に、出来ることなら売主としての社会的責任を喚起し、裁判をせずに解決を図りたい意図があったからです。前述の通り、不法行為による訴訟は最初から視野に入っていました。
もちろんそれはこちらの都合であって「10年の壁」を超えられる可能性はゼロです。
第二に、今回のケースでは、「10年の壁を超えられるのでは」というより「何とか超えたい」と強く願う理由がありました。
それは、「住宅性能評価を受けている優良マンション」という触れ込みで販売していた上で発覚した明らかな「施工不良実態」だったから、です。
住宅購入者(管理組合)の立場からすれば、到底容認できることではないことがご理解いただけるのではないでしょうか。
第三に、我々が事前に収集した情報では、今回同様10年を過ぎて発覚した同様の問題(タイルの剥離)に対し、大手デベロッパーが実際に補修したり、補修費用を負担したりした事例があったからです。
しかし、数百万円の見舞金支払意思はあったものの、のらりくらりの回答が続き、調停の場であれば、その協議がより良い形で進むのではないかという期待がありました。
こうした実態と経緯が伴えば、たとえ10年を超えていたとしても、「欠陥住宅の供給を防止し、住宅購入者の利益を守る」という立法趣旨の下、訴訟を起こすことなく、より良い解決に導ける可能性があるのでは、という期待、「ひょっとしたら」という願いがあったのです。
しかし、調停外の解決策(不法行為による訴訟)も示されたものの、あくまでも品確法ベースの調停であり、相手の側の主張が大きく変わることもなく、住宅購入者(管理組合)が望むような結果は得られませんでした。
たとえ明らかな「施工不良実態」があり相手が施工不良を認めていても、残念ながら調停で状況を変えることは出来ないのです。
そして、調停当初の売主の「協議してまいりたい」という答弁は、時効等を狙った時間稼ぎの作戦でしかないことも分かりました。
僅かでも相手の良心に期待するなどお人好しだと言われればそうかもしれませんが、こうした事実も含めてより多くの管理組合に知っていただき、早めの対策に繋げて欲しい、また、同じような状況になった際に参考にして欲しいと強く願っています。
結果だけ見れば「当然だろう」と思われても仕方がありませんが、住宅購入者(管理組合)の側としては、やはり納得できない、大変残念で不満が残る結果でした。
今回の調停結果は不本意なものでしたが、それ抜きに冷静に考えた場合、(たとえ築10年以上であっても)管理組合がこの制度を利用する価値はあるのではないかと思いました。
たとえ不本意な結論であっても、法律の下に設立された中立な第三者専門機関ですから、単に「相談した弁護士にこう言われました」よりは、合意形成・意思決定しやすいように思います。
しかしながら相応に時間はかかりますので、コストを掛けてでも早く結論を出したい場合は、この手の問題に強い弁護士に相談する方が早いかもしれません。
また、前述の事例のように不法行為による訴訟を考える場合、消滅時効があるのでくれぐれもご注意ください。問題が発覚したら、速やかにいつ時効になるかをご確認いただくのが良いと思います。
それと、後述しますが、争点によっては(今回であれば、築10年以上で「タイルの浮き・剥離」だけであれば)門前払いになる可能性もありますのでご注意ください。
今回の事案には、構造スリットの未施工という問題があり、これ自体は「構造耐力上主要な部分の瑕疵」といえるので申立てが門前払いとなることはありませんでした。しかし、タイルの浮きや剥離はどう考えたらよいのか、私自身も迷うところです。
施工不良によるタイルの浮きや剥離は、落下したタイルによって重大な人身事故に発展する可能性もありますし、区分所有法第9条※1も絡んで管理組合にとっては深刻な問題です。
しかし、「タイル」そのものは外装材なので構造耐力上主要な部分には当たりません。
過去に私が読んだ参考書や専門家の意見によると、外壁を覆っているタイルが剥がれてしまうとコンクリートが剥き出しになり、そこから雨水が室内に侵入するので「雨水の侵入を防止する部分」と解釈できるという説もありました。私もこの考えには賛成ですが、今回の場合は「10年の壁」がネックになってしまいました 。
※1 マンションの設置又は保存に瑕疵があり、他人に損害を与えた場合はその瑕疵は共用部分の設置又は保存にあると推定する
大前提は、新築後10年以内のマンションで、構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分、それと住宅性能評価書に記載された各項目の性能についてであること、です。
そこから外れるものは、裁判で争うとか自衛が必要になります。くれぐれも過信しないことが肝要です。
前回、前々回と、2回続けて外壁タイルや品確法についてお伝えしてきましたが、いかがだったでしょうか。
品確法は、その内容や効力の範囲をきちんと理解してうまく活用出来れば、住宅購入者(管理組合)にとって心強い味方になってくれます。
しかしながら、今回のケースのように10年経過した後で発覚した問題に対しては無力に等しいものです。
そして、マンションにおいては、10年を経過した後に実施する大規模修繕工事の際に問題が発覚することが多いのです。
今回ご紹介した事例の裁判は、2021年3月現在、まだ係争中ですが、このようなことになる前ーー引渡し後10年を迎える前に、外壁と屋上防水の点検を行うことを強くオススメいたします。
よろしければ、前回、前々回の記事も併せてご覧ください。
マンションに欠陥が見つかったら①〜住宅品確法とその活用
施工不良、剥落事故...マンションの外壁タイル問題について
マンション管理コンサルタント マンション管理士 重松 秀士(プロフィール| )
資料請求 無料相談・お問い合わせ マンション管理士事務所
マンション管理一筋! 業界トップクラスの実績、充実の設備と支援体制が自慢の重松マンション管理士事務所の詳しい業務については、マンション管理士事務所HPをご覧下さい。
「マンション管理相談」「顧問契約(管理組合顧問)」「大規模修繕工事コンサルティング」「建物診断・長期修繕計画作成のサポート」「管理規約の改正」「管理費削減」「管理会社変更」「管理費滞納」「理事長代行」「マンション自主管理サポート」「簡易ホームページ作成・運営支援」など、各業務に関する詳細の内容や各業務の「資料請求」、「スタッフ紹介」や「お客様インタビュー」などをご用意しています。
コメント
▼コメント投稿フォーム
※可能な限り頂戴したコメントには返信するように努めておりますが、必ずしも返信できる訳ではありませんこと、あらかじめご理解の上ご投稿ください。
※無料相談をご希望の方は、お問い合わせフォームからお願いいたします。